20話 真っ赤
次の日、朝の武道場。
なぜか偶然通りかかった世楽は、扉が開いている事に気が付き、ちらりと覗く。
「……累?」
藍色の剣道着を身につけて竹刀を一定のリズムで振る累に、もう少しだけ覗く事に。
「はッ、はッ、はッ」
何百と素振りをしている累は、汗を滴らせ、結んだ髪を空中で踊らせている。
「はぁ、はぁ、はぁ」
一段落ついたのか、素振りを止めて肩で息をする累は、水分補給と汗の処理をするために移動しようとして。
ピトッ。
「ひゃッ!?」
不意にうなじに極冷えの涼感を感じて、可愛く悲鳴を上げる累に、世楽は笑った。
「お疲れ。そこに置いてあった物だけど良かった?」
キンキンに冷えて結露したボトルと乾いたタオルを手渡す世楽に、累は照れ隠しするように素っ気なさを纏わせて言った。
「あ、ありがと」
頬がほんのり赤いのは動いたからなのか世楽に会えたからなのか。どちらにしろ頬の赤い累の隣に尻を落とした世楽は、横目に累を眺める。
滴る汗を拭き取りながら、垂れる髪を耳に流してピンク色の唇がボトルの口とキスをする。
「ん、ん、っぷはぁ」
口を放すと、ぷるんとした唇がキラキラと濡れていて、それを舌舐めずりで拭き取る累は、釘付けになった世楽の視線に気付いて。
「な、なによ」
乱れそうになる前えりを、さらしを巻いた胸を隠すようにして綺麗に整える累に、世楽は微笑む。
「いいや、何でも。累は綺麗で可愛いなぁと思って」
トクンッ。
累の胸でそういう音が鳴る。急に顔が熱を帯びて熱くなり、脳裏に元就の言葉が鮮明に蘇る。
『累君。やはり世楽君に見初みそめているのかな?』
(私が世楽の事を好き!?あり得ない。絶対にあり得……ない)
横目で見上げるようにソッと見る累は、鼓動が更に速くなるのを感じる。
(………)
世楽は累に最低な事をした。初対面で腰を触るわ、態とおっぱい揉むわ、どんな時にでも平気で可愛いって言うわ。なのに…………。
(……なに、この気持ち……ドキドキする……?)
顔を染めて見とれる累の視線に気が付いた世楽は、優しい笑みを零す。
「ん?」
「……ッ!?」
視線がぶつかると、累は結んだ髪を振り乱して顔を背けた。下唇を甘噛みして、恥ずかしそうに目をキュッと閉じる。
(だめ。いつもだと直視出来るのに………直視出来ない)
累の様子に違和感を感じた世楽は、悪戯っぽい笑みを浮かべると、真っ赤になった耳先に口を近づけ。
「ふぅ~」
「ひゃわッ!?」
累を可愛く鳴かせた。
「な、何するのッ!?」
耳を押さえて瞳を大きくする累。
「どうした?いつもとちょっと違うけど」
「な、何でもないわよ」
ムスッとしてまた顔を背けた累に、世楽は軽く笑う。
(どうしてこういう時だけちょっと優しくなるのよ)
ツンツンした対応をする累だが、この空間が嫌という感覚はなく、むしろ居心地も良くてもっと居たいと思っていた。あと、嬉しそうな表情が隠しきれていない事は黙っておこう。




