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リィリュシア・レィエス  作者: 烏羽玉 黒鵺 
第一章 少年編
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誕生祝会

 アミュリュア王国に四季はないが、一年でいうところの十一月を迎えようとしていた頃、リィリの誕生日は既に明日に迫っていた。


「リィくんも明日で成人か~。でも大人って背丈じゃないよね~」


 くすりと笑いながらルリィが言った。


「うるさいなぁ。人が気にしてることを何度も言わないでよ」


 リィリは頬を膨らませる。その顔がなんとも愛くるしく、ついついルリィはいじりたくなってしまう。


「でも本当に成長止まってるんじゃない? 町に出たらギルドよりも先にお医者さんに行った方がいいんじゃないの?」

「確かに、そもそもギルドの受付で成人証明できるか不安なくらいだもんな」


 ルリィの台詞にナァゼがケラケラ笑いながら付け加える。


「二人とも僕をなんだと思ってるのさ……」


 抵抗しても無駄だと思い、諦めの表情を見せるリィリ。しかし、そんなことも慣れっこでむしろ居心地の良さすら感じていたりもした。


「それで、結局リィは俺たちとは違う町に行くんだろ?」

「うん、そうなるかな。タシタの街も賑わってて冒険者も沢山いるけど、周りに森が少なくて」

「確かに、リィくんの実力じゃああの辺りの魔物じゃすぐに飽きちゃうわね」


 ルリィとナァゼは翌年の四月から、イァル村から近いタシタという少し大きめの街にある冒険者育成機関に入る予定で、もう二ヶ月ほどしたらその試験を受けることになっていた。

 一方リィリはというと試験が受けられないので別の方法で冒険者を目指すことにした。

 迷宮出入りできる条件は全部で三通りある。


一つ、然るべき機関に通い、迷宮に挑むだけの戦闘能力を身につけること。また、その力量を確かめる試験に合格する事。


二つ、軍に所属し、その任務での同行。しかし、部隊長の力量以上の階層には立ち入りを禁ずる。


三つ、戦闘職に就き、その力量を示す実績を得ている事。しかし、銅印未満の者の単独での迷宮進出は禁ずる。


 一つ目の方法は冒険者育成機関に入り卒業試験を突破する事で手に入る。もっとも一般的な方法。

 しかし高い魔力適性がなければ入れない。迷宮は魔物から溢れ出る魔力が地上よりも多くみちているからだ。

 ちなみに飛び級制度などもあり、在学中に迷宮立ち入り資格を手に入れる学生も多い。


 二つ目の方法は、正直自ら赴くというより、連れてかれるイメージ。リィリにとっては論外だ。


 三つ目の方法は、簡単そうに見えて最も手に入れることが難しい。

 戦闘職についていても迷宮に挑むだけの力量を得るには普通十年以上の月日が必要だ。ましてや、魔法が使えないとなると剣技を磨かねばならず体格や頭脳、才能が物を言う領域なのだ。

 また、この国にはステータスメダルというものがあり、個人の情報を記録し管理している。メダルの中央に押された印の色でランク分けされていて、低い方から無、黄、緑、青、紫、赤、銅、銀、金、の印をメダルに付与することでそのものの力量を証明するのだ。

 そして、一般的に銅印を手に入れるのに平均して五年はかかる。

 恐らくリィリ達三人は三つ目の方法が最も早い冒険者になる道だ。そして、もちろんリィリはこの方法で冒険者になる予定である。

 しかし、なぜルリィとナァゼが学校に入るかというと、それは高等教育機関の卒業実績を作るためである。

 これを取得しておくと、ギルドなど社会での信頼度が増すため、生きる上では有利になるのだ。

 

「となると、もっと国の外れの方に行くのか?」


 ナァゼがリィリに尋ねる。


「ううん、王都の近くで活動しようかなって思ってる」

「えっ? でもあそこらへんは守りが堅いから魔物も少ないんじゃ? 迷宮もあるけど私達は入れないし……」


 思いもよらないリィリの答えにルリィが困惑する。


「それが、王都の近くに濃い魔素だまりがある森があるらしいんだ。危険すぎて放置され続けてるらしいんだけど、今では上級冒険者の腕試しの場にもなってるんだよね。それに、王都には小さい頃にお世話になった知り合いもいるからディシスも安心するし」

