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41.イレギュラー

あけましておめでとうございます。いつもブクマ・評価・感想には筆の進みを助けて貰っています。

完結目指して今年もお付き合い頂けると幸いです。




「初日、式にも出ずにずっと庭に居た人が居るって話さ。ま、ボクも聞いただけだから実際には見ていないけどね」


「へぇ、そんな人が。なんで庭に居たんでしょうね?」


講堂の席で、私を挟んで仲良くおしゃべりするソフィアとアシュレイ。授業が始まってからここ数日で仲を深めた二人は、こうやって授業前、雑談に花を咲かせる程度の間柄になっていた。

うん、私も友達同士が仲良くなるのは嬉しいわ。でもね


「いや、おかしいでしょ。なんで貴女は毎回ここに座ってるのよ」


周りを見渡せば、他の生徒たちはきっちり身分、序列の順に座っている。前は高い身分、後ろは低い身分になるように、だ。なのに、後方席に座る私の周りだけ、ひと際異彩を放っている。

左手側のソフィアはいいわ、でも右手側のアシュレイと後ろに座る転生者は絶対におかしい。

あなたたち両方とも侯爵家でしょう。なんで平民側に溶け込んでるのよ。初めは萎縮してた周囲の平民の人たちともいつの間にか仲良くなってるし、私か、私がおかしいのか。

前の方の席で私たちにそれとなく奇異の目を向ける貴族たちとの距離がひどく遠く感じる。私の感性も本来あっち側のはずなんだけどなあ。ほら、転生者被害者仲間こと伯爵令嬢エミリー・カートレットさんなんて前の方の席から私をめちゃくちゃ睨んでるもの。やっぱり悪目立ちしてるのよこれ。

かと言って、アシュレイは「まあいいじゃないか、細かいことは」なんて言って聞く耳持たずだし、転生者は隣に座ってる商家の息子と新商品開発の打ち合わせ中だ。

諦めを溜息と一緒に吐き出しながら窓の方を見ると、窓際の席に居た、私にこの前突っかかってきた黒髪の子と目が合った。確か名前は、サクラさん、だったっけ。一度は突っかかってこられる形になった彼女だけど、あの時は機嫌が悪かっただけかもしれないし、これから仲良くなれるかもしれない。

そう思って笑いかけると、ひどく溜めの入った舌打ちで返された。何故。

こうして四方遠近安息の地がどこにもなくなった私は、ソフィア他皆から時折振られる話に返事を返しながら授業の始まりを待つ。悲しいかな、これがこの教室いつも通りの光景だった。




「静粛に、皆席に着きなさい」


魔法学担当の中年男性の先生が講堂に入ってくるまで続いた私の周りの喧噪は、教壇に立った先生の一言でピシャリと収まる。ここでしっかり静かになる辺り、破天荒だけど無法地帯じゃないから私も強くは言えないのよね。

なんて余計な事を考えながら、先生が教室の前に吊り下げられた、魔力を投影する石板に魔力で文字を書き込んでいったものを、学園から支給されている紙に板書していく。

普及率が上がったとは言えまだまだ高い紙を全生徒に支給しているところは流石に王立学園だ。とはいえ年間で使える枚数は決まっているから板書はかなり詰めて書かないといけないし、、中位以上の貴族は自前でもっと質の良い物を持ってきているけど。

それでも支給されるだけありがたいと思うようになったのは、私も平民生活に染まってきたんだろうな。そんな風に紙に授業内容を写しながらも妙な感慨に浸っていると、問題を石板に書き込んでいた先生が途中で手を止めて、私のことを教鞭で指した。


「それではここの問題、フィリス・リードくん、答えてみなさい」


「はい。詠唱とは魔法の発動において具現化する現象を固定化するためのもので理論上は短縮可能ですが、短縮すると現象が不安定になるため実際には短縮は非推奨、また、一部魔法では不可能とされています」


私は先生の指名に起立し、問題文から最も適切そうな回答、かつてグランベイル家で読んだ魔法基礎学の本の内容をほぼそのまま口に出すと、先生は満足げに頷いた。


「よろしい、模範的な回答だ。ではその不可能とされる一部魔法とはどのようなものか、またそれは何故か、ソフィア・リードくん」


指名されたソフィアに場を譲り、着席する私。基礎学から少しはみ出して応用的な問題だけど、答えられるだろうか。そんな私の杞憂を吹き飛ばすように、ソフィアは落ち着き払った態度で立ち上がった。


