第68話 助けに行こう!
「――私はここに残るわ」
リストも見つけガイを助けに行こうという話になったところでフィアがそんなことを言った。
「私、魔力がだいぶ減っててね。それにこのライアーって奴を見張っとく必要があるでしょう?」
フィアが笑いながら言う。確かに一応縛ってはいるし猿轡も噛ませた。武器や道具類も奪ったから出来る手は無いだろうけどそれでも黒い紋章という不気味な力の使い手だ。
誰も見張りがいない状態にして何かしらの手で逃げ出さないとも限らない。
「――それなら私も残った方が」
「いえ、エクレア。貴方は行って。だってネロの水を今一番活かせるのは貴方ですもの」
フィアがエクレアの手を取ってから微笑んだ。
「フィア……」
「うん。それにネロも早く行って上げて。何となくだけど今ガイに必要なのは貴方な気がする」
「……わかった。でも――うんフィア口を開けて」
「こう?」
「水魔法・魔力給水――」
フィアの口に手を持っていき魔力の込められた水を直接喉に流し込んだ。
コクンコクンっとフィアの喉が鳴る。
「ん、んぁ、美味、しい」
「ちょ、フィア何その顔ぉ!」
エクレアが拳を上下に振って叫んだ。えっと、何かフィアの表情も恍惚っぽいというか、いやいや何変な想像してるんだ僕!
「ほ、本当は瓶に入れるのがいいんだろうけど今は道具がないからごめんね」
「ううん。この方が、いい」
「え?」
「あ、いや! ありがとう! おかげで魔力が回復したわ!」
良かったフィアも少し元気になったようだ。
「これなら大丈夫よ。だからもう行って」
「わかった。フィアも気をつけて!」
「こっちは任せてね!」
そして僕たちはガイを探すためにその場を離れた。
「――ね、ネロ。あのね。私も魔力がた、りないかな、て」
すると走りながらエクレアが僕にそんなことを言ってきた。
そっかエクレアもさっきの戦いで結構武芸使ったもんね。エクレアは雷を発生させるから武芸でも魔力が減るようだし。
「わかった。なら口を開けて」
「う、うん――」
途中でフィアにしてあげたように僕の魔力水を注いであげた。
「ん――」
で、でも何で皆して飲む時にそんな顔をするんだろう? 頬も紅くなってるし、そういう効果がもしかしてあるとか?
「ありがとうね。何か元気が出た気がする」
「そ、それならよかったよ」
「スピィ~……」
するとスイムも何かおねだりするようにすり寄ってきた。これは何となくわかったよ。僕はスイムにも水を与えてあげた。
「スピィ~♪」
スイムが機嫌よく肩の上でプルプルと震えたよ。その後甘えたようにすり寄ってきた。
可愛い――だけど、今は急がないと……。
「おい! 向こうの通りに妙な畑が出来てるらしいぞ」
「何であんな大きな通りに畑が……」
「今勇者が誰かと戦ってるみたいだけどピンチだって――」
その時、暴徒から逃げてきた人々の声が耳に届いた。勇者――それは勿論ガイ達のことだろう。
「ネロ!」
「うん! 急ごう!」
「スピィ!」
そして僕たちは話にあった通りまでやってきた。そこにはあのライアーと一緒にいた鍬持ちの男、確かガルって呼ばれていた筈だ。
そして遠目に見える捕まったガイの姿。更にスイカに囲まれるセレナ、て、スイカ?
『あぁそうだ。スイカだ。勿論ただのスイカじゃねぇぜ? あれは言うならば爆弾スイカ。その名が示す通り獲物の近くで派手に爆発するスイカだ。面白いだろう?』
疑問に思ってるとガルの声が聞こえた。ば、爆弾スイカだって!? そういえばあのスイカ眼があるしどうみても普通じゃない。事情は詳しくわからないけどセレナが危険なのは確かだ。
「ネロ早く助けないと!」
「スピィ~!」
エクレアの言うとおりだ。スイムも慌てている。だけど距離が結構ある。走っていっても追いつくとは思えない。
このままじゃ、どうするどうする。あのスイカを纏めて遠ざけることが出来たら。そう洗い流すように流す――そうか!
「閃いた! 水魔法・水ノ盾&水魔法・鉄砲水波!」
頭の中に浮かんだイメージを魔法にして放つ! 途端に水が激しく流れセレナを囲っていた爆弾スイカを洗い流した。
遠くで次々と水柱が上がるのが見えた。スイカが爆発したんだろう。一方でセレナは盾で守ったから流れずに済んだよ。
そのまま僕たちは彼らに向けて駆け寄りながら、ガイに向けて言葉を紡ぐ。
「何とか間に合ったね。ちょっとだけ荒っぽいことになったけど――無事かい? ガイ」
「ぐっ、うぅうう、ネロぉぉおお!」
ガイが嗚咽混じりの声を上げた。涙まで流してる。あのガイがこんな顔を見せるなんて――それだけ追い詰められていたってことなのか。
「――どういうことだ? お前らはライアーが狙っていた筈だ」
「悪いけどその仲間はもう倒したよ。だから覚悟を決めることだね!」
不思議そうな顔を見せるガルにはっきりと言い放つ。
さぁここからは僕の戦いだ!