第301話 水浴びしよう
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スカムワームとの戦闘の結果、とんでもない置き土産を受け取ることになった。
服は例の“アレっぽい”粘液でぐちゃぐちゃ。
臭いも完全に染みついていて、鼻が慣れかけたと思った瞬間にまたぶり返す。
「念のため、簡単な衣類も買っておいて正解だったわね」
ライトニングさんがそう言って、スイムから取り出した荷袋から更に貫頭衣を取り出した。
戦闘での破損や、こういう不測の事態に備えて何着か用意していたらしい。
確かに、服を洗うとしても乾くまで裸で待つわけにはいかない。
その備えは本当にありがたい。
問題は――どこで洗うか、だ。
幸い、少し進んだ先に小さな泉があるらしい。
「なら、そこで水浴びね」
水場が近づくと、スイムが嬉しそうに肩の上で跳ね始めた。
「スピィ~♪」
水の気配を察知したのだろう。
「わぁ~、綺麗なお水さ~ん!」
泉を目にした瞬間、ネイトのテンションが一段跳ね上がる。
透き通った水面。
周囲を囲む木々の緑が映り込んでいて、確かに綺麗だ。
「これだけ綺麗だと……ちょっと申し訳ない気もするわね」
エクレアが少し気まずそうに言う。
その気持ちはわかる。
こんな透明な水に、あの臭い粘液を流すのは……うん、複雑だ。
その時。
スイムがぴょんと肩から降り、水辺へ近づいた。
どうやら泉の水を吸い上げているらしい。
次の瞬間――
ぴゅっ。
勢いよく水を噴射し、エクレアの汚れた服へ命中。
「わっ! すごい、汚れが落ちていく!」
「これは助かるわね。入る前にある程度落とせるわ」
「うむ、スイムの本領発揮だな」
女性陣に撫でられ、スイムは誇らしげにぷるぷる震える。
よし、準備は万端だ。
「なら、女から先に入れよ。俺らは見張りだ」
ガイが当然のように言う。
「えぇ~? みんな一緒じゃダメなの~?」
「いやいや! それはさすがに無理だよ!」
「申し訳ありませんネイト様。某も一応“男”でございますゆえ」
ネイトが不満そうに頬を膨らませるが、そこは譲れない。
「私だけなら一緒でもいいのだがな。汚れも落としてやるのに」
「だから自分で出来るってば!」
さりげなく服を脱がせようとするのはやめて、ウィン姉!
「――ザックス。覗いたら凍す!」
「私も本気でやるわよ」
アイスとマキアの冷たい視線がザックスに突き刺さる。
「ぶ、物騒なこと言うなよ……」
というわけで。
僕、ガイ、ザックス、ケトルの四人は少し離れた場所で見張りをすることになった。
スイムは女性陣と一緒だ。汚れ落としで大活躍中だろう。
「……それにしても、くせぇな」
「水浴びで落ちるのか、これ?」
「あはは……落ちると信じたいね」
「ネイト様を汚れから守れなかったことは、不覚でございます」
ケトルが少し肩を落とす。
「まぁ、怪我はなかったんだし――」
そう言いかけた時だった。
泉の方から、楽しそうな声が聞こえてくる。
『エクレアのママ、すごいスタイルいいわね。子どもがいるなんて思えないわ』
『本当よ。どうやって体型維持してるの?』
『うふふ、ありがとう。エクレアだってしっかり成長してるわよ』
『プロポーションなら師匠も負けてない。美しい』
『フッ、愛弟に恥ずかしくない姉でいたいからな』
『みんなすご~い……私もみんなみたいになれるかな』
『ネイトちゃんはまだまだこれからよ。成長期なんだから』
「…………」
し、自然に聞こえてくるんだけど。
「ネロ、てめぇ何赤くなってやがる」
「ガイこそ顔赤いよ!?」
「赤くなんてなってねぇ!」
「……ザックス殿、どちらへ?」
「ちょ、ちょっとトイレ」
「待て。そっちは泉の方だろうが!」
「まさかザックス……」
「お前らだって本当は見たいだろ!? チラッとだぞチラッと!」
「チラッともダメに決まってるよ!」
三人がかりでザックスを羽交い締めにする。
その瞬間。
――ぬるり。
「……ん?」
足元に冷たい感触。
視線を落とすと、緑色のヘドロ状のスライムが絡みついていた。
「魔物だ!」
「いつの間に!?」
「くっ……斬れぬ! ぬめりが!」
剣を振っても刃が滑る。
「うわ、ベタベタする!」
「しかも増えてないか!?」
「ちょ、ちょっと待ってこれ服に――うわあああ!」
次々と足元から湧き出し、僕たちにまとわりつく。
気が付けば全員、緑色のスライムまみれだ。
――その騒ぎを聞きつけて。
「むぅ! なんてことだ、愛弟がスライム塗れに!」
「ネロだけじゃねぇよ!」
水浴びを終えた女性陣が戻ってきた。
……着替えてはいたけど、それでもちょっとだけ、目のやり場に困る。
「あら、これは良かったかもしれないわね」
ライトニングさんがあっさり言う。
「良かったって、大丈夫なの?」
「えぇ。あれはバキュームスライム。無害なタイプよ」
ぬめりに包まれながら説明を聞く。
「汚れや腐敗物を餌にする性質があるの。臭気や粘液を吸い取ってくれるわ」
「……だから、まとわりついてきたのか」
よく見ると、さっきまで染みついていた悪臭が、少しずつ薄れている。
「結果オーライ、か?」
「ザックスの悪巧みも阻止できたしな」
「お、俺は何もしてねぇ!」
「結果論でござろう」
結局。
水浴びを終えた女性陣はさっぱり。
僕たちはスライムに磨かれて半分さっぱり。
――まぁ、悪くない……のかな?
本作のコミカライズ版単行本第2巻が今月2月25日に発売されます!
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