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11と12のまにまにカエルの進路相談


 誰もいない部屋にカエルが一匹現れる。



遠闇『宵闇クン宵闇クン』

宵闇|《どうしたの遠闇君》



 カエルが虚空に呼び掛けると目の前に前触れなくカピバラが現れた。



『こっちのSFチームはこれから生態系をつくって行くことになりそうなんだけど、そっちはどんな感じ?』

《ようやく魔法の下地が固まったからこれから具体的に世界観を構築していく事になると思うけど》

『そっか……んんん~……』

《どうかしたのかい?》

『……今、せかるよとブレインズは岐路に立っている。今がまさに今後どういう方向に舵を切るかという境界なんだ』

《詳しく聞こうか》

『当初からのやりたい事の一つに“生命の進化の過程を考える”ってのがあったでしょ? それは本来ならSF世界の方が考えやすい筈なんだ。でもこっちはこのまま行けば生態系づくりが主体になっていく……』



 カエルの言わんとする事を察したカピバラは鼻をふすふすと鳴らす。相変わらず表情は変わらないが、別の部屋にいる【宵闇】に意識を繋いでいるようだ。



《……今ファンタジーチームにも聞いてみたけど、生命誕生から始めると魔法が出るまで気が遠くなりそうだからこっちも特定の場所の生態系を考えていこうってことで進んでいるよ》

『やっぱし……せっかく二つの世界に分かれたのに同じような事をするのは勿体無いんじゃないか。それなら今からでもどっちかの世界で“進化の過程”を設定していくべきなんじゃないか。でもそれをすると世界の完成がより一層遠退いてしまう。それでは読み手にも申し訳ない……それを考えるとどうするのが正解なのか判らなくなってしまったんだ』

《うーんそうだなぁ……遠闇君、僕たちブレインズの目的は?》

『世界観、設定作りを楽しむこと』



 先程まで唸っていたカエルもこれには即答した。



《そう。つまり一から進化をなぞる必要はどこにもないんだ》

『んー……よくわからん』

《君の悩んでいることは理解できるよ。このままだとSFの部屋で進化の過程を見ることは出来ない。だから余計に幻想の部屋は進化の過程をなぞった方がいいのではと考えているね》

『うん』

《でも幻想の部屋の世界では進化の過程をなぞるのに適しているとは言えない》

『うん』



《そもそも進行が遅いせいで描写が極めて少ないパートが続いてるのも不本意だし、当初はもっと単発の設定をいくつも作ってバラエティボックスにしていく筈が二つの世界の設定だけが交互に進行する今の状態になってしまっているし、そのせいで余計に読み辛くなっている》

『うう……』

《ただでさえ人を選ぶ変則的な作品なのに進みが悪くていつまでたってもセリフばかりで描写がなくてグダグダなお喋りばかり、これじゃあ誰が読んでも面白くないだろう、って考えているね》

『あーもうそうです大正解ですー! 君全部判って言ってるな!?』

《そりゃあ僕たちは皆で一つの存在だもの、君が感じていることくらいすぐに理解できるさ。ましてや【遠闇】と【宵闇】は“最初の2匹”になる予定だった、2匹で1セットのような存在だしね》



《結論からいえば、どこからでも好きな所から作り始めればいいと思う。「好き放題」が遠闇の、ひいてはブレインズ皆の強みだったはずだ。作品の面白さや設定の矛盾なんて二の次……それがこのせかるよの存在意義でしょ? なら面白さを追求する前に思い付くまま筆を走らせてみようじゃない》

『でも自分だっておもしろいものを読みたい』

《書きあげてから悩めばいい》

『うーん……理屈で割りきれないから堂々巡りをしているんだ』

《それを終わらせるために僕らがいるんだ》


打てば響くように淀みなく答えが返ってくる。ぐるぐると頭を悩ませるカエルを労るようにカピバラは優しい口調で語りかける。


《大体間違ったら間違ったでいいじゃないか。また新しい世界で挑戦すればいい。何がそんなに怖いんだい?》


『……やりたいことが多すぎて一つに絞れないんだ……』


それを聞くなりカピバラはホッと息をついた。


《全く相変わらずだね遠闇君は。最初の頃とちっとも悩みが変わっていないじゃないか。深刻そうに悩んでいるから心配したけど安心したよ》

『なにをぅ!? じゅーぶん深刻な悩みなんだぞ! めっためた悩んでんだぞ!』

《だって遠闇君。その悩みの解決法なら既に君自身が見つけているじゃないか》


それは思考2でのことだ。カエルはブレインズに堂々と宣言していた。


――諸君、すべての設定をひとつの世界に詰め込むのは……やめにした!