「ええと、三文節以上からなる詠唱の魔法です。詠唱とは魔法の構成要素を表しています。だから、三節以上の複雑な魔法を短縮しようとすると、要素が抜け落ちてしまい別の魔法となるため、です」


「おお。少々難しいかと思ったがソフィアくん、正解だ」


ソフィアの答えに貴族席からどよめきがあがった。まあ、後期に習うような内容、下手したら現時点では中流程度の貴族でも間違えそうな問題を平民がスラスラと答えたら驚きもするわよね。

ソフィアの完璧な答えに内心鼻高々になっていると、突如教室の隅からバン!という机を叩く音が聞こえ、音の方を向くと黒髪の少女、サクラが立ち上がっていた。


「それは私が……私が答えるはずの問題でしょ?!あんたが間違えて、私が答えて、そういうイベントじゃないの?!なのにあんたは……あんたじゃないはずよ!」


いきなり堰を切ったように取り乱すサクラ。彼女は目をこれでもかと見開き、がなり立てるような声でソフィアに向かって要領を得ない何かを叫ぶ。言っている内容は分からないが、その声には明確な怒りが籠っていた。

わけもわからず怒りをぶつけられ怯えるソフィアを、私は席から立ち上がりながら抱き寄せて、サクラから遠ざけるように背に隠した。間に遮るものがいなくなり、相対する形になった私とサクラの視線が交錯する。


「静かに。授業中ですよ。先生も困っておられますから」


「そうか、やっぱりあんたね。あんたがイレギュラーなのね。ルートが発生しないのも、世界がおかしいのも。原作に居なかったあんたの!」


それは怒りか憎しみか、その声に宿る負の感情が段々と大きくなるのに比例するように、サクラの周囲に魔力が渦巻いていく。それが魔法発動の前段階であることは誰の目にも明らかだった。


(!まずいわ)


慌てて対抗魔法を形成しようとするも、まさか講堂で魔法を放とうとするとは夢にも思っていなかった私は、致命的に出遅れていた。


「≪闇の精に命じる。我は落日の訪れを告げる者」


サクラの詠唱が始まり、既に魔法を展開するのは手遅れだと悟った私は、近くに居たソフィアとアシュレイを突き飛ばした。

一体何の魔法を撃とうとしているのかはわからないけど、雰囲気からして攻性の魔法だ。なら、私の近くには誰も居ない方がいい。私がここから動かなければ、被害はきっと私だけのはずだから。

覚悟を決め、頭だけは守るために両腕を前に出す。けれど魔法が飛来する前、サクラの魔法の詠唱完了よりも先に、緊迫した場にいるとは思えない柔らかな声が間に割り込んだ。


「≪解けちゃえ、毛糸玉!≫」


転生者の声を合図に、サクラの周囲の魔力が霧散する。急に訪れた静寂に、講堂の皆が呆気にとられる中、一人転生者だけはいつものペースでまるで普通に授業中に質問でもするかのように手を上げた。


「先生~。授業、続けなくていいの?」


「え、ええ、そうですね。授業を続けましょう。と、その前にサクラくん、あなたは授業後謹慎です。三日間寮から出ることを禁じます。一度目は謹慎で済ませますが二度目はありませんよ。それと、フィリスくんも謹慎です。巻き込まれた形に見えましたが、諍いは慣例に乗っ取って両者罰則になるので。日数はこの後事情の聞き取りをしてから決定します。いいですね?」


転生者に声をかけられ調子を取り戻した先生によって場を取りなされると、私は粛々と、サクラは渋々と言った体で引き下がった。

場が収まり、私は突き飛ばしてしまった二人に謝ろうとして振り返ると、何故か瞳一杯に涙を溜めたソフィアに思いっきり睨まれた。つ、突き飛ばした時に力が強すぎた?それとも当たりどころが悪かったの?

戸惑う私の肩を、アシュレイがポンと叩いて苦笑した。


「ま、キミは悪くないがキミが悪いよ。後でこってり絞られると良い。ボクも助けられた分くらいの援護はするからさ」


何が、そう言い返す間もなく授業が再開してしまったので続きを聞くことは出来ず、私はそれからの授業に全く集中できなかった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 授業中に攻撃する 主人公もなかなかやり手だな でもちょっと無理じゃないですか? 不満は蓄積されるべき [一言] happy new year!٩(˃̶͈̀௰˂̶͈́)و 更新お疲れ様で…
[一言] 明けましておめでとうございます、今年もよろしくお願いします。 そして、新年早々の更新お疲れ様です。 サクラさん、めちゃくちゃ余裕ない。さすがに授業中に魔法を放つのはやり過ぎですね。 そして…
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