12 距離
ヴェルネッサさんはエルサニア城にて今回の件への対応中。
細部を煮詰めるため、しばらくはお泊まり、との事。
おかげで我が家は今、俺とアレとのふたりきり、ですよ。
大丈夫、何とかなりますって。
いえ、そっちの意味では無いのですよ。
どうにかなっちゃったらエラい事ですから。
帰り道、終始うつむき加減でいつもの元気も無かったイヴさん。
あの会談での残念な娘扱いがよほど堪えたのか、居間のテーブルで頬杖ついてもの思いにふけっておられますね。
雰囲気たっぷりの見事なまでの乙女っぷり、ですよ。
いつもあんな感じでいてくれたら完全無欠な王女様なのですが、何ゆえ普段はあそこまではっちゃけちゃうのでしょうか。
まあ今は、あの傷心乙女の話し相手が俺の務め。
「私って、バカなんでしょうか」
あー、そういう答えに窮する質問を、この朴念仁にぶつけないでください。
傷心の傷口が広がっちゃったらどうするんですか。
「そうすれば、もっと慰めてもらえるってことですよね」
いつもの調子が戻ってきたようなので、これにて失礼。
「泣いちゃいますよ」
俺が主因で無いのなら、いかに乙女の涙でも効果は薄いのですよ。
こう見えて故郷であれやこれやと鍛えられてますから。
その旨、御理解いただければ幸いです。
「私、これからどうすれば良いのでしょう」
イヴさんが賢いのは重々承知しております。
その賢さを自身の野望成就のためでは無く、
周りの人たちの気持ちの安らぎ維持の方向へと向けてもらえたらな、と。
「今までの生き方を全否定されてるみたいです」
俺の場合は全否定ってわけじゃなかったのですが、
西方に来てから人生感がひっくり返った感じはしますね。
「アランさんの奥さまいっぱい生活、ですか」
人それぞれ、ですよ。
それに、そっちは今の俺ではとうてい無理ですね。
「今の、という事は、待ってさえいれば希望は叶うってことですよね」
あー、希望と野望を混同してはいかんですよ。
さっきも言った通り、今まで通り自己本位のままでは無謀、ですよ。
「シナギさん好みの良い娘になれ、と」
違いますよ、よりどりみどり出来るよう、己を磨けってことです。
「何とかしたいのは、ひとりだけなんですけどね」
頑張ってください。
ふむ、それなりに落ち着いた様子。
これ以上のことは、御自身で解決していただこう。
「そういえば、晩ごはん、どうしましょう」
アランさんから美味しい飯屋さんの場所を聞いたので、たまには外食しましょうか。
「あら、嬉しい」
食事も給仕のお姉さんも絶品、だそうです。
「いいですね、お姉さんにらぶらぶお食事デート、見せつけてあげましょう」
お持ち帰りにしますね。
「お姉さんを?」
晩ごはん。
何だかやり過ぎて以前より距離が近付いてしまった気がする。
油断禁物だぞ、俺。




