第78話 正気を取り戻したサンダース
「俺の内側では自分が正気を失っている事が感覚的に理解出来ていた。何とか抜け出そうと抗ったんだがな……情けねぇ」
冷静さを取り戻したサンダースだったけど、その表情には悔恨の色が窺える。
「それにしてもネロ。驚いたぜ。まさか俺の雷が効かねぇなんてな」
そうサンダースが言った。確かに僕の純水で雷は防いだけどそれがわかってるなんて。でも、今思えば一瞬見せたあの戸惑いの反応は意識の根幹ではサンダースが抗っていた証拠だったのかもしれない。
「ガイも色々動いてくれたんだな。全くお前が追放したネロと協力するとはな」
「ざけんな! 今回だけ仕方なくだ仕方なく!」
ははっ、ギルドマスター相手でも態度を変えないあたり流石だよねガイは。
「んなことよりおっさんはテメェのやれることをやりやがれ! おいネロ行くぞ!」
「え? 行くって?」
「セレナとてめぇんとこのエクレアって女を探しにに決まってるだろうが! さっさとしろ置いてくぞ!」
「あ、うん! それでは」
「あぁ。後はこっちで何とかする」
サンダースに伝えその場を離れた。当然二人の事も気になるし、ガイもやっぱり仲間の事は大事に思ってるんだよね。
「ガイ、ネロよかった無事だったんだね」
「あ、フィア」
「ふん。テメェも無事だったか」
移動途中でフィアが姿を見せた。ガイの口調は変わらずだけどどこか安心しているような雰囲気がある。
「他の冒険者が来てくれて皆が正気を取り戻したって教えてくれたの。だから皆の事も気になってね。後はお願いして来たわ」
そういうことなんだね。フィアがスイムを見ていたからフィアに近づけてあげたら嬉しそうに愛でているよ。
「はぁすっごく癒やされるぅ」
「スピィ~♪」
スイムもフィアに撫でられて気持ちよさそうだね。そして僕はフィアにこれからエクレアとセレナを探しに行くことを伝えた。
「そうなんだ……あ、そういえば何か向こうで水道管が壊れてるかもって話を聞いたけど関係あるかな?」
そうフィアが教えてくれた。水道管――確かに町では水を各家庭に運ぶために管が敷設されている。
何となく、それが二人と関係ありそうな気がした。
「うん。そこ行ってみよう」
「スピィ~!」
「それならこっちよ」
僕たちはフィアの案内で水道管が壊れたという場所に向かった。話に聞いていた通りで道路はすっかり水浸しになっていて女性が一人縄で縛られて倒れていた。目には目隠しもされている。
ところどころ肌が黒いしこれは、感電してる? それに手の甲には黒い紋章――。
「間違いない。この人が仲間の一人だ。黒い紋章があるもの」
「スピィ~!」
「マジか。チッ、俺にはさっぱり視えないぜ」
「私もなのよねぇ」
そう黒い紋章は彼らの仲間内か、僕とエクレア、それにスイムにしか視えてない。
スイムは何となく視えてるんじゃないかなって憶測でしかないけどね。
「皆! こっちこっち!」
セレナの声が聞こえた。少し離れた場所から手を振って呼びかけてくれている。
「――無事だったんだな」
セレナの下へ急ぐとガイが安堵した顔で語りかけていた。セレナの側には傷ついたエクレアともう一人胸当てをした女性の姿。女性は冒険者かな。随分と憔悴してるけど意識はあるみたい。
「私は大丈夫。それよりエクレアの方が大変で、私の魔法で一命は取り止めたけど私の魔力が足りなくて完全には」
「す、済まない。どうやら私の治療で随分と魔力を使わせたみたいだ」
胸当てをした女性が謝っていた。どうやらあの女との戦いで大分傷ついていたらしい。
「謝らないでください。それに貴女のおかげで目を見るのが危険だとわかったのですから」
セレナが言う。目、そうかそれでさっきの黒い紋章持ちは目隠しされていたんだ。
「とにかく魔力の回復を待つかすぐにどこかに運ぶか……」
「それなら僕の魔力を使って!」
「お、おいお前だって魔力が」
「そんなこと言ってる場合じゃないよ! セレナ口を開けて」
そして僕はセレナに魔力給水で魔力を込めた水を与えた。これでエクレアが助かるなら――
「ありがとうネロ。これなら魔法を施せる」
「そう、よか、た――」
「お、おいネロ!」
あ、あれ? 安心したからかな? 急に意識が遠のいて――
「ちょネロしっかりしてネロ!」
「スピィ~!」
あぁごめん皆――僕なんだかとっても眠いんだ……。