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ショートショート4月~2回目

被害者

作者: たかさば

「……おい。騒ぐんじゃ、ねえぞ?金を、出せ」

「……か、金なら、だ、出す」


週末、繁華街の裏通りで、俺はピンチを迎えていた。


少し暗くなる時間帯、商店街横に伸びる、人気の少ない場所。

パソコン店で、最新のプリンタを見てきた、帰り道。


俺の背後には、厳つい男と思われる、気配。

俺のわき腹から背中にかけての一部に当たる、鋭利な刃物の、感触。


荷物がほとんど入っていないリュックの端を握られて、逃げ出すことはできそうにない。


……おそらく、俺は、目を付けられていたのだ。


パソコン店に入って、店員に声をかけた時?

最新のプリンタを、見たいと申し出た時?

現金で買いますと、話をした時?


雨が降りそうだからという理由で購入をやめた時には、もう狙われていたのだろう。


「有り金全部、出せ。騒いだら……これが、ぶっ刺さるぜ?」

「わ、わかった」


リュックの中から、……長財布を、取り出す。

それを、秒で奪われた。


「あの、向こう側にいる金髪。あいつは俺のツレだ。……他にも、三人、近くにいる」

「は、はい……」


俺の背中には、ナイフが突きつけられたままだ。

……動けない。


「お前がおかしな動きをしたら、すぐにぶちのめす。黙って地下鉄に乗れ。」

「わ、わかりました」


遠くの金髪が、頷いているのが、見える。


「お前が地下鉄に乗るまで、別のやつらが見てるからな。ゆっくり、歩いて……この場を去れ」


男が、俺のリュックを、放した。


ゆっくり、一歩づつ、前に進む。


金髪の横を通り過ぎ、右に曲がって、地下鉄の駅の階段を、下がる。


途中、柄の良くない若い男たちと、すれ違った。


……俺にナイフを突きつけた男の仲間だろうか。


地下鉄に乗り、主要駅まで移動した。

……県下最大級の繁華都市駅。


車両はいつの間にか満員だ。

車両から、雪崩れるようにして人々が降りてゆく。


……これだけ人がたくさん降りれば、俺も人に紛れることができる。


人の波に混じり、駅構内を移動する。


やがて、俺の目に、鉄道警察隊警察詰め所が、映った。


……透明な扉の向こうに、警察官が、一人、二人。


……透明な扉の近くに、柄の悪そうなやつが、一人、二人。


俺は周りをきょろきょろと見渡し、普通電車に乗って、家に帰った。


無事、家に着いて、リュックを、玄関に下ろす。


上着を脱ぐと、右わき腹あたりの布地が、破れていた。


……ナイフは、肉体には刺さらなかったが、衣服にはしっかりと刺さっていたようだ。


「もう、気温も上がるし……捨てるか。明日はゴミの日だし」


俺は、上着をゴミ箱に投げ捨て、ついでに帽子もリュックも手袋も投げ捨て、風呂に入った。


風呂から上がって、ビールをひっかけつつ、買い置きのつまみを出してテレビをつけた。


一夜干しのいかにマヨネーズを付けたあたりで、地方ニュースが始まった。


〈本日午後七時ごろ、〇〇市で偽札が発見されました。およそ50枚にも及ぶ偽造紙幣の発見は県下初の事であり、大規模な犯罪組織の可能性もあるとみて警察は捜査に乗り出すとのことです。なお、犯人グループは組織との関係を否認しており、捜査は難航する模様です〉


「明日は眼鏡でも買い替えに行くかな?しばらくはコンタクト生活しないとね。ああ、早いとこプリンター買わないといけないな、請求書刷れないんだよね。今日見たやつ、ママゾンで買っちゃおうかな?」


もぎゅもぎゅもぎゅ……ごっくん。


イカをかみ砕いて飲み込んだ俺は、ビールをあおりながら、スマホの通販アプリを起動させた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] まーじーかー。二本くらい取られました。 [気になる点] セリフの臨場感がもうね、深読みそれどころじゃない [一言] イカで人食ってるのかと
[一言] これは、スマートなザマァですね。 偽札は罪が重いですからねー。
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