25と26のまにまに重力と磁場の雑談
【進化の部屋】
何もない空間に白の部屋へと続くドアがある。
クマ一頭とカエル一匹とカピバラ一匹がいる。
しらず〔何故二人揃って立て続けに文明の利器をつくるんだ?〕
遠闇『たまたまかな?』
宵闇|《たまたまだね?》
〔相変わらず自由だな〕
《ブレインズだしね? 遠闇君のところは何をつくったの?》
『電気ポットの足場。やっぱりオイラと宵闇君は特別通じ合うものがあるんだなぁー! ね、宵闇君!』
《たまたまじゃない?》
『宵闇君がつめたい』
〔たまたまだろ〕
〔それはそうと、今SFの部屋では重力が弱いと飛ぶ時どうなるのかという話題をしているな〕
『地味に今の世界の重力設定って出来てなかったんだよね』
《実は僕のところもだよ。まあこっちは扱いやすいから地球と同等で考えていくけど、そもそも地上が丸い天体とも明言されてないんだよね》
『もしかして海の端が滝になって落ちちゃうとか?』
《今のところ決めてなくても特に問題はないから、必要になったら適宜設定していこうと思ってる》
〔月や宇宙ステーションの中のイメージはできるんだが、少なくとも無重力で羽ばたいてもその場でバタバタなるだけのような気がする〕
『でもそれじゃちょっとおかしいんじゃない? それだと地球上で鳥が飛べるのがまるで重力のおかげみたいになっちゃうじゃないか』
〔確かに……ハチドリが滞空できるのは羽ばたきによる飛行と重力が釣り合ってるからだ。とすると空気がある無重力状態では羽ばたき力が働いて上に昇っていくのか?〕
《“空気のない無重力”と、“空気のある無重力”ではまた分けて考えないとダメそうだね。……うん、ちょうどいい実験を見つけたよ》
・宇宙ステーション内で紙飛行機を飛ばすとどうなるか?
《二人とも、どうなると思う?》
『うーん……まともに飛ばないんじゃない? 墜落……は、地面がないから出来ないか……あれ?』
〔それなら失速せずにどこまでもまっすぐ飛んでいくんじゃないか?〕
《正解は、【まっすぐに飛ばず、円弧を描いて宙返り飛行をする】なんだって》
『えっ』
〔ほぅ〕
“地上で紙飛行機がまっすぐ飛ぶのは揚力と重力と速度が釣り合っているから。試しに紙飛行機の先端を切り取ってから飛ばそうとすると、揚力が過剰となって回転の動きが生じ、上に舞い上がり、すぐに落ちてしまうだろう。”
“宇宙船内では重力がないから、紙飛行機に働く力は、翼にかかる揚力だけになる。これが円運動するために必要な力(向心力)となり、進む向きから変えられ、宙返り飛行になる。”
“紙飛行機は、一定の半径を保ちながら宙返り飛行をするが、空気抵抗のために次第に遅くなり、やがて宙を漂うだろう”
〔ううむ、説明されると納得だが、とても思いつかなかったな〕
《一方で、人がウチワで羽ばたいてみても結局は体が重くて自由に飛び回ったりとかはできないみたい。どうも腕を振る力で回りだしてる印象だね》
『そういえばやっぱり宇宙ステーションでネジに付いたボルトを外れる方向に回転させると、あるタイミングでネジの向きが180度反転して今度はボルトが閉まる方向に進み始めるって映像見たことあるよ』
《そっちの映像は残念ながら見つけられなかったけど、“無重力 T字ハンドル”で調べるとネジと似た動きが見られるから、気になる人は調べてみてね》
『やっぱり重力が変わった時の物体の挙動って摩訶不思議だね。オイラたちの思考力で再現するのは難しいかもしれないなぁ』
~思考26 生物学者もとても偉大 進行中~
〔惑星の周りを傘まわしのように逆回転する衛星か。面白いところに着地したな〕
《面白そうなことしてるね?》
『面白いよ! 君らもそのうち見に来てね』
《うん。楽しみにしてるよ》
〔Aチームは重力が大気を地表に留めるのではと仮説を立てていたが、ここで金星を例に見てもらいたい。金星の重力は地球の0.86倍。質量、大きさ、太陽からの距離が地球と非常に似通っているにも関わらず、地球と異なり水がほとんど存在しない。多くが大気中から宇宙空間に分散されてしまったと考えられているんだ〕
『へー、そうなんだ。むしろ大気があったんだ』
《金星の大気は96%がCO2で、地表付近の密度……大気圧も地球より高いみたい。その温室効果で太陽に近い水星よりも熱くて過酷らしいよ。かつては水があった形跡があるんだけど、それがどこへ消えてしまったかは研究中なんだ》
『それが宇宙空間に逃げたって?』
〔その水分の宇宙への散逸が、太陽風の影響によるものとの研究結果がある。金星には地球のように太陽風から天体を守る磁場がなく、太陽風の影響をもろに受けて大気中の分子が分解され宇宙に流れていったというものだ〕
『つまり、磁場ガード……!?』
〔そうだ、磁場ガードだ。金星はダイナモ作用による磁場生成が弱い。だから太陽風は大気圏の深くまで入り込み、水素をはじめとした多くの大気構成要素をはぎ取っていく。残るのはCO2などの比重の重い気体のみというわけだ〕
『ううん、気圧が高いのは水が空気中のCO2を吸収しないせいなんだろーか。気体の密度が濃すぎるのも考え物だね』
《太古の地球で昆虫が巨大化したのは酸素濃度が濃いおかげって言われてるし、限度を超えなければ生物に有利に働くこともあるよ》
『……あれ、じゃあつまり、重力の強い弱いそのものよりも、実は磁場があるかどうかの方が大気の維持には重要だった?』
〔少なくとも水の確保や地表の温度調節には有利に働くと思う。SFの部屋には確か水の存在があったな?〕
『ある。確かちょっとしか描写されてないけど、なんとなく必要な気がしたから存在自体はあることになってる』
《うまいこと矛盾せず収まったもんだね》
『いっつもその場のノリで設定増やしてるから毎度薄氷の上を飛び跳ねてる気分だよ……』
〔救済措置として、最新の研究では紫外線の弱い赤色矮星を回る惑星を仮定したシミュレーションでは、ほとんどの水素が天体内に留まり続けて惑星内の水分量を維持できると出たようだ。エースエーフ星の恒星をそうした赤色矮星と近い性質にすればなんとか説明は付けられると思う〕
『いやぁ~それにしてもまたしばらく宇宙はこりごりだよ。前知識がないからいっつもものすごい下調べが必要になるからね。やっぱり生物づくりが気楽でいいや!』
〔しかしSFの部屋はこれから盆地の外の環境を考えるんだろう。今度は気象や地質や植生を考えていくことになるんじゃないか?〕
『あれ、じゃあ、モフモフ生物は……?』
〔下手をしたらしばらくお預けだな〕
『……うん。あっちのブレインズたちにはまだ言わないでおこーっと』
つづく