『……言ってた!』

《ね?》

《君は今無意識に今ある設定に詰め込まなくちゃならないと思い込んでいるよ。ひょっとしたら世界を二つに分けて、進行役も僕たち二人に分けてしまった為かもしれないね》

『ハッ……! そう言われると今話し合っているカサセオイの設定もどちらかひとつに決めなきゃならないような気になってたぞ!』

《創作もので設定が出来始めると陥りやすい思考だよね。でもこのせかるよに於いてはどちらかに決めなきゃいけない理由はないんだよ》

『おにょれ、まんまと策略に乗ってしまったワケだ……!』

    

《それならどうだろう、今やりたくて仕方ないことを新しくやり始めてみたら?》

『ただでさえ二つの設定を交互にやってややこしいのにこれ以上増やして更に頭がこんがらがったらどうするんだ!』

《その時はその時だよ》

『ちょっとちょっと宵闇クン! 適当は遠闇の専売特許だろ!? 君が適当になったら誰がオイラにブレーキ掛けるのさ!』

《よく分かってるじゃない。後先考えず突っ走るのが遠闇君の役目だよ》


『……よし。発破かけられちゃったし、こうなったらやってみるかな! ものすご~く行き当たりばったりになるけど!!』

《はっきし言ってブレインズが行き当たりばったりじゃなかったことはない》

『あはははは』


『じゃあ改めて。自分がやりたいのは、進化だ。ある時は緩やかに、ある時は劇的に、ある時は奇跡的な巡り合わせの末に変貌し歩み続けるもの』

《うん》


『生物が進化する過程を思考したい!』


『てな訳で、進行役もう一人用意しよう!』

《元気が出てきたね。それなら“しらず”でどうかな。前に一度名前も出ているし》

『オッケーしらず、君に決めたー!』


しらず〔人をポケモンみたいに呼び出すなし〕


『まーまーひとまずアバターでも作って落ち着いて』

〔それならクロクマにするぞ〕

『つよい』

《どうしてクロクマ?》

〔丁度プーさん柄が視界に入ったからな〕

『プーさんてクロクマだったのか……』

《モチーフのひとつだけどね》



『そんな訳でこれまでの形に縛られない方向から進化のアプローチをしたいんだ』


〔いいぞ。ただし私に任せると好きにやらせてもらう事になるが……〕

『それで構わないよ』


〔それじゃ私の世界にブレインズは出さないぞ〕

『なんと!?』

〔生命誕生から少しずつ、大きく複雑な動物へと進化していく生物の物語を書く〕



『をを……自信満々だ……』

《それはすごいね。僕らがやりたかったことの一つというか、かつてそれが出来ずに僕たちブレインズがせかるよを作る羽目になったんだけど、大丈夫かな。なにか手伝えるかい?》

〔ファンタジーチームの魔法設定は題材に使えるかもしれない。その世界の生命誕生にはきっと複数の精霊の力が偶発的に関わっている筈だ。水や電気や土や熱、これらが入り交じり作用し生命の素となる成分が凝縮していったに違いない〕


    

〔いや待て、そもそも生命の始まりをどこに設定するべきか……物質が生命に変わる瞬間、生物と非生物の差とは……魂を考慮に入れるとより定義は複雑化する……せめて生物学上、宗教学上、哲学上で“生きている状態”の定義をどう示しているかを比べない事には……いやそもそも主人公の交代をどのようにするべきだ? 一匹を追い続けることは出来ないから、次々入れ替わるオムニバス形式になるだろうか……死に代わり? それとも種としての生を描くべきか……〕


〔いやそれよりも最初の生物に何を設定するかだ。よく考えれば何も物質と生物の境界なんて所から始める必要もない……それなら細菌か? 光合成細菌の中に動物的肉食細菌が現れたことで種の存続の危機に立たされる、それが長きにわたる弱肉強食世界の始まり……いやしかし細菌はなんだ、楽しいか? プラナリア的な所から始めるべきか? いやしかし……〕




『なんだか早々に深い思考の海に沈んで行ってるよ』

《どうやらしばらく悩みそうだね。しばらくしたらまた様子が変わるんじゃないかな。とりあえずしらず用の部屋をつくろうか》



【白の部屋】


 白い部屋。細胞の部屋、SFの部屋、幻想の部屋、進化の部屋へ続くドアがある。




『【進化の部屋】作ったぞい!』

《僕らももう一度進化についてブレインズも交えて考えてみようか》

『そだね。とりあえず事態が動いて自分もスッキリしたよ。どちらかを選ぶことに囚われてた狭い視野も開けたし、ちょっとブレインズたちのカサセオイ地味派手論争止めてくる!』


《よく判らないけど役に立てたようでなによりだよ》




つづく



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