02話 入学
バリーン!
それは突然のことだった。
三階に位置する校長室の二メートルほどの巨大な窓ガラスが一瞬で粉砕し、硝子を派手に巻き散らかしてその少年は入ってきた。
「どーっも!高校一年生の絶咲世楽でぇぇぇぇっす!」
ひゅっと綺麗に着地を決めて見せた世楽は、めちゃくちゃドヤ顔でピカンと眩しくハゲた校長先生にピースをかました。
それは至ってほんの少し前の事。
大草原から東京に下りてきた世楽は、空高くまで聳え立つビルや、とても大きな最新型のモニターに映る綺麗な美人さんや色々な広告、そして賑わって少しうるさい人々に、これでもかと瞳をキラキラと輝かせていた。
「うおおぉぉぉぉ!すっげぇぇぇ!!都会最高ぉぉぉぉぉぉ!」
一人でおかしく叫びまくる世楽は、往来する人々の視線を過多に集め、その視線の大半が「何この人……」という現実的で辛辣なものだった。
そんな事を気にした様子もなくウキウキと鼻歌でも歌いそうなテンションで東京を歩く世楽は、その時に気が付いてしまった。
「………お、俺って」
立ち止まって俯いた世楽は、ガクッと膝を九十度に折ると、両の掌を地面へ叩き付けた。
「………学校どこにあるか分かんねぇ」
絶望に満ちたようにボソリと呟く世楽。そしてその光景を怪訝そうに引いて見る人々。
「お、俺……どうすれば、いいんだ」
「何しとんじゃ!!」と激しく唾を飛ばしまくって赫怒する世楽を育てたばあちゃんが脳裏に浮かんだ。
想像しただけで身震いした世楽は自分自身を抱き締めて、よろりと立ち上がる。
そして先程とは別人のように憂鬱な気分を満々にして、歩きだそうとした。そこで。
「あなた、ここで何をしているの?」
「ん?」
透き通った綺麗な天使のような声に振り返った世楽は、その者を見た瞬間に目を見開き、ぽかんと口を開けた。
「あなた、天華羽高校の生徒よね?こんな時間に遊んでちゃダメよ?」
聖母のように美しく、はにかむ笑みが天使……いや、女神のようなその人に、世楽は目を釘付けにされる。だが、次の瞬間、世楽はギュッと両手を覆うように握り取った。
「あんた!もしかして天華羽高校の人か!?」
今さっきまであった絶望は希望へと変わり、顔と顔の距離は熱い吐息が鮮明に伝わるほどになっている。
「あ、え、えっと、そ、そうよ?」
唐突の手と手の触れ合いと、無邪気が残る希望に満ちた顔の距離に、ふぁっと頬を朱に染めるその綺麗な人は、勿怪な行動にあたふたと対応する。
「そっかぁ!良かったぁ。俺今日から学校なんだよ。でも道に迷っちゃってさぁ」
同じ学校の生徒と分かった世楽は、初対面とは思えない程のコミュニケーションで話を進めていく。
そして、学校に一緒に行く事になった世楽とその人。
道中。
「なぁ、あんた。名前は?」
隣を歩くその綺麗な人は、学校指定の制服をきちんと着こなし、スクールバッグを両手に「あっ」と思い出したように口を開く。
「ごめんなさい。私は天華羽高校の三年三組、クララ・バートンよ。よろしく」
「三年だったのか!?先に言ってくれよ全く」
と言いつつ、年上だから何だと言っているように空を仰いだ。
「俺は一年の、いや……一年になる?………まぁいいか。絶咲世楽だ。よろしく、クララ」
歳の差と言う言葉を無知の世楽は、二つ上の先輩にでも容赦なくタメ口で喋り始める。
「世楽君。いくら学校が分からないからってサボってどっか行くのはダメだよ?いい?」
「え、そ、それはちょっと……」
「サボりはダメ。いい?」
「あ!そうだ!」
パン!っと手を叩いて乾いた音を奏でた世楽は、無理矢理と話題を逸らせた。
「俺校長室に行かなきゃ行けないんだ。あとで案内してくれね?次いでに校内も」
掌をしっかりとあわせ、合掌して頼み込む世楽に、クララは聖母のように綺麗にはにかんだ。
「いいよ。案内するわ」
それから学校にはあっと言う間に到着してしまい、世楽は綺麗に掃かれた校門の先へ踏み込む。
「これが、学校かぁ!」
五階建ての教室棟から部室棟、文化棟、グラウンド、体育館その他諸々へ分岐する大きな天華羽高校を眼前に、世楽は息の呑んだ。
「世楽君。少し遅いけど、入学おめでとう」
サボらなければ良かった。と後悔を胸に刻む世楽は、はにかんで祝ってくれるクララに、笑顔を返した。
そして二人で校舎に入る前に、クララは立ち止まって口を開く。
「見ての通り天華羽高校は五階建てだけど、校長室はあそこよ」
そして白く綺麗な腕が伸びた先に指された所、三階。
それを這うように視線を送る世楽は、数秒校長室にある二メートルの巨大な窓ガラスを見つめ、ニッと笑う。
「ありがとクララ。じゃあまたいつかな!」
その言葉を残して、世楽は、校長室目掛けて思いっ切りに跳びはねた。
「えっ、ちょっ!?」
並外れた跳躍力を持つ世楽を目の前に、遙か上へ跳んだ世楽を、クララは唖然と見つめる。そして。
バリーン!
巨大な窓ガラスが一瞬にして粉砕され、世楽の姿が吸い込まれるように消えた。
遠くから世楽の自己紹介が聞こえ、絶句していたクララは、(三階までジャンプ!?)と驚くも、綺麗で白く細い手を口元に、クススと笑った。
「面白いな、世楽君」
名前:クララ・バートン
年齢:17歳(高校三年生)
好きな物・事:読書 甘い物 お菓子作り
嫌いな物・事:ネズミ 虫 運動
ちょこっと:真面目です
風格:目=黄色 髪=金髪、腰まで伸びたロング