05 永夜
我が家に戻ると……居るのはアレのみ。
いそいそと夕食調理中なのは結構なのですが、
そのギリギリ感が目一杯なメイド服は何なんだよっ。
「アランさんからいただいた、旅のお土産なんですよ」
えーとアランさん、何してくれちゃってるんですかっ。
他所の家庭に波風立てるその邪悪なる振る舞い、まさに『えっちっち魔王』
断じて許すべからずっ。
「今日は皆さんお帰りにならないとかで、旦那さまのお世話をお任せされちゃいました」
あー、マズい。
いや、多分料理は滅茶苦茶美味いのだが、
いろんな方向でマズ過ぎる。
今宵も煩悩と闘う長い夜となりそうだ。
今日もチカラを貸して欲しい、我が愛刀『ぶなしめじ』
俺のモヤる思いを全て断ち切ってくれっ。
まあ、首しか斬れんけどな。
常在戦場、煩悩退散、日々是修練、
『若先生』シナギの今宵の活躍にご期待ください。
何故これほどまでに堅物せねばならぬのか、
不審に思われる方もお有りでしょうが、
俺もいろいろとあったのですよ。
俺の流派『深影』の師匠、
叔父上がですね、
その、とてもお盛んな方だったのです。
年甲斐もなくと言いますか、年相応に壮健と言いますか、
あの街外れの林の中のお宅に、
お若いお嬢さんから熟女な人妻さんまで、
毎日ひっきりなしの満員御礼状態だったのですよ。
当然、揉め事秘め事が日常茶飯事、
そしてうんざりするほどの修羅場三昧の日々。
そりゃあ人生平穏が一番って性格にもなろうってもんでしょ。
そんな感じで誰よりも穏やかな暮らしを望むようになった俺に、
何故神様はアレな試練をてんこ盛りしてくるのでしょうか。
そして今宵も、この調子ですよ。