第40話 ハイルトンの強さ
ハイルトンの目に殺気が宿る。チャクラムは僕の鞭が絡みついて操作できない状況だ。
この男の武器は奪った。なのに全く戦う意志が削がれていない。
「私の武器がそれだけだと思ったら大間違いですよ」
ハイルトンがナイフを六本取り出し不敵に笑った。そうだった。ハイルトンの紋章は投擲。投げられる武器なら種類は問わないはずだ。
「爆投擲!」
ハイルトンがナイフを投擲してきた。投げられたナイフは直接僕たちには当たらず地面に命中し、爆発した。
「うわっ!」
「キャッ!」
「スピィ!」
突然の爆発に怯んでしまう。でも驚きはしたけど直接のダメージはない。
「取り戻しましたぞ」
「え?」
ハイルトンの声が背後からした。どうやら爆発に紛れて移動したようだ。しかも鞭で封じていた筈のチャクラムがなくなっている。
いや、ハイルトンが投げたナイフもだ。どうやら回収したらしいけど、一体どうやって?
何かがおかしい。ハイルトンは紋章が投擲だと言っていた。だけど動きや行動が紋章に伴ってない。
投擲系の技はわかる。だけどそれ以外の行動はどう考えても投擲とは関係ない。単純な身体能力と考えるには違和感がある。
待てよ――そう考えると突然ハイルトンが使い出したあの炎……あれは確か僕が戦っていた盗賊の……。
「もしかして! 水魔法・水槍連破!」
僕はハイルトンに向けて水の槍を連射した。
「おやおや。どこを狙ってるのですかな?」
ハイルトンは避けようとしなかった。僕の槍はハイルトンからみて見当違いの方向に飛んでいるように見えたのだろう。
「そこだ!」
だけど槍はハイルトンの意識を遠ざける為。僕の水の鞭がハイルトンの袖に命中。
「やっぱりか!」
「――ほう」
予想通りだった。ハイルトンの袖に隠れていたけど、鞭で袖を捲って腕輪が顕になった。
「あれはもしかしてスキルジュエル!?」
「そう。おかしいと思ったらやっぱりだ。ハイルトンは紋章以外にもスキルが使える」
「スピィ!?」
エクレアとスイムも驚いていた。スキルジュエルは貴重だ。それをまさか執事だったハイルトンが持ってるとは思わなかった。
「恐らくあの盗賊が持っていた腕輪も今ハイルトンが奪ったんだろう」
「それは大きな勘違いだ。奪ったのではない私が貸し与えていたのを返してもらっただけだ」
貸し与えていた――そうか。元々はハイルトンの腕輪だったのか。どちらにしてもこれでわかったのはハイルトンは両手に腕輪を嵌めているということだ。
そうでないと最初から見せていたあの動きが説明出来ないからね。
「しかし、この私がスキルジュエルを装備していたとして、それが何か? どちらにせよお前たちが不利であることに変わりはない!」
ハイルトンが再び縦横無尽に駆け回る。そうだ。ハイルトンの強さの秘密がわかったところでそれに対処しないと――
「ネロ! コンビネーションよ!」
エクレアが動き出し僕に呼びかけてきた。コンビネーション――そうか!
「放水!」
「何だそれは?」
水魔法を行使。杖から水が吹き出るが、ハイルトンには当たらない。
「こんなもの避けてしまえばどうということはないですな。全くがっかりですぞ。所詮水魔法などこの程度ということ」
放水はハイルトンには当たることなくただ周囲を水浸しにしていくだけだ。
「やはり旦那様の判断に間違いはなかった。水魔法などこの程度の代物。まさに失格者に相応しい弱々しい力だ」
「それはどうかしら!」
ハイルトンの横からエクレアが迫り鉄槌を振り下ろした。
「無駄です。貴方の動きは遅すぎる」
ハイルトンがヒラリとエクレアの攻撃を躱す。その時エクレアの鉄槌が激しく迸った。
「武芸・雷撃槌!」
「フンッ。なるほど範囲攻撃ですか。しかし距離さえ取ってしまえば」
エクレアの攻撃をハイルトンは大きく飛び退いて避けていた。パシャンっという音を鳴らしながらハイルトンが地面に着地し、その時だった。
「な、がぁあああああああぁああぁあああ!」
ハイルトンが悲鳴を上げた。エクレアが使った技は電撃を発生させる。そして電撃は水を伝わる――エクレアが発見した水の理だ!
ハイルトンが幾ら素早くてもこれは避けられない! 僕たちの作戦勝ちだ!