第60話 真似?
「エクレア大丈夫?」
「あ、ありがとうネロ――」
エクレアはダメージあるようだけど返事は出来るし動くのには問題無さそうだ。
「はは、抱き合って随分と余裕やな」
「だ、抱き合っているわけじゃ――」
ライアーが呆れたように言ってきたけど、元はと言えばこの男の攻撃でこうなったことだ。
「早く戦闘態勢に戻った方がいいわよ」
「そ、そうね――」
フィアからも声が掛かった。確かにこのまま倒れているわけにはいかない。ただ何か声が尖ってるような?
「それにしてもまさか本当に私の雷まで――しかも拳ってまるでパパじゃない」
立ち上がったエクレアが呻くように呟く。そういえばサンダースは拳と雷の組み合わせだった。
「私の爆属性も使ってきた。だけど、本当にそれを使いこなせるのかしら?」
「――どういうことや?」
「文字通りの意味よ。私には見えないけどそこに黒い紋章があるのは確かなんでしょ? もしかしてその力って私達の魔法や技を真似る力なんじゃないの?」
え? 真似? フィアの予測に驚いた。確かにフィアの魔法は同じ名前で使っていた。
「待って。だとしたら私の武芸は説明がつかないわ」
「それは多少のアレンジを加えて行使できるのかもしれない。威力もより大きくして。だけどきっと貴方は見たものと極端に違うものは使用できない!」
フィアが人差し指を突きつけ言い放つ。それに対しライアーは不敵な笑みを浮かべていた。
「せやろか?」
「だったら他の魔法を使ってみたら?」
「それなら爆魔法・豪爆球といこか。巨大な火球がお前たちを襲うで。着弾したら大爆発や――爆魔法・豪爆球!」
ライアーが魔法を行使すると彼が言っていたような巨大な火球がこっちにむかって飛んできた。
本当に使えるなんて。流石にまともにあたったらヤバい!
「水魔法・重水弾!」
圧縮された水がの球が火球とぶつかり爆発、炎上した。熱風が凄まじく煙が発生して一瞬視界が妨げられた。
路地裏、ともう言っていいかわからないけど、更に窪みが増えてしまった。
「こんな魔法、私は使えない――本当にあいつは沢山の魔法が使いこなせるの?」
ライアーの魔法を認めフィアが真剣な顔で疑問を口にする。だけど、今魔法を使ったライアーもまた眉間に皺を刻んで何かを考える様子を見せていた。
「――あんさんの水魔法。随分と強いな。せやけど、それかてわい、あんさん以上のが使えるんやで?」
「え?」
ライアーが言った。僕の水魔法が使えると。だとしたら更に厄介だ。
ただ、何故だろう。それは絶対に無理な気が、いや確信めいた思いがあった。
「いくで――水魔法・重水弾!」
ライアーが水魔法を使おうとする。だけど――何も出てこなかった。ライアーは僕の魔法が使えなかった。
「――どないなっとんねん」
それにどうやら彼自身が驚いているようだ。自分の紋章に目を向け悩んでる様子。
「どういうこと? あいつ水魔法は使えるって?」
「わからないけどこれはチャンスだよ! 水魔法・水槍連射!」
魔法を行使、水の槍を連射した。更にフィアも後に続こうと杖を向ける。ライアーは明らかに動揺している今がチャンスだ。
「ムダや! 今障壁を張ったわいにはあらゆる攻撃が効かないで!」
「爆魔法・紅蓮華!」
え? 障壁?
すると僕の槍が命中すると同時に激しい爆発が起きた。華が開くような爆炎が生じライアーが炎に包まれる。
これで本来なら勝てる――そう思ったのだけど……。
「言うたやろ? もうわいにはどんな攻撃も利かへんで」
「嘘でしょ――こんなの……」
エクレアが声を震わせる。ライアーは炎の中で笑っていた。怪我も一切負っていない無傷の状態で。
これが障壁の効果――だけど何だろう。あいつ僕の水魔法がつかえなかったり、何か違和感を覚えた。
ライアーの力には何か特殊な条件があるのではないか――そんな気がしてならない……。