第70話 冒険者の反撃
ガイ達が周囲から人や遺体を離そうと頑張ってくれている。後は僕がガルをなんとかしないと。
「やれやれ俺も随分と舐められたもんだ。お前みたいな水野郎に俺がやられると本気で思ってるのか?」
「君こそ僕が水だからって甘く見過ぎだよ。水魔法・重水弾!」
魔法を行使。圧縮された水弾がガルに向けて直進する。
「生えろ蕪!」
ガルが声を張り上げると奴の目の前の畑から巨大な蕪が姿を見せた。それが丁度壁のようになって僕の魔法を受け止め破壊される。
「――こいつを一撃で破壊するかよ!」
僕は蕪に魔法が防がれたことに驚きだったけど、ガルは一撃で蕪が破壊されたことに驚愕していた。
あの蕪それだけ防御面では優れていたということか。
「ならスイカだ! 木端微塵になれ!」
ガルが叫ぶと今度は畑からボコボコっとスイカが飛び出して来た。爆弾スイカと言っていた奴か。
でもこの数はまずい。盾だと防ぎきれない。そう、これまでもそうだけど盾だけだと防御が甘くなる。もっと全身を――
「閃いた! 水魔法・一衣耐水!」
魔法を行使すると水が変化し衣のように纏うことが出来た。スイカが爆発する。耳がキーンとするほどの轟音も水によって抑えられた。
そして凄まじい爆発と衝撃だったけど――僕の衣は耐えきった!
「なん、だと? 何故だ! 何故貴様はまだ立っている!」
無事だった僕を見てガルが叫んだ。水の力を侮っていたガルから見たら信じられないのだろう。
「これが僕の水の力だ」
「――ライアーがお前を片付けるべきと言っていた意味がわかったぜ。お前は厄介すぎる! 俺たちの常識さえも覆す危険な存在だ!」
ガルの目つきが変わった。完全に僕を排除すべき人間と判断したらしい。でもそれはありがたい。 僕に集中してくれるならその分他の皆が逃げる時間を稼げ――
「と、言えばテメェは俺がお前しか相手しないと考えてるな? あめぇんだよ! 野菜よ他の連中もやってしまえ!」
「しまった!」
ガルが命じると畑の広範囲がから野菜が出現し逃げようとしてる皆、そして逃がそうと動いてくれているガイたちに襲いかかった――
「武芸・雷撃槌!」
「うざってぇんだよ! 勇魔法・大地剣!」
「スピィ!」
だけど野菜たちはエクレアの電撃やガイの魔法で排除されていった。スイムもあの燃える水で撃墜。
その上でセレナが避難誘導を進めていた。
「どうだい? 戦えるのは僕だけじゃないよ」
ガルは既に皆は戦えないと判断していたのかもしれない。だけど僕たちの必死さはお前よりも遥かに上なんだ。
「カカッ、だとしてもこれだけの野菜。あの二人だけでどこまで耐えられるかな?」
「僕だっている。水魔法――」
「させるかよ! 土轟発破」
ガルが鍬を振り下ろすと畑が爆発しながら直進してきた。何この技!
「くっ!」
爆発に巻き込まれ僕も吹き飛んだ。水の衣も今ので破壊された。
「お前、野菜に戦わせるだけじゃなかったのか」
正直驚いた。てっきり野菜を使った攻撃が主体だと思っていたからだ。
「誰がそんなことを言った。俺は畑を使った戦い方も心得ている。知ってるか? 畑に使われる肥料には爆発する力も宿ってるってな」
正直知らない。だけどこいつはどうやら畑について熟知しているようだ。しかも今の爆発で畑が拡張された気がする。
「更に言えば今ので更に畑が広がった。ほーら!」
ガルが種を大量にばらまいた。すると規模が大きくなった畑から更に大量の野菜が生まれていく。
「不味い! 数が多すぎるわ!」
「畜生捌ききれねぇ!」
「スピィ~!」
「私だけじゃ全員の避難は――」
後方から皆の声が聞こえてきた。ガイやエクレア、そしてスイムが野菜の処理に追われていてはセレナだけじゃ運べないけが人だって出てくる。
僕はガルとこっちに迫る野菜で手一杯だ。駄目だ戦力が足りてない!
「ハッハッハ。そりゃそうだ。畑がここまで広がっちまえば、この俺の『凶作の開拓者』は無敵だ。残念だったな。どうあがいても貴様らはこの俺一人に敵わない――」
「こっちだ! お前ら今助けてやるぞ!」
「冒険者舐めるなよ!」
「何をしたらいいかしら? 指示をお願い!」
それはまさに天の助けと言えた。どこかで話を聞いた冒険者が数多く助けに来てくれたんだ。
「お前ら――よく聞け! あそこにいるネロがこの場を何とかすると言ってやがる! だがその為には人払いが必要だ! 遺体も含めてとっととここから引き上げさせやがれ!」
指示を求める冒険者たちの声を聞きガイが率先して命令を下していった。相変わらずの口調だけどこういう時には頼りになる。
「おいおい。助けに来たってのにあいつ偉そうだな」
「あれが勇者ガイって男だよ」
「あっちにいるのはネロじゃないかい?」
「水魔法でなんとかなるのかよ」
「馬鹿知らないの? あの子の水魔法すんごいんだから」
「とにかくだ――今は勇者ガイの言葉とネロを信じてやるぞお前ら!」
「「「「「「「「オオォオォオオオォオオォオォオオオオ!」」」」」」」」
冒険者たちの鬨の声が鳴り響く。とても力強くて頼りになる声が――
「どうやら形勢逆転なようだね」
「テメェ――」
そして冒険者の協力もあって野菜の脅威から一般人は守られつつ、僕は野菜とガルの猛攻を防ぎ何とかしのいだ。
「どうやらこれで全員いなくなったようだね」
そう。既に畑周辺に冒険者の姿はなかった。最後にガイが「仕方ねぇからここは譲ってやるよ!」と言い残して去っていったことで残されたのは僕とガル、そして――
「スピィ~」
「はは。スイムは残ってくれたんだね」
「スピッ!」
僕の肩の上にスイムが乗っていた。エクレアからもスイムは責任持って守ってあげてねと言われてしまったよ。
「これで決着が付く……」
「状況わかって言ってるのか? 俺にはテメェの頭がいかれたとしか思えないぞ」
僕の周囲にはギョロッとした目をした野菜が集まっていた。完全に僕を取り囲む形で逃げ場はない。
「まさか自分を犠牲に全員を逃がすのが目的だったのか? だとしたら無駄なことだ。他にも仲間はいるしな。それにお前を殺した後改めて片付けに行くだけだ」
「いや、そんなつもりはないよ。僕だって命は惜しい。それに好都合だ」
「言ってろ! 野菜共こいつを食らいつく――」
「水魔法――酸性雨!」
ガルが野菜に命じる前に僕の魔法は完成した。こいつが広げた畑を倒すためにずっと温存してきた魔法――
「何だ? 馬鹿が雨ごとき、熱ッ! な、何だこの雨は!」
「見ての通り強力な酸の雨さ。そして知ってるかい? 強い酸は――植物を枯らせるんだ。それは結果的に土にもダメージを与えることにつながる」
「グッ、く、くそ! お前、それで全員を、ぐ、ぐおぉおぉおおおああぁあああああ!」
ガルが悲鳴を上げた。そして僕を囲っていた野菜たちもあっという間に枯れ果てて行く。
僕とスイムは無事だ。前もって水の衣を纏っておいたからね。
どちらにせよ、これで僕たちの勝利だ!