表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

285/287

第282話 逃亡者と追跡者

いつも感想や誤字脱字報告を頂きありがとうございます!

 霧に紛れて、僕たちは逃げることを選んだ。

 ガイも救い出せた今、これ以上ここに留まる理由はどこにもない。


「待ちなさい!」


 しかし――アクシス家の人間が、そう簡単に逃がしてくれるはずもなかった。

 振り返ると、紙の鳥に乗り追いかけてくるアンダラとスネアの姿が見える。


「ゴミが! 私たちから逃げられると思ったか!」

「ちょっと! 仮にもあなた、母親でしょう!? その言い方はさすがに酷いわよ!」


 エクレアが怒鳴り返す。その声には、僕のために怒ってくれる優しさがこもっていた。

 胸の奥が熱くなる――この仲間たちの存在が、今の僕の支えなんだ。


「フンッ。水の紋章持ちなどというゴミを産んだのが、私の唯一の汚点。今すぐにでも消し去ってやりたいわ!」

「そのとおりですわ、御母様。あんな出来損ないと血が繋がっているなんて、考えるだけでおぞましい!」


 アンダラとスネアの冷笑が夜気を切り裂いた。


「嘘でしょ……? どうして実の子どもにそこまで言えるのよ……」


 エクレアが呟く。その声には悲しみと怒りが混じっていた。


「無駄なことだ。私も散々、愛弟の素晴らしさを話して聞かせたが、全く変わらなかった。あの連中は心が腐りすぎていて、もはやどうしようもない」


 ウィン姉がため息混じりに言う。

 その声音には、かつて家族だった者たちへの失望が滲んでいた。


「そもそも俺に“ネロを始末しろ”なんて命じてた連中だ。何を言っても無駄だろうよ」


 ガイの低い声。その表情には、ほんのわずかに罪悪感が宿っていた。


「大丈夫だよ、ガイ。もうわかってるから」

「スピィ!」


 ガイが僕を追放したのも、僕を守るためだった。

 ガイだけじゃない。フィアも、セレナも。あの時、誰も僕を見捨ててなんかいなかった。


「――ここは私に任せておけ」


 ウィン姉が足を止め、追ってくる紙の鳥を見上げた。アンダラとスネアの姿が風を裂くように迫っている。


「師匠が残るならアイも――」

「駄目だ!」


 アイスが足止めを申し出ようとしたその瞬間、僕は思わず叫んでいた。


「それじゃ駄目だ! 皆でここから逃げないと意味がない!」


 自分でも驚くほど強い声が出た。けれど、それが本心だった。


「ネロ……そうだよ! ガイを助けに来たのに、代わりに誰かが犠牲になるなんて絶対に駄目!」

「皆でここから出るの!」

「スピィ!」


 エクレアとネイトも力強く頷き、スイムは肩の上で小さく跳ねて僕を励ます。

 仲間の声が胸に響く。――この絆だけは、誰にも壊させはしない。


「だけどよ……現実的に、全員で逃げきれるのか?」


 ザックスが唸るように言う。マキアも険しい表情で唇を噛んでいた。


 その時、赤く揺らめく影が夜空を裂いた。

 フレアの赤い翼――彼もこちらへ向かってきている。恐ろしいほどの速度だ。このままでは、すぐに追いつかれる。


「――仕方ないな。出来ればこの手は使いたくなかったが、致し方ない」


 ウィン姉が静かに息を整え、そして――ひょいっと僕を抱き上げた。


「えっ!? ウィン姉、急にどうしたの!?」

「安心するのだ、愛する弟よ。お前は私が運ぶ。他の者たちは逸れぬよう気をつけろ!」


 そう言うと、ウィン姉は剣を掲げ、風を操る魔力を解き放った。


「風魔法・天翔流離!」


 瞬間、轟音が大地を揺らした。

 爆風が渦を巻き、僕たちの体が宙へと浮かび上がる。

 目の前の景色が一気に遠ざかっていく――アクシス家の屋敷も、怒号を上げる追跡者たちの姿も。


「これが……ウィン姉の風魔法……!」

「スピィ~!」


 耳をつんざく風切り音の中、僕たちは夜空を駆けるように吹き飛ばされ、遠くへ――。


 振り返った時には、もうアクシス家の屋敷は霧の彼方に霞んでいた。

コミックノヴァにて本作のコミカライズ版最新の第10話が公開中です!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
だんだんネロのまわりに優秀な仲間が増えていきますね。 これからの戦い、ますます過激になりそうですね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