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転生斡旋所

転生斡旋所#11

作者: 灰色

「いじめで自殺された、という事で間違いありませんか?」

「はい」

中学生と思われる女性と担当職員が応接室で会話していた。

いつもの通り、資料を読んだ上で転生先等の希望を書いていただき、その内容を確認する。

内容に問題があり、担当者は変更を提案した。

「いじめの首謀者の子供に転生し、家庭を崩壊させたい、とありますが、資料にも記載があったように、当斡旋所は復讐のような後ろ向きな目的の転生は許可する事が出来ません。次の生を良いものにする為の手助けをする所です」

「綺麗事を言わないで!」

学生は激昂し、叫んだ。

「いじめられた記憶を持ったまま、知らない世界で幸せに暮らせと!そんな事出来るはず無いじゃない!いじめた方はどうせすぐに忘れて、次の標的を探すだけ。その上何の咎も受けず、その後の人生を謳歌するのよ。そんなの許せ無い!」

「落ち着いて下さい。記憶を消して転生する、という選択肢もありますし……」

「そういう事じゃ無い!なんで虐めた方はさして咎を受けず、のうのうと生きられるのよ!どうせあんたも虐められた経験も無いんでしょ。だから……」

「黙れ」

言葉と同時に担当者が机を蹴りあげる。

その音に驚き、怯えた彼女は少しだけ冷静になり沈黙する。

「失礼しました。泣き言を聞くのは業務範囲外でしたので、少し苛立ってしまいました」

いつの間にか蹴り上げた机と舞散った書類が元に戻っている。

「いじめられた経験はありませんが、奴隷として扱われていた事はあります。余談ですが」

「奴隷……」

彼女は絶句する。自分の国には無い制度であり、理解が追い付かない。

「話を元に戻しましょう。いじめに関してのありふれた議論は必要でしょうか?」

まだ反応出来ない彼女の様子に、無言は肯定と判断し、話を続ける。

「私見ですので、あくまで参考として聞いて下さい。いじめが無くなる事はありません。人は、『自分はあいつよりましだ』と自分より下の扱いを受ける人が居る事で、自身の精神を守っています」

コーヒーを一口飲み、続ける。

「いじめられて転校した人は、転校先でいじめられないようにいじめる側に回る、という事例もあるようですね。貴方のように自殺するケースについては、周囲の無理解が一番の原因では無いでしょうか」

彼女は涙ぐみながら、返答する。

「そうよ。両親も教師も友達も、誰も助けてくれない。スクールカーストの上の娘の機嫌を損ねて目をつけられると、暇潰しのように毎日いじめられ、後は刺激を求めてエスカレートする一方」

辛い記憶を思い出したのか、泣きながら話す。

「その原因はどこにあると思いますか?」

担当者は泣いている彼女に問いかける。

「原因の一旦は私にあるのかもしれないけど。目をつけられるような行動をした私が馬鹿だった」

彼女の自戒を遮るように担当者は話し出す。

「いえ、貴方にそこまでの責任はありません。あえて言うなら、時代が悪かった。教師の権威を貶め、子育てを放棄し、自分がターゲットになりたくない、空気を読めない奴が悪い。そんな感じだったのでしょう」

担当者は続ける。

「自分は悪くない、親が、政治が、世界が、時代が、と他が悪いと言いますが、どこでも同じです。まともな世界など私が知る範囲ではありません。転生先として紹介する世界も同じです」

「それじゃ、転生する意味なんて無いということですか」

ようやく涙の止まった彼女からの問いに対し、返答する。

「意味があるかどうかは貴方次第です。自分でどうにかするしかありません。自殺出来る勇気があれば死ななくてもどうにか出来たのではないか、などと誰にでも言える事を言うつもりもありません。全ては自分で選択した事。選択する自由さえない人も居るのです」

更に続ける。

「自殺したという結果は変えられません。既に確定した事なのです。ここはその先を選ぶ権利を与えられた人が来る場所です。権利を使うかどうかは貴方次第です」

少しの間、両者共に沈黙する。

担当者のコーヒーを飲む音だけが聞こえる。

意を決し、彼女が発言する。

「いじめた相手を許すことも、その記憶を持ったまま転生する事も私には出来ません。選択肢をいただき有り難うございます。権利は破棄」

彼女の発言を遮り、担当者が発言する。

「貴方も頑固ですね。転生により改善の余地があると判断された方だけが権利を与えられる。なかなかレアな権利なのですよ(実験的に転生させているケースも多々ありますが)」

言いながら端末を操作し、ある画面を見せ、話を続ける。

「後、貴方の希望に添えない理由もあるのです。本来はお見せ出来ないのですが、特別ですよ」

画面の中には、彼女の死後に起きた事が抜粋して表示されていた。


・いじめについて、彼女の両親が可能な限り証拠を集めようと行動する

・証拠をマスコミに流し、学校に訴えようとする

・学校は生徒にアンケートを取り、都合の悪い結果を隠し、「いじめは無かった」と回答する

・アンケートにいじめについて記載した一部の生徒と、その結果を知っている教師が(金銭を受け取り)マスコミにリークする

・学校側は否定を続け、泥沼の法廷闘争に

・首謀者の生徒は転校して逃げようとするが、未成年でも個人情報を特定し暴露する世の中、その後の人生は悲惨なものとなる

・首謀者が居なくなっても、残った加害者の中から次のリーダーが決まり、いじめについてアンケートに記載した生徒に対していじめが始まる


彼女は画面を見た後、絶望したように項垂れている。

「首謀者に復讐してもさして意味が無いでしょう。結局人は争い、次のターゲットを探していじめが始まる。そんな世界なのですよ。復讐する必要は無いでしょう。それより、今の知識を利用して次の生を堪能するべきでは無いですか」

彼女は全ての気力を失ったかのように、担当者に促されるまま転生するのであった。


〈後日談〉

担当者は同僚と食堂で会話していた。

「流石ですね。思春期の難しい娘の転生を簡単に処理するなんて」

「大した事ではありません。パラレルワールドのうち、彼女に適した世界を見せた。それだけですよ」

軽食とコーヒーを摂りながら、返答する。

「普通はその加減が難しいんですよ」

定食を食べながら同僚はそのコツを聞き出そうとする。

「自分がどれだけ恵まれているかを理解させ、後は動揺しているうちに片付けただけですよ」

「怖い怖い。敵には回したくないですね」

「味方にもしたくないでしょう」

二人とも笑顔で本音を隠したまま、食事を終えて午後の仕事に戻っていった。




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