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第188話 例えどんな相手でも……

「く、くそ! 俺があんな奴らに!」


 悲鳴の聞こえた場所まで僕たちが向かうと、そこには足を怪我したレイルが倒れていた。


 見通しのいい広い空間で、レイルはその中央で足を押さえて呻いている。


「足を怪我して動けないんだ。早く助けないと!」

「やめろ馬鹿!」


 レイルを助けようとする僕の肩を掴みガイが止めてきた。


「よく見ろ。どう見てもおかしいだろう。あれも罠の可能性があるってんだよ」

「……罠――」


 たしかにガイが言うように、怪我をしたレイルが広間の真ん中に放置されているのは違和感がある。


「さっきの悲鳴から察するに奴はゴブリンに襲われた筈だ。それなのに怪我したあいつだけあそこにいるってことはゴブリンに囮にされている可能性が高いってことだ」

 

 囮――つまり餌ってことか。僕たちがレイルを助けにいった瞬間に潜んでいるゴブリンが襲ってくる可能性がある、とガイは言いたいんだと思う。


「確かに変よね。ガイの言うように迂闊に飛び出さないほうがいいと思う」

 

 フィアもガイの考えに同意なようだ。確かに罠ならそうかもしれないけど――


「だからってこのままってわけにはいかないよ。なんとかして助けないと!」 

「……本当に助ける必要あるのかよ?」


 ガイの言葉に僕は耳を疑った。


「そんなの当たり前じゃないか。冒険者として困ってる人を放ってはおけないよ」

「……あのレイルはお前をロイド殺しの犯人だと決めつけていた男だろうが。それに兄弟揃ってお前らにちょっかい掛けていたような連中なんだろう?」


「それは――」


 ガイの言葉に僕は口ごもってしまった。確かにそうだ。レイルは僕のことを弟のロイド殺しの犯人だと考えていた。


 随分と突っかかれもしたし今だって僕のことを疑っていることだろう。でも――


「それとこれとは別だよガイ。何を思われていてもレイルだって同じ昇格試験に挑んでいる冒険者だ。目の前で危険な目にあってるなら助けるべきだと思う」


 僕はまっすぐガイを見つめながら伝えた。


「それは綺麗事だろう? レイルは今ここでお前が助けたところで感謝なんてしねぇ。どうせ性懲りもなくお前を追い詰めようとするさ」

「……それでも構わないよ。それにこの状況で黙って見過ごすぐらいなら綺麗事と言われようと、僕は助けるべきだと思ってる」


 今の気持ちをはっきりと伝えるもガイは渋い顔をしていた。


「ガイ。私はネロの肩を持つ。私もいま怪我している相手を放っておくなんて出来ないもの」

「セレナ――チッ、全く揃いも揃ってお人好しばかりかよ」


 ガイがボリボリと頭を掻いた。


「見てネロ!」

「スピィ!」


 するとエクレアが声を上げ指でレイルを示した。見るとレイルの側に矢が刺さっていた。しかも間隔をおいて二本三本と突き刺さっていく。


「くそ! こいつは恐らくゴブリン側に気づかれてる。これは完全に誘いだ」

「うん。でもそれなら――僕に手があるんだ」

「手?」


  憤るガイに僕が答えた。するとフィアが反応し尋ねてきたんだ。


「見てて――水魔法・水濃霧!」


 僕が魔法を行使するとレイルの周囲に濃い霧が発生した。これで近くにゴブリンがいたとしても僕たちを視認できない。


「今のうちに」

「仕方ねぇ急ぐぞ!」


 僕たちは霧が発生している間に急いでレイルの下に移動した。ガイも納得してくれたようだよ。


 そしてガイと僕でレイルの肩を担ぐ。


「な、だれだ!」

「静かにして。声で気づかれちゃうよ」

「その声――まさかあのゴミか!」


 僕の声でレイルが反応した。わかっていたけどいきなりゴミ扱いされるなんてね。でもそんなこと気にしていても仕方ない。


「ちょっとそんな言い方ないでしょう。ネロは罠だとわかっていてもあんたのこと助けたいって。だからこうやって危険なことは承知で助けようとしてるってのに」

「ぐっ、どうせそうやって恩に着せて弟のことを有耶無耶にするつもりだろうが!」

「馬鹿か! そのつもりならここで見捨てたほうが早いだろうが! もういいからテメェは黙ってろ!」


 ガイが圧を込めた口調で言い放った。キッとレイルが睨むけど怪我をしている状況だ。すぐに口を噤んでしまう。


「早く行こう」


 僕たちはレイルを担いだまま先を急ぐ。そして霧から離れたところでエクレアが後ろを振り向いた。


「念の為、ハァアアアァアア!」


 電撃を纏った鉄槌を霧に向けて振り抜く。すると霧の中で電撃が迸りゴブリンの悲鳴が聞こえてきた。


「これでよし。急ごうネロ」

「うん。ありがとうエクレア」


 そして僕たちはレイルを助けその場を離れたんだ。

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