第34話 ダンジョンの魔獣
「そんな、魔獣なんてこの規模のダンジョンに出てくることない筈なんだけど――」
エクレアから聞いて不可解といった感情が言葉になって漏れた。
レッドベアは知らない魔獣だけど、エクレアの真剣な目に嘘はない。
「私も初めて見るけどパパから話に聞いたことあるの。赤毛の熊型で赤い物を見ると興奮して手がつけられない危険な魔獣だって」
そうか――確かにギルドマスターなら僕たちなんかよりずっと魔物や魔獣に詳しいだろう。エクレアがあの魔獣を知っていた理由がわかったよ。
「お、おいお前たち同業者だろう? た、助けてくれよ!」
「怪我した仲間を見てこいつすっかり興奮してるんだ!」
見ると一人、頭から血を流して倒れていた。出血を見てレッドベアが興奮したってことか。
「とにかく放ってはおけないよねエクレア!」
「…………」
エクレアに呼びかけた。だけど、襲われてる冒険者とレッドベアを見ながらエクレアが動こうとしない。
「エクレアどうしたの?」
「え? あ、ごめん。その何か違和感が――」
「うわぁああぁあ! こっちくるな! ひぃ、早く手を貸してくれ!」
エクレアどうしたのかな? もしかして相手が魔獣だから緊張してるのかも――でもそうこうしている内に襲われてる三人の冒険者から悲鳴が!
「わかったまず僕が行くよ!」
「スピィ~!」
「あ、待ってネロ!」
エクレアが止める声が聞こえたけど、大丈夫。エクレアの不安を払拭するようレッドベアに向けて魔法を行使する。
「水魔法・水飛沫!」
「ガッ!」
水を浴びてレッドベアが怯んだ! 冒険者たちの間に割って入り魔獣と睨み合いになる。
「エクレア! 水は掛けたよ。これで君の技も通じやすくなるはず!」
「う、うん。わかった!」
どうやらエクレアの迷いも吹っ切れたようだね。
「はぁああぁああ!」
エクレアが飛び込んできて雷を纏わせた鉄槌でレッドベアを殴りつけた。
「グォオォッォォオオ!」
レッドベアが叫び声を上げ傾倒した。よし、魔獣にもしっかりエクレアの攻撃は効いてる! これなら――
「スピィ!」
「チッ、この糞スライムが!」
「え?」
スイムの声が聞こえて、かと思えば僕の肩からスイムがずり落ちた。そしてさっきまで倒れていた筈の冒険者がナイフでスイムを刺していた。
これってスイムが僕を庇って――
「おい! 何失敗してんだ!」
「スイム!」
連中が声を張り上げるけど、僕にはスイムの方が大事だ! てか何でこいつら――
「スピッ!」
だけど、スイムは元気そうに鳴いた。よく見ると冒険者のナイフを受けた箇所はすでに塞がっている。
そうかスイムの体はこの程度のナイフじゃ傷つかないんだ。よ、良かったぁ。
「ネロ! 何があったの? これどういうことよ!」
エクレアがこっちを見て叫ぶ。彼女もこいつらが僕たちを狙って来たことに気がついたんだ。
「おい、あっちの女は厄介だぞ!」
「大丈夫だ。おいレッド! これを見ろ!」
男の一人がレッドと呼んだ魔獣に向けて赤い玉を投げつけた。
何でこいつらあの魔獣の名前を?
それってつまり――
「魔獣もグルだったのか!」
「今さら気がついたのかよ馬鹿が」
「グォォォォオォォォォォオオオ!」
僕が奴らに向けて声を張り上げると同時にレッドベアが雄叫びを上げた。
見るとレッドベアの瞳が真っ赤に染まり体も一回り程大きくなった。まさかさっきの赤い玉で?
「はは、これでレッドは三倍強くなった。あの雷女でも今のレッドには勝てやしねぇよ。そしてテメェもここで死ね!」
こいつら――最初から僕たちの命が狙いだったのか。
いや、そういえばエクレアが怪訝そうにしていた。今思えばレッドベアの様子に違和感を覚えていたんだろう。
怪我をした冒険者がいる状態で魔獣を相手にしながら僕たちが来るまで無事だったのはおかしい――こんな単純なことに気がつけなかったなんて僕は馬鹿だ!
だけど、失敗を引きずっても仕方ない。今はこの連中を何とかしないと――