13のまにまに進化と変態の雑談
【進化の部屋】
何もない空間に白の部屋へと続くドアがある。
クマ一頭とカエル一匹とカピバラ一匹がいる。
しらず〔ふむ。何だかんだでファンタジーチームで進化を試みることになったか〕
宵闇|《わざわざしらずを呼んだのにごめんよ》
〔いやいいんだ。こちらも進化の過程を物語にした時の盛り上がりどころに悩んで行き詰まっていたところだから。あと少しで前回の「11と12のまにまに」を闇に葬ってすべてをなかった事にするところだった〕
遠闇『始まる前からコッソリ終わりかけてたんか! 前回豪語したあれはなんだったんだ!』
〔創作とは一朝一夕にはいかないものだ〕
『ガッカリだよまったく!』
〔フッ……カエル風情がなんとでも言うがいい〕
『言ってやってよ宵闇クン』
《ガッカリだよ全く》
〔えっちょっとまって宵闇に言われると落ち込む〕
《キャラが維持できてないよ。あと冗談だよしらず君》
〔まあそれはともかくとしてだ、宵闇が時代を飛ばしながら進化を追っていく方針を取ってくれたお陰で新しい道が開けたぞ〕
《そうなんだ?》
〔ファンタジーチームの中に“初期にどんな生き物をつくれば後々ドラゴンへと進化するだろう?”という新たな疑問が生まれただろう?〕
〔それなら我々は――進化を逆から考えてみようじゃないか〕
〔0からの進化の過程を思い描くのが難しいなら、完成形から逆算していけばいい。うまくいけば途中で他のチームと進化系統がぶつかるかもしれないぞ〕
『つまりどういうことだってばよ』
〔つまりはまぁ、骨格的な話だな〕
『出た、骨格!』
《しらずは骨格にうるさいからね》
〔一体どんなイメージだ……〕
『ペガサスの翼が生えてる位置がおかしいって難癖付けてたくせに』
《天使は肩甲骨から翼が生えてるから腕を振りながらじゃないと飛べないとも言ってた》
〔というか疑問なんだが、折角部屋と進行役を別に分けたのに私のお喋り相手が遠闇と宵闇だとあまり意味がなくないか?〕
《読み手への配慮だよ》
『ほら、ぽっと出の新キャラがいきなり場を仕切りだしたら反感買うじゃん?』
〔そういうことならまあいいか〕
《いいんだね》
『いいのだ!』
〔それとセリフの括弧が種類多すぎて見辛くないか?〕
《それは当事者の僕たちにはなんとも言えないね》
『ここにいる時だけ普通の鉤括弧で喋ろうか?』
《とりあえずは現状維持だね。変えてほしいって意見が多かったら検討しよう》
〔君ら今後もここに居座る気満々なんだな〕
『まーまー細かいことは気にせずに話を戻したまえよ』
〔まあつまりだ遠闇よ、細胞は万能だよな?〕
『そうさ細胞は何だってなれるんだ! 翼を作るくらいオチャノコサイサイさ!』
〔しかし進化には必ず“過程”が存在する訳だ。ポケモンのように何もないところからいきなり翼が生えることはない〕
《ちょいちょい出てくるねポケモン》
〔別にデジモンでもいいが、近頃は一個体が次々能力を獲得し進化といって全く異なる姿になっていくような作品が多いな。それはそれで構わないが、私が扱いたいのは世代を経て種族単位で環境に適応した形へと集約されていくタイプの進化だ。それを踏まえて今考えたいテーマとしてはこんな所だな〕
・翼とは何か
・翼有四足の生物を作るには
・虫に学ぶ
・先祖の姿と環境
〔まずは大前提「翼とは何か」を考えたい。ひとまずこれを見てくれ〕
【画像:ガリューネイア】
〔これは以前翼が生える位置を議論した結果生まれた鳥類派生型ドラゴン【ガリューネイア】だ。画がある方が説明しやすいのでこれを流用させてもらう〕
《ドラゴンというか見た目はグリフィンぽいよね》
〔重要なのは骨格だからな。ガワなんぞそれこそ細胞の力でなんとでもなる〕
『もっと細胞に敬意を払いたまえよ骨格信者!』
〔黙れ細胞信者〕
《二人ともどっこいどっこいだよ》
〔ご存じの人も多いと思うが、鳥の翼は四足動物の前足が進化したもので、四足動物の足は魚の鰭が足のような機能を持ち進化したというのが定説だ。
魚類→鰭が発達した魚類→両生類→爬虫類→鳥類
といった具合に。
「翼とは何か」――それは動物の足が翼の形に進化したものである。そこで次のテーマの答が浮かぶ。
「翼有四足の生物を作るには」――必然、そこに至る六足の動物の存在が不可欠となるわけだ〕
『ちょーっと待ったぁ! まるで当然の帰結のような口調だけど重要な事を見逃してるよ! おたまじゃくしや昆虫の変態、無い筈の手足や翅が生えてくる例は山程あるじゃないか、世の中生まれてから死ぬまで同じ姿のまま成長する生き物ばかりじゃないぞ!』
