03 流れ
あれ以来、何だか妙に"つくも神"が気になっちゃいまして、
アランさんのお宅を訪問することに。
「こんにちは、シナギさん」
「ふたりとも、あなたたちに会いたがってましたよ」
こんにちは、アランさん。
えーと、俺たち?
「どうやら"つくも神"界隈では、東方こそが本場にして本家らしいのです」
「ぜひ『ぶなしめじ』さんとご主人のシナギさんにお会いしたい、と」
成る程、それではよろしくお願いします。
「こんにちは、シナギさま、『ぶなしめじ』さま」
「フルリと申す、ふつつか者なのです」
「以後お見知りおきを、なのです」
こんにちは、フルリさん。
ほれ『ぶなしめじ』も御挨拶なさい、
するりと鞘から抜きまして、
って、何だか妙な感じだな。
「お綺麗な方ですねえ、お手入れ具合からシナギさまの深い愛情が伝わってくるのです……」
恐れ入ります、フルリさん。
危ないので見るだけにて御勘弁の程。
「お初にお目にかかります、ゼシカと申す若輩者です」
「お会いできて光栄です、シナギ様、『ぶなしめじ』様」
こんにちは、ゼシカさん。
『ぶなしめじ』はかなりの老齢ゆえ、お手柔らかに。
「まあ、シナギ様、このようなお美しい方にそのような無礼はいけません」
「『ぶなしめじ』様のまとう趣きには歳月による衰えなど微塵もございません」
「シナギ様たち御主人様方がどれほど大切になさっていたのか良く分かります」
「それでも、老いたなどとは決して口にしてはいけませんよ」
誠に面目無い、
刀剣であればこその守るべき礼節も分からぬとは、
このシナギ、主人を名乗る資格無し……
「誠に申し訳ございませんでした」
「このゼシカ、若輩者の身でありながら、分をわきまえぬ不遜な発言」
「伏してお詫びを……」
おやめください、ゼシカさん。
貴方のような方にそうまでさせては、
それこそ『ぶなしめじ』から叱られてしまいます。
「シナギ様……」
ゼシカさん……
「素敵な光景ですねぇ、ご主人さま」
「刀剣とあるじの絆、かくあるべしって感じなのです……」
「もう結婚しちゃって良いと思うよ、おふたりとも」
「ゼシカさんもシナギさんの側に居たいなら、遠慮なく言ってね」
頬を染めてうつむくゼシカさん。
お美しい……
って、ちょっと待ったっ。
危ない危ない、
これこそが流されなのですね、カミス師匠。
ここは冷静に、ですよ。
ゼシカさんのような素敵な乙女の生涯、もっと慎重に考えねばなりますまい。
そもそもゼシカさんとフルリさんは、アランさんと運命の絆で結ばれた間柄。
俺ごときには立ち入る隙など無いでしょう。
……
はて、何事でしょう、
見つめ合うアランさんとゼシカさんとの間にある、
何とも言えない微妙な感じ。
「まあ、こうして知り合えたんだから、末永くよろしくってことで」
「『ゲートルーム』があるんだから、いつでも会えちゃうし」
そうですね、よろしかったらミナモの薙刀『桜刃斬流』にも、会いに来てあげて下さいね。
それでは皆さん、ご機嫌よう。
いかんいかん、油断大敵、
これ以上我が家の平穏を乱すのは禁物、
いかにゼシカさんがお美しいとはいえ、
心を奪われるなど、修行が足らんにも程があろう。
すまん『ぶなしめじ』
すまん、ミナモ。
帰ったら、素振りと座禅で煩悩を払わねば。
気を引き締めるべく、次なる場所へ。