結婚式
私を殺したエドワード・バードナー公爵は、結婚式に妻を亡くした悲劇のヴァンパイアな公爵として、小説のヒロインに近づき──って、そんなことはどうでもよくて。
大事なのは、そう。
今日がその結婚式だということだ。
「ど、どどどどうしよう……」
心臓がバクバクと脈打っている。なんで私と結婚してくれるんだろうと思ってたら、悲劇を演出するためか~!
なるほど、納得!
って、納得してる場合じゃなかった。
私がどうしようと焦っている間にも、結婚式の準備は着々と進み、あとは紅をひくだけた。
今さら式を中止だなんてむりむり!
それに、いつどうやって殺したかは、物語には触れられていなかった。わかっているのは、「結婚式」にシャーロットが殺されたことだけ。
「……はぁ」
こういうのは、もっと早くに記憶を思い出して、それを回避! とかするものが定石だと思っていた。まさか、こんな今さら思い出すなんて。でも、もうどうしようもないし。
「まぁ、いいわ!」
大きな声を出すと、公爵家の使用人がびくりと、震えた。化粧はこだわりがあるらしく、公爵家の使用人にやってもらっている。
「あら、ごめんなさい」
「……いえ」
使用人は、さっと、私の唇に紅をひくと、去っていった。
これで、私の方の準備はバッチリだ。
もうまもなく、式がはじまる。
……あぁ、私、ついに死ぬのね。いつ死ぬかわからないから、ずっとドキドキするのは、嫌だし。覚悟はちゃんと決めておこう。
「幸せだったわ……」
バージンロードは全部歩けるか、わからないけれど。そこでお父様に感謝を伝えよう。
◇◇◇
バージンロードをお父様と歩く。お父様に感謝の気持ちを伝えると、お父様は、滝のような涙を流していた。
さて。
私を殺す、バードナー公爵はどんな方かしら。ロマンス小説では、ヒーローと一、二を争うほど──というか、圧倒的に一位の人気だったほどの美形だ。この世界がそれに忠実なら、とっても美形なはず。
お父様と歩くのを終えて、ちらりとバードナー公爵を見る。
「!?」
えっ。えええええええ。これが美形の威力!?!?!?
めちゃくちゃかっこいいわ!
艶のあるさらさらな黒髪に、ルビーを嵌め込んだような瞳。私の語彙力では表せないほど、美しいお顔。
私は特に面食いなつもりもなかったけれど、この美しい人に殺されるなら悪くは、ないかも。
悔いはめちゃくちゃあるけれどね!
私がその麗しさにうっとりしているうち式は、粛々と進み──、披露宴も終わって公爵邸へ。
「え!?!?」
そう、今の私は公爵邸にいる。さすがにもう、結婚式は終わったといっていいだろう。
ぺたぺたと自分の体をさわる。どくどくと脈打つ心音も、傷一つないこの体も何一つ変わっていない。足もちゃんとあるし、幽霊ではなさそうだ。
「私、生きてるー!?!??!??」
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