第227話 ワンに会いに行く
「師匠の言うように熱かったけれど美味しかったのです」
「うむ。そうだろうそうだろう」
食事を終えアイスがウィン姉にお礼を言っていた。ずっと口を押さえながら涙目ではあるのだけどね。うん、今後は食べられるぐらいまで冷ますぐらいはいいのかもしれないよ。
「それじゃあこのままワンさんの店に言ってみるね」
「はい! お爺ちゃんも喜ぶと思います!」
最後にロットにワンの店に行くことを伝えたら喜んでくれたよ。僕たちは店を出てその足で皆でワンの店に向かった。
「ふむ。その杖を作ったのがワンという杖職人なのか」
「うん。とても腕の良い職人さんなんだよ」
ウィン姉にそう答えると改めてウィン姉が僕の杖を確認したよ。
「杖は専門ではないがそれでもこの杖には職人の魂が感じられるな。流石我が愛しの弟だ。職人を見極める目も持ち合わせている!」
何か急に褒められたよ! いや最初は杖が泣いているというダメ出しから始まったんだけどね……。
そんな会話をしながら僕は記憶を頼りにしてワンの見せ前まで来た、と思ったんだけど。
「えっとここであってるよね?」
「うん。地図でもここになってると思う」
「ほう。中々綺麗な店ではないか」
「師匠がそう言うならアイもそう思う!」
「スピィ~」
ウィン姉とアイスが感心しているけど、僕とエクレアは以前との違いに驚いていた。何と言うか前はもっと年季の入った外観だったからね。
だけどそれが随分と綺麗な外観に変わっていた。建物もちょっと大きくなったのかな? だから僕もここであってるかなと一瞬迷ったんだけどね。
「えっとごめんください」
「うん? 何だ坊主か」
店に入るとそこにワンはいた。店の外観は変わったけどワンには特に変わりはないようだね。ちょっとぶっきらぼうなところも一緒だ。ただ以前みたいにお酒で顔が赤いみたいなことはないようだよ。
「しかし久しぶりに来たと思えばまたぞろぞろと連れてきやがって」
「はは、突然ですみません。でもお元気そうで何よりです」
「フン。そういうおべっかはいらねぇよ。大体元気と言ってもな。最近は杖の注文がやたら増えてててんてこ舞いなんだよ」
腕を組んで答えるワン。こういうところも変わってないね。だけどよく見ると奥には他の職人の姿も見えた。どうやら新しく人を入れたみたいだね。
「ふむ。貴方がワンか。ネロの杖を新調してくれたようだな」
「まぁそうだがあんたは?」
ウィン姉がワンに話しかけたよ。ワンもそれでウィン姉に何者か聞き返していたのだけどね。
「私はネロの姉だ。そして姉として愛弟に立派な杖を作ってくれたことに感謝する。これは礼だ受け取るがいい!」
そう言ってウィン姉が札束をワンに手渡したよ! あぁまたウィン姉ってば!
「あん? 何だこりゃどういうつもりだ?」
「だから礼だと」
「ふざけるな。こっちは既に杖の代金は貰ってんだよ。それ以上のもんなんているか」
だけどワンはウィンが差し出した札束を突っぱねたよ。
「むぅ、だからこれは私の気持ちだと言ってるだろう!」
「そんな一方的な気持ちを押し付けられても迷惑なんだよ。いいから引っ込めろ!」
そして何故か受け取らない受け取れで押し問答になってしまったよ! なんで!?
「むぅ。頑固な職人だな。だが、だからこそこれだけの杖を作れたと言えるのか」
「うん? お前なんかに杖のことがわかるのかよ」
「多少はな。この杖には職人の気持ちと魂が込められている。だからこそ淀みがない。本当に素晴らしい仕事だ」
ウィン姉がそう伝えるとワンが照れくさそうに頬を掻いた。
「ちっとはわかってるじゃねぇか。ま、そんな大金受け取るわけにはいかねぇが、どうしてもっていうなら酒の土産ならいつでも受け付けてるぜ」
「なんとそうか! それならば今度火竜酒でも持参するとしよう」
「何? 火竜酒だとマジか!」
「女に二言はない!」
そして最初はちょっと険悪に思えた二人だったけどウィン姉が酒の話をしたことで打ち解けたようだよ。というかすごく話が盛り上がってるし……。