第99話 ロットのお爺ちゃん
「その、昨日はお爺ちゃんが迷惑を掛けてごめんなさい!」
ロットと呼ばれていた少女が僕たちの前までやってきて頭を下げた。突然の謝罪に僕たちを顔を見合わせた後、ロットに話しかける。
「えっと、お爺ちゃんというと?」
「ワンお爺ちゃんの事です……店長から話を聞いて昨晩勝手に皆さんのお酒を口にして持ち帰ってしまったって……」
ワン――そうか昨日店長とも揉めていたあのお爺ちゃんのことだね。
「そのお酒代は弁償させてください!」
ロットが深々と頭を下げた。あのお酒について孫として悪く思ってるようだよ。
「そんな既に店長さんのサービスも受けてるし、それにあのお酒は依頼を達成したお礼に貰った物なんだ。だからもう気にしなくていいよ」
ロットを見てると逆に申し訳なく思えてしまう。それに弁償と言っても試作品と言っていたし値段はわからないからね。
「でもそれじゃあ申し訳ないです」
「いいのですよ。私も昨日はこのお店で美味しい食事をお腹いっぱい食べる事ができましたし」
「そうね逆に得したぐらいかも」
「今日も昨日の事があって満足したからこそまた来たのよ」
しゅんっとしてるロットを見てセレナが重荷にならないようにと既に十分なサービスを受けていることを伝え、フィアとエクレアも彼女が気にしないように笑顔で話しかけていた。
「スピィ~」
「えっとスライム?」
「うん僕の友達でスイムって言うんだ。スイムも気にしないで~って言ってるみたい」
「か、可愛い……」
スイムを見たロットが目を輝かせた。やっぱりスイムは皆の癒やしだね。
「良かったら撫でてあげて」
「いいのですか?」
「スピィ~♪」
僕がそう言うとロットが確認するように聞いてきた。スイムはプルプルしながら彼女に、撫でて撫でて~とアピールしている。
「スイムも撫でられるのが好きなんだよ」
「そ、それなら。ふわぁ~」
スイムを撫でた途端ロットの顔が蕩けたようになった。その後抱っこして上げてと伝えたら喜んでスイムを持って可愛らしい笑顔を浮かべてくれたよ。
「あぁ、でも謝りたかったのに私だけ楽しむのは申し訳ないです。そうだ! ここの食事代は私が――」
「それだけは駄目だロット! 絶対にだ! そんなことしたらここのバイト代なんてすぐに吹っ飛ぶぞ! 自分を大切にしろ!」
ロットが全てを伝える前に店長が彼女を止めていた。僕もそれは止めておいた方がいいと思うよ。
「本当に気にしないで。でもここで働いていたんだね」
「はい。夜はお爺ちゃんの事もあるから昼間がメインになりますが……」
「ロットは偉い子さ。ワンのツケも本当はロットがうちでバイトした給料から少しずつ払ってくれてるんだよ」
そうだったんだ。結構苦労してるんだね……。
「何かさっきから聞いていたら悪いのはあのワンってお爺ちゃんじゃない。貴女もお爺ちゃんの為に苦労して大変なんでしょう?」
「いえ――確かに今は皆に迷惑をかけることが多いけど、私はお爺ちゃんを尊敬しているしきっとまた立ち直ってくれると信じているから」
「うんうん。ワンがうちで呑んだりしないようお願いしてきたのもロットなのさ。それも立ち直って欲しいって一心からしかもワンがやらかした分を自分で働いて返そうだなんて泣ける話じゃないか」
店長が鼻を啜ってロットを褒めた。それにしても立ち直るか……。
「あの、いま立ち直ると言っていたけど君のお爺ちゃんはもしかして腕のいい職人だったとか?」
何となく気になってロットに聞いてみた。昨日店長も職人だったとは言っていたからね。
「はい。お爺ちゃんは前は腕のいい杖職人だったんです。遠方からもわざわざやってきて杖を注文に来るぐらいは――」
杖職人!? そうか昨日ワンが言っていた杖が泣いているというのは杖職人から見てだったんだ……でもそうなるとやっぱり気になる。
「あの、やはりお詫びを」
「それなら一つお願いしてもいいかな?」
昨日の事でどうしても何かで謝罪したいと考えているロットに僕は一つ頼み事をすることにした。
僕としても気になっていたからね。
「後でいいのだけど君のお爺ちゃんのいる場所まで案内してもらってもいいかな?」
「え! お爺ちゃんのですか!?」
ロットが驚いていたけど、腕のいい杖職人ならもしかしたら僕の杖を強化する方法がわかるかもしれない。水属性だしどう思われるかわからないけど昨日の発言――そういう人ならもしかして……。