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13.禁忌

ガウス翁とを共犯に禁忌を共有することを了承した私だったが、危ない橋を渡るのであれば情報はどれだけあっても足りない。

一部の情報の欠けも無いように、私は禁忌についての情報を聞き出していく。


『ガウス翁、身体を得るのにある魔法を行使する、とおっしゃいましたがそれはどのような魔法なのですか?』


そう問うと、ほんの一瞬だけガウス翁は何かを思い出したように苦々しい表情を浮かべたが、すぐに表情を消した。

ガウス翁は一切の感情を排した顔で、重々しく口を開いた。

「……魔力で身体となる器を作り上げる。そうして出来上がった空っぽの身体に魂を込める、今回だとアイリス嬢がそのまま入る形じゃな。おそらくアイリス嬢が身体を奪われた方法も、これに近しい術じゃろう。元々は別々の身体と魂を入れ替える事を目的とした魔法じゃ」

『その魔法に解除方法はあるのですか?』


ある意味、私にとってはこれがこの話の核心だ。解除の方法さえわかれば、自ずと道筋も立てやすくなる。


「元の身体に触れ、直接魔力を流し込むことで魂が戻る、そう書かれておったはずじゃ。詳しいことは残魂教の文献を再度読んでみん事にはわからんが」

『今の私がアイリス・グランベイルの身体に直に触れることは出来ませんし、どちらにせよ別の身体は必要ということですか』


元々この話を断る気はなかったけれど、これで別の身体を用意してもらうことの重要性が私の中で一気に上がった。

身体を得て、王立学園に入学し、転生者、もといアイリス・グランベイルに接触出来るような立ち位置を確保する。

これが私が私に戻るための道筋だ。


『しかし、別の身体を利用するのであれば、私は一体誰ということになるのですか?まさか私もアイリス・グランベイルと名のるわけにもいかないでしょう』

「適当なバックストーリーをでっちあげるが、そうじゃなあ。成人前に両親が死んで家が取り潰され、教会入りした元貴族でどうじゃろう。背景をでっちあげるのに協力を得れそうな貴族に心当たりもあることじゃし」


流石、元とは言え教会のトップに居た人物だ。簡単に言っているけれど、よほどの誼かかなり大きな借りでもなければ、そんな協力は得れないだろう。私が思っているよりもこの老人の手は長いのかもしれない。


『それで構いません。けれど、それだと元貴族とは言え立場は平民同然ですから王立学園に通うのは難しいのでは?』


王立学園には平民も通うとは言え、それはあくまでも有力者の子供だけで、メインは貴族で、将来の地位が確約された子供たちだ。お家が取り潰された元貴族程度では、到底入学は許されない。


「儂の息子がアイリス嬢の才能を見出して養女にしていたことにしようと思うとる。過去似たような境遇で王立学園に通った前例があるから、儂の出来るなけなしの工作と合わせれば養女も入学も押し通せるじゃろう」

『故人の名を勝手に使うことになりますが、よろしいんですか?ガウス翁の名でもよろしいのでは』


先ほどの話では、ガウス翁の息子は既に他界していたはずだ。既に亡き人の名を、その人の家系に密接に関わることになる養子縁組に利用してもいいものだろうか。


「儂の養女にしてもいいんじゃが、それだとソフィアとの関係が大分おかしなことになるじゃろう?それに、ちと理由があって儂よりも息子の養女にする方が融通が利くでの。後はそうじゃな」


スッと、ガウス翁の目が優し気に細められる。


「儂の息子もソフィアのことを溺愛しとった。そのソフィアを守るために名を利用するんじゃから背を押すことはあれど反対はせんじゃろう。念のため、あやつの妻には了承はとるがそちらにも反対はされまい」


