01 はじまりの恋
時房は頼朝挙兵の時は子供だったので戦には参加せず。その後の人生は、義時の良き補佐役になります。そんな時房に生涯の恋があったら(これは二部にもつながる話なのですが)という事で
べたなラブロマンスを考えてみました。
「沙羅・・・俺は北条家の息子として、お前を妻にする事はできない。側室にする事しかできない。だが、俺は生涯正室を迎えない。お前と沙夜さやを鎌倉に連れて戻る。俺を信じて一緒に来てくれ」
「時房様・・・そのお心だけで十分でございます。どこへなりと、あたな様についてまいります」
山深い京の邸で語りあうのは、鎌倉将軍頼朝の義弟:時房と、三年前に時房の前から姿を消した白拍子:沙羅であった。二人の傍らには、幼児:沙夜が眠っていた。
二人は三年前に恋に落ちたが、時房は鎌倉に連れ戻された。時房は必ず迎えに来ると言い、乳兄弟の雅房を沙羅の許に残していたが、沙羅は姿を消し、雅房からの消息も途絶えた。
時房は沙羅を忘れかね、縁談を断り続けていた。
時房の許に密かに雅房からの手紙が届く。沙羅が姿を隠したのは、子供を奪われる事を恐れたからで、今は、娘と共に、異母兄を頼って隠れ住んでいると。
沙羅は一人で娘を育てるつもりだが、自分の一存で時房に知らせると。
時房は鎌倉を抜け出して、沙羅を迎えに行った。
時房は、沙羅と沙夜を鎌倉に連れて帰り、父:時政、兄:義時、姉:政子に対し、自分は沙羅を正室する事はしない。万一男子が生まれても後継にはしない。その代り、正室も迎えないと言い切った。
沙羅の父方の家のつてを頼り、彼女を下級貴族の養女として体裁を整えることもできたが、時房は、貴族との縁ができることを恐れ、あくまでも白拍子とその娘を連れて帰るという形をとった。
反対する時政・義時ではあったが、それぞれ強く言えない事情があった。
時政は、若死にした長男:宗時の思い出のため。
義時は、嫡男泰時のため。