09 技術
診察を終えて部屋から出てきたクロ先生、何故かお顔が真っ赤ですね。
『ツァイシャ女王様に匹敵するよ……』
何やらつぶやいておいでです。
確かに、ヴェルネッサさんのまとう威厳は、ツァイシャ女王様に匹敵するかと。
「それじゃ、お大事に」
ありがとうございました、先生。
相変わらずのふくれっ面なアレは放置して、
ヴェルネッサさんにお話しを伺いましょう。
今回の訪問、一番の目的はアレの様子見とのこと。
まあ、手紙では伝えられぬ事、アレコレやらかしてくれてますからね。
アレが絡むと楽しい滞在は御約束出来かねますが、安らいでいただけるよう全力にてお世話させていただきましょうか。
しかし本当に、ヴェルネッサさん、メネルカでお会いした時とはまるで印象が違いますね。
飛行魔法について聞いてみたら、とても嬉しそうに語っていただけましたよ。
飛行魔法は、この世界では失われつつある技術、
以前は長距離移動技術の花形だったそうですが、
『転送』魔法の隆盛と共に廃れていったそうです。
理由はいくつか。
まずは危険性。
空を飛ぶという事は、落下の危険が常に付きまとうもの。
もしもの時に落下速度を和らげる魔導具が必須なのですが、
それの製造技術はすでに失われており、維持も困難であるのだとか。
かろうじてメネルカ魔導国に現存する物が数点。
維持技能継承者もヴェルネッサさんを含め数人のみ、だそうです。
そして魔法力の問題。
浮遊・移動のみならず、飛行時の安定・安全を確保するために、複雑精緻な魔法の複数同時発動が必要。
そのため常時大量の魔力を必要とするのだそうです。
もちろん、運搬可能な物資の量も魔法力次第。
北方のメネルカ流では、ほうき型魔導具に各種補助魔法を付与し、さらに内蔵魔素貯蔵庫に大量の魔素を蓄積させて補っているそうですが、
その魔導具の製造技術も失われて久しいとのこと。
南方諸国には絨毯を使った飛行術が残されているそうですが、機会があったらぜひ見てみたいですね。
しかし、アリシエラさんでも新規開発が困難とは、まさにロストテクノロジー。
確かに利便性では『転送』の方が上でしょうが、出来れば継承し続けてもらいたいものです。
「よろしければ明日にでも、ツァイシャ女王様に御挨拶に伺いたいのですが……」
喜んで御案内させていただきますとも。
ツァイシャ女王様はアレに甘過ぎるようなので、ぜひ釘を刺してきてくださいね。
「しかと心得ました」
頼もしい味方を得て、俺の目指す平穏な西方暮らしにも光明が差してきましたよ。
まさに救いの女神様ですね。
あー、アレの眼差しがどうにも怪しげですよ。
何やら企んでいる様子。
ヴェルネッサさんのためにも、用心が肝心。