「なるほど、そういうことか。それじゃますますうかうかしてられねぇな」


 ナァゼが片手の拳をもう片方の掌に打ち付けて意気込む。


「ふーん。知り合いって?」


 ルリィが思い出したように付け足す。


「僕が小さい頃ディシスが仕事に行く時僕のことを預かってくれてた人なんだけど、最近会ってないから、もう顔忘れちゃってるかもなぁ」

「それってリィくんが拾われた時のことだよね。ディシスさんって王都に住んでたんだ。意外……」

 

 現在はこんな辺境にいるディシスが王都に住んでいたなどルリィには想像もできなかった。


「それにしてもディシスとリィが親子じゃないって、最初に聞いた時は驚いたぜ。髪の色も目の色も同じなのにな」

「そうね、正直そんな特徴の人は珍しいから偶然とも思えないわ。それに、赤い目は魔物の目に似てることで忌避されやすいしね」

「むしろ守ってやりたくなったんだろうな、ディシスは優しいから」


 ルリィとナァゼが話を進める中、リィリはあまり面白くないという顔をする。


「あ、ごめんリィくん、不快にさせちゃって……」


 それに気付いたルリィは慌ててリィリに謝る。

 しかしリィリはなんともない顔でかぶりを振って応えた。


「大丈夫だよ。でも、捨てられたとは聞いてたけど、 僕も少し変だと思ってたんだ」

「そうなのか?」


 ナァゼが首をかしげる。


「うん。だってさ、僕は明日十五歳になるでしょう? じゃあなんで僕の誕生日が分かったんだろうって……」

「確かに……」


 この国では生まれた時にステータスメダルに名前や性別、誕生日などのステータスが登録される。

 ステータスメダルは町の役所やギルドなどで発行されている。そして、ステータスは魔法によって内容が刻まれ、不思議なことに名前までも自動で刻印される。

 それを見れば誕生日など一目瞭然なのだが。


「子供を捨てるのはこの国では重罪だもの。ステータスメダルなんか作る訳がないわ。それに、メダルに刻印する魔法は精神を読み解く魔法の一種で、出生に関わった人がやらないと正確な情報が印字できないのよ」


 ルリィが説明する。


「だから、孤児院とかに預けられる子供のステータスメダルは印字内容が統一されてたりするのよ。特に誕生日は年始にまとめられてるわ」

「つまり、ディシスはリィの出生を知っていると?」

「そこまでは分からないわ。拾った日をそのまま誕生日にしたのかもしれないし。でも怪しいのは確かね」


 そう言いながらも、ルリィはディシスがリィリの出生を知っていることを確信していた。二年前のあの日、ディシスが語った言葉の内容からなんとなく予想はできていたのである。

