Mirror
初めての創作で深夜テンションのまま作ったということもあり大変拙く分かりにくい文章になってしまったかもしれません。どのようなご意見でもありがたく頂戴致しますので感想を頂けると恐縮です。
目を覚ますと眩い光が身体を包む。あまりの明るさに少女は思わず目を瞑り、それからそっと目を開けた。名前が思い出せない。此処は何処だろうか。頭に浮かんでくる記憶は何も無かった。左右と後方が壁で囲まれているのに天井が無い。呆然として青々とした空から目を落とすと、自分の前に大きな鏡があることに気付く。身長の三倍はありそうな鏡に目覚めてから一度も気づかなかった事実に驚きながら、身体を起こし鏡へと近づく。好奇心故か、少女は何となく鏡へと手を伸ばしてみる。自身の記憶は空っぽで理解が追いつかないままであるのに、鏡が自身を写すモノだということだけは直感的に理解出来た。少女は自身の外形を知ろうとしたが、鏡に写っているはずの自分の顔が無かった。顔だけではない。身体も、影すらも無い。後方の壁も左右の壁も青すらも写っているのに自分だけが写っていない。伸ばしていた手を戻し少女はさらに近づく。今度は鏡に触れてみた。瞬間、景色が回り始め、触れている手が歪んで見えた。驚いて触れた指先を離そうとしてようやく気付く。自身の手は鏡に触れておらず、写った景色を掴もうとするかのように入っている。少女は、目を瞑った。
なにか声が聴こえる。声、というよりも叫んでいる様にも思える。訳の分からぬまま目を開けると、不安そうな顔の男と目が合った。男は安堵し、アキラ、俺が誰か分かるかと「僕」に質問した。......僕?、と唐突に現れた記憶に混乱しているのも束の間、鮮明に思い出していく。此処が病院であること、自分は交通事故に遭い意識不明の重体であったこと、男は父親で自分はこの男の息子、明だと自覚する。父さん、と掠れた声で父に返事を返すと僕の名前を呼びながら手を握りしめすすり泣く。夢か現実かの区別もつかない少女の事を話そうと考えたが強烈な倦怠感を感じ、閉じようとする瞼に抵抗しながらゆっくりと、ゆっくりと意識が消えていく。明は、目を瞑った。
目を覚ますと、父の姿はなかった。分厚い灰色の雲が目に入り、病院の天井でないことに気付き身体を起こそうとするが意思に反して身体が動かない。なんとか頭を持ち上げると下半身が無いことに気付く。激痛と記憶が奔流し、自身が重篤な負傷兵だと思い出す。「明」は自分の妄想だった。事故に遭ったが奇跡的に一命を取りとめ今は穏やかに過ごしている少年だ。現実逃避が生みだした妄想は崩れ落ち、負傷兵は激痛を忘れようとする。明アキラあキラあきラと騒いでいる間はほんの少しだけ痛みを忘れられる気がしたが、長くは続かなかった。自分の声が遠く感じ視界が霞んでいく。負傷兵の目から光が消えた。
少女は吐き気を催し、口いっぱいに胃酸の酸っぱさを保持した。悪寒が続く中、「明」も「負傷兵」も鏡が見せた記憶だと痛感した。振り返ると既に自分が通り抜け、破片となった鏡があった。弱々しく立ち上がり、綺麗に割れた三角形の欠片を手に取り覗き込むが、やはり景色だけが写る。少女は、自分が写らないのであれば、何故鏡の存在に気付くことが出来たのか疑問を持った。少女は考える。が、答えなどないことを悟り、再度欠片を覗いてみる。今度は欠片の中から少女へと向かってくる影が見えた。直後、頭に何かがぶつかり影の正体が鍵だと分かった。鍵は少女の足程の大きさだが、持ち上げてみると存外軽く欠片の方が重く感じる程だった。持ち手近くに赤と青の光が灯っていた。丁寧に結ばれた紐がついてあったので少女は鍵を首にかけて先へと進むことにした。
最初の鏡からどれほど歩いただろうか。少女は既に変わらない景色の中で「負傷兵」の事を考えていた。相変わらず名前も現状も分からないままだが、鏡を介して見た記憶の事は数コンマ単位で覚えていた。「負傷兵」は戦争中に地雷爆発に巻き込まれて体の半分を失っていた。しかも、爆発の原因は上官に命令され、一番前を歩かされていた。爆発と同時に上官の不敵な笑みが見え、全て計画されて行われたことだと察した。絶望と激痛が渦巻き、気付けば妄想の中の少年「明」の名を連呼していた。想像も出来ない痛みで少女は、もしも自分が「あの負傷兵」ならどんな妄想をするか考えていた。あまり考えながら歩いていた為目の前にそびえる鏡に気付かず、視界が歪むと同時にもう遅いことを悟った。仕方なく少女はまた目を瞑った。
