第97話 工房めぐり
「はぁやっぱりどこも職人のこだわりが感じられるお店ばかりでしたね」
セレナがしみじみと語った。確かにどの店に行っても既製品のみということはなくしっかりとオーダーメイドを受け付けている店ばかりだった。
そういう店だからか展示品にしても値段は高い。しかも基本展示品は売り物というよりは品物の品質を知ってもらう為にあるようだしね。
「確かにセレナの言うようにどの店もウォルトの品より質は良かったと思う」
フィアがセレナの言っている事に理解を示した。僕もそう思う。勿論その分値段は張る。
それに注文品の場合素材から選んで組み合わせていくことになる。当然扱う素材によってはとんでもない金額になることもあるんだよね。
勿論本来ならその分理想の装備品が手に入ると考えがちだけどね――
「確かに品物はよかったけど、私の属性にあう素材が全く無いじゃない!」
フィアが両手を獣のように振り上げて声を大にさせた。セレナも眉を落として弱った顔を見せる。
「やっぱり甘くはなかったですね。私のはまだあったほうですが回復系が好む属性は人気があって良い素材はすぐになくなるようなんです」
セレナもフィアと同じで品は良くても素材に恵まれなかった形だ。回復と言っても癒属性だったりセレナのような生属性なんかもある。
幅広いけど大体どの回復系にも使える素材というのはあるらしい。
ただその手の素材はそんなに多くは手に入らずその割に需要はあるので、いい素材で作りたいなら予約で随分待たされることもあるようだね。
「結局ネロも見つからなかったのよね」
エクレアが僕に目を向けてちょっぴり残念そうに言った。僕も結局何も買ってないんだよね。
「うん。杖は仕方ないかなと思ったけどローブもピンっとこなくてね……」
「スピィ~……」
スイムも気落ちした声で鳴いた。別にスイムのせいではないんだけど、僕を心配してくれているようだ。その気持ちが嬉しいよね。
スイムの頭を思わずなでなでしてしまう。
「スピィ~♪」
スイムは嬉しそうだね。
「エクレアも結局何も買ってないですよね」
「私の雷関係はそれなりにあったんだけどどれもしっくりこなかったのよね」
苦笑しつつエクレアが答える。ここまできたはいいけど、結局皆何も装備が揃ってないんだよね。
「あ! エクレアちょっとちょっと!」
フィアがエクレアを呼んだ。見るとどうやらこの周辺の地図を見てるようだね。
「地図に何かあったの?」
「この店よ。ここまだ見てないじゃない!」
気になったので僕も覗き込んでみた。ガラン工房か――確かに行ってないな。場所がちょっと外れたところにあるから気づかなかったのかも。
「あれ? そういえばここは何も表示がない……」
地図には各種店舗が名前付きで乗っていた。だけどポツンっと一軒だけ名前もなく取り残されていた。
う~ん。これはこれでちょっと気になるかな……。
「工房って書いてるしエクレアの欲しい物が手に入るかもよ」
「う~ん。そうだねせっかくだし」
「え? ガラン工房……二人共ここは――」
「ほらほら。ネロもセレナも早く行くよ!」
見つけた工房に向けて足を早めるエクレアとフィアだったけどセレナは何か言いたげだったね。
でも結局僕とセレナも二人の後をついていく形でガラン工房に向かった。
「ここなんだ――何か凄い設備が整ってそう」
ガラン工房の外観は立派だった。規模も大きくてここだけちょっと離れたところにあるのもよくわかる。
これだけスペースがあると少し離れた場所じゃないと建たなかったんだろうね。
「頼もう!」
「ちょ、フィア道場破りじゃないんだから」
フィアが妙な掛け声付きで店に入ったからエクレアが少し気恥ずかしそうにしていたよ。
「何だお前たちは?」
「何だとは失礼な言いぐさね。私たちは買い物に来たのよ!」
作業中の職人から聞かれてフィアが答えた。
「これがガラン工房――はぁやっぱり噂通り――」
セレナがうっとりしたような目で建物の中を見ていた。
この様子ならセレナはここの事を知ってたんだ。
「買い物に来ただ? フンッ。それであんたら紹介状はあるのか?」
フィアから話を聞いた職人がそう聞いてきた。えっと紹介状?
「あの、私達はこのお店初めてで紹介状とかは……」
エクレアが答えると職人が眉を顰めた。
「だったら他所へ行きな。うちは一見さんは断ってるんだ」
「え?」
しっしと追い払うような仕草を見せつつ職人が答えた。フィアもエクレアも目を丸くさせてるよ。
でも、そんな決まりごとがあったなんてね――