 そして、今までディシスの庇護があったからこそ何事もなかっただけであり、リィリが村を出るということはそれもなくなる。


「いずれにせよ、明日になれば何かわかるかもしれないわ」

「そんなもんか?」

「ええ、きっとね。リィくんも、少し心の準備をしておいた方がいいかもしれないわ」

「う~ん……。心の準備と言われてもなぁ……」


 ルリィの真面目な横顔に戸惑いながらも、リィリは自分の出自について今更ながらに惟る。

 そして、これから起きるであろう変化の兆しを感じ、期待と不安の入り混じった思いに駆られるのであった。




 翌日、リィリの成人祝いが行われた。

 イァル村に子供は少なく、大きい街では年末に纏めて成人の式典も行われるのだが、ここでは個人の誕生日に細々と行われている。

 場所は村の中央にある小さな広場だ。もともと村人も少ないため、華々しいかといえばそうでもなかったが、リィリにとっては幸せこの上ないものだった。

 ちなみにルリィとナァゼは誕生日が数日しか違わないため、二ヶ月後に一緒に行うようだ。

 この日はルリィやナァゼの両親も出席していて、リィリの成人を我が子のように喜んでいた。

 また、ディシスの人望が厚いためか、リィリの成人祝いにはイァル村の人だけでなく周辺の村の人々まで顔を出しに来ていた。

 その中から一人の男性がルリィ達とご馳走を頬張るリィリの前に進み出た。


「君がリィリ少年だね」

「?」


 見知らぬ男に声をかけられたことにたじろぐリィリ。

 それを見た男はすぐに自己紹介を始めた。


「悪い悪い、初めましてだったな。俺はガザリー・ニス。となり村で衛兵をやってるものだ。君には君の知らぬところで恩があってな。一言、礼を言いたかったんだ」

「礼、ですか……?」


 リィリの代わりにルリィが訝しげに応える。


「リィ、お前なんかしたか?」

「さあ……」


 ナァゼがリィリに尋ねるがやはり心当たりはないようだ。

 すると再びガザリーと名乗った男が話し出す。


「それもそうだろうな。もう二年も前の話になるからな。あの時、竜を倒してくれたのは君なんだろう?」

「あっ!」


 ようやくリィリ達も何のことだか察した。


「君たちも辛い思いをしただろうし、思い出させるようで悪いのだが、一言礼を言わせて欲しい。ありがとう、仲間の仇を討ってくれて」


 そう言い、ガザリーは深く頭を下げだ。

 側から見れば小学生位の少女に大男がこうべを垂れているように見えて不思議な光景ではあったが、あの日の出来事を聞いていた村人達は、彼の誠意を暖かく見守っていた。


「いえ、礼を言われるなんて……。それに、僕はあの日の出来事をほとんど覚えていないんです。戦いの全貌は横にいるルリィに聞いただけで……」

「いいや、それでも君がした事は、俺たちの中で生きる希望になったんだ。君のおかげで俺たちは明日も生きていける。感謝してもしきれないくらいなんだ」


 リィリはまさか自分がそこまで思われているとは予想できずむず痒い気持ちになった。


「それから、些少で申し訳ないが、受け取って欲しい」


 そう言ってガザリーはリィリに小さめの巾着を手渡した。

 袋の隙間から見える金属の硬貨。掌に乗った時の重さと音から、それがどれだけの額かを察したリィリはガザリに慌てて向き直る。


「こんなたくさん、頂けませんよ! これだけあれば向こう数年困らず暮らせますよ!?」


 巾着を返そうと手を出すが、ガザリーがリィリの腕を抑えそれを制止した。


「いいんだ、受け取ってくれ。これは俺があの日を越えるために戦って得たものだ。それは君にもらった勇気があってこそのものだった。今日君に会えた事で、俺はあの日の俺を超えた。そう思ってる。だからこれは、君に還るべきものなんだ」

「そんな……」


 リィリはもう一度巾着を見つめる。その額を想像するに、相当の数、強さの魔物を倒してきたことがうかがえる。


「くれるって言ってんだからもらっとけよ、このバカリィリ!」


 微妙な表情を見せるリィリに呆れたのか、ナァゼがリィリの背を強く叩きそう言った。


「そうよ、それ以上の拒絶は失礼になるわ。ガザリーさんの気持ちも考えてもらっておくべきよ」


 ルリィも付け加える。

 少しの間悩んでいたリィリだが、決心をつけ身長差のあるガザリーを見上げた。


「わかりました。これは有難く頂戴することにします」


 その眼光は強く、これに奢らず精進し続けようとする意志が宿っていた。


「ありがとう。こんな現金なものでしか恩を返せないのが悔しいが、村を出るのであれば金はいくらあっても足りないだろう。有用に使ってくれ」

「はい!」


 そんなやりとりが終わると、ギャラリーに徹していた村人達の拍手喝采が始まった。


「あの小さかったリィちゃんがねぇ、立派になったものだわ」

「ちっこいのは今も変わらないだろう」

「ええ、まだまだ保護者同伴が必要だと思うわ」


 リリアラが目尻の涙を拭いながら言葉を漏らすと、ナァゼとルリィが便乗してリィリをからかった。

 すると喝采は爆笑に変わり、ますます恥ずかしくなったリィリはディシスに助けを求めるべく隣へ走って行きその影に隠れてしまった。


「リィリ、そんなだから皆に笑われてしまう。堂々としなさい」

「うぅ……」


 ディシスがリィリを優しく宥める。


「ディシスがそんなんだから、リィはいつまでたってもこうなんだよなぁ」

「ええ、リィくんもだけど、それ以前にディシスがこれじゃねぇ」


 ナァゼとルリィのジト目がディシスに刺さる。


「え?」


 ディシスが何のことだという顔をすると、さらに周囲に大爆笑が起こるのであった。

次回「二次会」

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