13 平穏
それから、少しだけ変化した俺の日常生活。
イヴさんは、変わりました。
わがまま気ままな態度は封印した模様。
幼き頃より培われてきた人の心を読み己が利とする類まれな才能、
それを自身のためでは無く、周囲との和を円滑に成すことに活かす、
誠にお見事な才媛淑女っぷりです。
今はエルサニア城のメイドとしてのお仕事とヴェルネッサさんの補佐としての両国友好のためのお仕事をしっかりと両立なさっておられます。
何よりも、必要以上に俺に絡んでこなくなったことが大変によろしいかと。
これで我が家も安泰。
ヴェルネッサさんは俺の家で暮らしております。
つまりは、メネルカ大使の密着護衛を仰せつかった、俺。
大変光栄な任務に身が引き締まる思い、ではありますが、
あのヴェルネッサさんのお側で過ごせる日々に、頬は緩みっぱなし。
困った用心棒ですよ、本当。
もちろん、護衛として手を抜いたりはしませんがね。
護衛の任、実は現実的な危険と隣り合わせ。
メネルカの秘匿魔法を狙う輩は以前から後を絶たぬそうです。
国家的なレベルでは無く、不埒な個人の所業が多いとのこと。
気象・天候を操る魔法、
天変地異に近い規模の大規模魔法など、
国をも揺るがす秘匿魔法の数々。
迂闊に手を出せば国が滅ぶとまで言われている所以、
国を預かる立場の人々の間ではメネルカが不可侵である事は常識以前の問題。
今更手出ししてくる連中は、成り上がりの悪徳商人や新参者の向こう見ずな小悪党。
つまりは空気が読めぬゆえ、何を仕出かすかもわからぬ有象無象、
それゆえ護衛が難しいのです。
しかも、ヴェルネッサさん程のメネルカの重鎮が国の外で長期間過ごすのは異例とのこと。
いつ何時何が起こるかわからぬ重大任務と気を引き締めながら、
四六時中ぴたりと寄り添う、俺。
ですが、ねえ。
いかなる事情があろうとも、
やはりヴェルネッサさんのお供は良い気分。
冗談抜きの常在戦場ですが、
ずばり言えば、役得。
こんな不埒な用心棒に、
バチが当たりませんように。