そう言ったガウス翁の顔は、どこか誇らしげだった。言葉の端々からも、家族への信頼や愛情が窺い知れる。私の家族には無いものだ。


『そう、ですか』


少しだけ、そこまで両親たちに想われているソフィアが羨ましい。あるいは、母様が生きていれば私もそうだったのかもしれないけど。

……考えるのはよそう。今はただ、身体を取り返すことに邁進するだけだ。


「そろそろ時間じゃな。アイリス嬢、他に聞いておきたいことは?」


ガウス翁が魔力時計に目をやり、扉を一瞥した。どうやら、そろそろ一緒に居たお付きの男性が帰ってくる頃合いらしい。


『ソフィアにはどこまで話してもいいのですか?共に王立学園に通うのならとても隠し通せないようなことも幾つかありますが』

「身体を得る具体的な方法と身内の愚かな政争だけ隠してくれれば、あとは話しても良い。口留めは必須じゃが、あの子は口も堅いし教えれば分別もつく」

『わかりました。後、身体を得る魔術と言うのはいつ行うのですか?』

「準備が出来たらこちらから声をかける。素材や魔力が大量に必要になる故、すぐにとはいかんが……それまでは引き続きソフィアのことを、儂では立場もあってあの子の傍には居れん。だから、頼む」


ガウス翁は深く私に頭を下げると、盗聴防止の魔法を消してソフィアに話かける。


「また折を見てくるからのう。今回はあまりソフィアと話せなんだが、今度来るときはその分はたくさん話をするとしよう」

「うん、待ってる」


再開の約束に、ソフィアが嬉しそうにはにかむ。ガウス翁がそんなソフィアの頭にポンポンと手を置いてから、扉の方に向き直ると、扉をノックする音と男性の声が部屋に響いた。

「お迎えにあがりました」

「丁度今話が終わったところじゃて。開けても良いぞ」


その声を合図に、ガチャリと扉が開かれると、その前に居たのは、やはり最初にガウス翁についていた付き人だった。


「全く、ゆったり孫娘と別れの挨拶をする暇もないわい」

「これ以上は私も総主教の目も誤魔化せませんから、お早く退出して頂けると助かります」


ガウス翁の付き人は、手に持った布で汗を拭く。気温が熱いわけでも、彼の息が上がっているわけでもないので、あれは多分冷や汗だ。この人も苦労人なんだろう。

お付きがソフィア軽く会釈をして退出する。扉が閉まってからしばらくすると、ソフィアが私の方に寄ってきた。


「お爺様と何の話しをしてたの?」


ソフィアがキラキラと輝くような瞳で、私の顔を覗き込んでくる。

こう真っすぐな目と純粋な好奇心をを向けられると、思わず全部をぽろっと話してしまいそうになる。先ほどまで老獪なガウス翁と話していたから猶更それが際立つ。

……案外、ソフィアは社交界に向いてるんじゃないだろうか。なんだか色んな裏話を知らず知らずのうちに聞きだしてくるような気がする。


しかし、勿論全てを話すわけにもいかないので、ガウス翁とも約束した通り、一部をぼかしながら伝えていく。


『あなたの話よ。引き続き貴女の教師をお願いですって。それと、王立学園に私も通うことになったの』

「通う?学園に?」

ソフィアはピンと来ていない様子で首を傾げる。霊の私がどうやって学園に通うのか真剣に考えているのだろう。段々と難しい顔になっていくのが面白い。

『ちょっと長いから要点だけ言うけど、私が霊体から生身の身体になれる方法を貴女のお爺様が知っていたの。だからきちんと普通の人間として学園に通うの。貴女と一緒にね』

「私、アイリスさんと一緒に学園に通えるの?」


ソフィアの中で点と点がつながったようで、一気に表情が晴れやかになる。花が咲くような笑顔を浮かべるソフィアは実に可愛らしいけど、そこまで喜ばれると、逆に私がちょっと照れくさい。

『そうよ。そんなに喜んでもらえるとは思ってなかったけど』

「ううん、私、本当に嬉しい。一人で学園に通うのは怖かったから」


ソフィアの安堵と喜びが入り混じった声。今までは、まともに教育も受けていない中で、独り学園に通う不安を押し殺していたんだろう。当然だ。

私だって同じ立場で貴族子弟の中に放り込まれると知れば、不安に押しつぶされるだろうから。

一見気弱な印象を受けるソフィアだけど、潰れずに不安を押し殺せる辺り、やっぱり芯のところでは強い人なのだと思う。


『じゃあ、その一緒に通う学園に向けて、勉強の続きをしましょうか』



元々物覚えの良かったソフィアだけど、この日から前にも増して驚くほどのスピードで知識を吸収し始めたのだった。

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