〔ほう? 中々鋭い指摘をするな。ならばまずはそこをハッキリさせようじゃないか〕
《ブレインズ安定の脱線だね》
《二人の主張をまとめるとこういうことでいいね?》
・しらずの主張:“翼がいきなり生えてくる事はない”
・遠闇の主張:“生物は変態によって姿が様変わりする事もある”
『両生類に虫にクラゲに甲殻類、幼生と成体で違う姿の生き物は多種にわたる。動物界という括りの中で見れば幼体から成体まで身体の基本構造が変わらない、爬虫類や鳥類や哺乳類の方が少数派とすら思える。しらずは進化を考える上でそうしたことを見過ごしているんじゃない?』
〔ふむ、一理ある。確かに進化と変態の関わりを改めて考えた事はなかったな。ならばまず虫よりも動物を中心に考えよう。虫は形態変化がより複雑で飛び抜けているから後回しだ〕
《広い目で見れば植物も一生の間に姿を様変わりさせているけどね》
〔う……植物もとりあえず後回し!〕
〔今我々は“生物の進化は段階的に起きる”という前提のもと話しているが、今一度その前提について考えてみようと思う。もしも、
魚類→おたまじゃくし→カエル
と進化しているとすれば、カエルはおたまじゃくしという種が後から生み出した姿ということになる〕
『まあ、何をトチ狂ったかいきなり手足生やしたことになるよね』
〔逆に
魚類→鰭が発達した魚類→四足の両生生物→カエル→カエル幼体
と進化しているとすれば、おたまじゃくしはカエルという種が後から生み出した姿ということになる〕
『こっちも進化したあとにもとの姿に戻るような無茶苦茶な動きだなぁ』
『結論:どっちもおかしい!』
《身も蓋もないよ、遠闇君》
『だってさこれ、どっちが先でも無茶な進化をしてない? カエル→おたま は一見退化に見えるけど、四足動物が成長過程で「手足を持たない魚の姿」を新たに生み出すのは「魚がいきなり手足を生やす」のと同じレベルの無茶な進化してるでしょ』
《「動物の胚は成長過程でその動物の進化の形態をなぞっていく」っていう説を聞いたことあるよ? そう考えるならカエルが先祖の魚の姿を記憶していたとしても無理なく説明出来るんじゃないかな》
〔“反復説”と言われるものだな。どうもそれも完璧な説とは言えないらしいが〕
〔しかし今のはいい着眼点だ。よくよく考えれば哺乳類も鳥類も産まれるまでに単なる丸い胚から身体や手足を生やし幼体へと形成している、そう考えるとカエルの変態と似ていると言えないだろうか。カエルはもっと早い段階で孵化し、その後の形成を外界で栄養を摂りながら行っていると考えるんだ〕
『そういえばクラゲみたいな刺胞動物やエビカニの甲殻類って、確か最初はどれも似た姿をしていた筈……――ビンゴ、こんな説明を見つけたよ』
“ノープリウスは甲殻類に共通の最も初期の幼生の名であるが、ザリガニやサワガニなどはより発達の進んだ段階で孵化する例も多い。その場合でも卵内においてノープリウスの段階を形成している時期があり、これを「卵ノープリウス」と呼ぶ。”
『つまりしらずの予想と同様、発達途中の段階で孵化して活動する例が実際にあるってことだよ。甲殻類の場合その発達途中の一つがノープリウス体だ』
《甲殻類はどの発達段階の幼生が孵化するかが種類によって様々らしいね。逆に魚類のサメの中には卵を体内で孵化させてから子どもを出産するものもいる。だとしたらおたまじゃくしもそうした孵化の特性の一つなのかもしれないね》
『つまりおたまじゃくしはカエルが胚から幼体に発達途中の「魚っぽい姿」の段階で外に出てきた姿だと……そして進化に連なる最終形態になるための働きが変態だと……つまり要するに! ポケモンの進化は進化じゃなくて変態だと!』
《その辺はノーコメントかな》
〔まとめると、私の主張“翼がいきなり生えてくる事はない”は生物の成体を基準に進化を考えたものといえる。そして遠闇の主張“生物は変態によって姿が様変わりする事もある”はあくまで生物が成体に至るまでの発達段階、例えば鳥類が孵化するまでの卵内での形態変化のプロセスに近く進化の枠組みではない……ということでどうだろうか〕
『うん、まあ、なんとなく腑に落ちたかな。……いや、やっぱし一個腑に落ちないことが……』
〔なんだ一体〕
『爬虫類の祖先がシーラカンス的な肺魚なのはイメージに合うけど、両生類の祖先はトビハゼやムツゴロウみたいな魚の方がイメージに合うぞ! 皮膚呼吸とかするし!』
〔――いや、そんな直感的な話をされてもだな〕
《あいにく遠闇君の設定づくりは基本直感的なんだよ》
〔うん……SFとファンタジーの進行役の振り分け間違えてないか君ら〕
《何だかんだでバランス取れてうまいこといってる》
つづく