最初の鏡は少女の意識は無く、記憶の人物と同じ感覚を得ていたが、今度は違った。「明」の事も「負傷兵」の事も、鍵の事も覚えていながら街中を歩く女の意識になっていた。だが少女の意思で周りを見ようとしても体は歩を進めるばかりで周囲の様子など気にもとめない様子だ。女はしばらく歩くと足を止め、大通りから少し離れた一軒家の戸を叩く。入れ、と低く重い声が中から発すると女は戸を開け中へ入る。家の中は暗く、酷く生臭いにおいで覆われている。大きな部屋だけの変わった家だと少女は悪臭のなかで思った。木で出来た廊下が軋み、女が部屋に入ると裸で待っている巨漢達がいた。少女は目を瞑ろうとしたが女の身体がそれを許さない。奇妙な間の後、脱げ、とただ一言、女は従うように着物を脱いでいく。女も裸になると巨漢達の目は女の身体を舐め回すように見ながら囲んでいく。逃げ場の無くなった女はその場に正座し巨漢達を見上げる。少女は女の腕程もあるモノを恐ろしく感じた。やがて、「儀式」が始まると少女は何も考えないようにした。
少女は再び吐き気を催した。最初の鏡とは違う吐き気だったが数倍ほどの量をその場に撒き散らした。収まったと思っても巨漢達の悪意の塊の如き笑顔が脳裏に焼き付いて離れない。数回に渡りもう何も出なくなってから、壁にもたれかかった。女は「儀式」に選ばれた盃と呼ばれていた。巨漢達は街を治める役人で、安全を保障する条件に街の女を毎月あの家に呼び出し「儀式」を行う。自分の意識で身体を動かせる直前、女が縄を天井に取り付けている様子が痛ましく感じた。
なんとか立てるぐらいまで回復し、壁を伝いながら割れた鏡へ近づく。全く同じ割れ方で気味悪く感じた少女は手に持っていた欠片を投げ捨てた。鍵には緑の光が灯って三色のコントラストがなんだか美しく感じられた。
二枚の鏡を通して少女は希望の無い記憶を見るのだろうと推測した。だが二つの記憶にはどちらも違和感があった。「負傷兵」では、わざわざ味方を貶める必要が無い。「儀式」を行う度に女が命を絶っていては、そのうち「盃」がいなくなり、役人が街を守る理由が無くなる。しかし街が潰れてしまえば役人達は権力を失うだろう。考えていても仕方の無い事と割り切り、少女はどんな絶望をも乗り越えてみせると覚悟し、鏡へと踏み込んだ。目は、開けたままだった。
鏡の記憶を見せられると思っていたが、自分の意識で動くことが出来た。それどころか、今までと同じ景色が続くだけで違う点は鏡が割れていないことだけだった。鏡を見ると自分の姿が写っていた。比較した時に見たはずの足は下半身毎写っていない。「盃」にされた女の腕の痣が明らかについている。鏡に写った姿は二枚の鏡を掛け合わせた姿だが、腕を触っても足を触っても感触があり、鏡と異なる姿だった。自身を写すはずの鏡が自身であり、自身で無い記憶の身体を写していた。鏡に恐怖を感じ離れようと振り向くと扉が目の前に佇んでいる。鍵穴の付いた扉で首にかけていた鍵の形と一緒だった。息を飲み、鍵を持つ手を震えさせながら鍵穴へと差し込む。右に回すと鍵が外れた音が聴こえ持ち手を力強く握りしめ奥へ押す。眩い光と共に少女は閉まる扉の中へ消える。
少女は難病患者で余命が数ヶ月と医師から診断されていた。昏睡状態へ陥った時、もう目を開くことは無いと少女の両親は告げられた。少女に何度も何度も壁が訪れてその度に両親は手を強く握りしめた。少女は、奇跡を起こした。光を見ることは無いと診断された瞼が開き眩い光を見る。無意識に足や痣を確認し何故か安堵した直後、自分自身を不思議に思った。窓から入る風が少女の髪を乱す。髪をおさえながら風の中でありがとう、と聞こえた気がした。病床から降り窓に近寄り上を見上げると澄みきった青空が、ただ一つ。少女の手には淡い光を放つ小さな鍵が、ただ一つ。
まず、この作品はフィクションであることを前提に、私自身の勝手な想像の話だと断っておきます。内容としては病気の少女が何度も押し寄せてくる壁を越え、絶望の淵から希望を掴み取る物語を書きたかったんです。文章力が無いので訳分からん!ってなった方が多いと思います。本当にすみません。鍵の赤、青、緑の光についてですが、これは父親、母親、医師の想いの光的なアレです。......思いっきり後付けです。すみません。初めてなので許してください!!