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リィリュシア・レィエス  作者: 烏羽玉 黒鵺 
序章
1/34

プロローグ

あけましておめでとうございます。

本日から転載開始です。

拙い文章ですがよろしくお願いします。

 恐る恐る洞窟のような道を抜けると、男の前には見たこともない景色が広がっていた。

 辿り着いたその場所は崖の中腹にあるようで、眼下に広がる町を一望することができた。

 日は沈み、空には星がチカチカと疎らに輝き、家々は明かりを灯し長い夜に向け準備を始めている。


「おーい! そこのアンタ!」


 男が初めて見る空と街の景色に、ぽかんと口を開けて突っ立っていると、突然真横から声をかけられた。

 そこには小さな小屋があり、受付カウンターのような窓から誰かが男に向かって何かを叫んでいる。深く帽子を被っていたが、声で女性だと男には判断できた。

 数々の聞いたことのない言葉に困惑するものの、地下で学んできた言語だと理解し、男は注意深く内容を聞き取った。


「おーいってば! 聞こえてんのー? 聞こえてんならさっさとこっち来なー!!」


 どうやら自分を呼んでいるようだと気付き、男は小屋に向かい慎重に歩き出す。


「全く、とろい奴だね~……呼ばれたらさっさと来るんだよ! それからアンタ、入る時ちゃんと受付済ませた? 見ない顔だけど、新人さん? 知らなかったんならしゃーないけど、いや、しゃーないじゃ済まされないけど、ちゃんと受付はしてな? 問題起こされたりするとこっちが迷惑だからさぁ、たまったもじゃないよ! それに————」

「ハァ…………スミマセン…………」


 弾丸のように続く悪態を全て聴き終えると、男は覚えたばかりのカタコトの言葉でそう受け答えた。


「…………」

「…………」


 男の返答にすっかり気が抜けてしまったのか、女は困ったような顔をした。

 少しの沈黙の後、女はこう切り出した。


「そんじゃあれだ、ステータスメダルだけでも見してくんない? 悪いけど一応仕事だからね、問題なけりゃそのまま帰って構わないから」


 男は再び困った。そんな物はもとより持っていないし、なければこの洞窟に入れないなどとは全く聞いていなかった。

 持っていないものを提示することは不可能と考え、男は一か八かで言った。


「ナクシテシマッタ……スミマセン……」


 男は鼓動が早まるのを感じた。今すぐ逃げ出してしまいたいくらいだが、話の流れから察するに、逃げれば確実に後を追われるだろう。

 内心ビクビクしながらも、何とか顔には出ないよう、男は細心の注意を払い表情筋を硬直させる。

 女性はしばらく訝しげな表情で男の足の先から頭のてっぺんまで舐めるように眺めていたが、一つため息をつくと話し出した。


「まぁ相当無茶したみたいだし、落としたってのもありえない話じぁないねぇ……。仕方ないから新しいメダルを発行してやるけど、その様子じゃまたすぐ失くすだろうから、二つ出しといてやる。特別だからな? 誰にも秘密だぞ……?」


 男は改めて自分の服装を見ると、そこかしこに穴や傷が出来ていて、外套は大きく破けているのに気が付いた。そのおかげで魔物と死闘を繰り広げたのだと解釈されたのだろう。

 そして女は、小屋の奥にスタスタと引っ込んで行き、数分後、二枚のメダルを持ってきた。


「ほらよ。次は失くすんじゃないよ?」


 そう言って男に向かってメダルを放り投げた。


「アリガトウ……ゴザイマス…………」

「んならさっさと行った行った! 仕事の邪魔だよ!」


 ぼそぼそと礼を言う男にニッと笑った女は、そう言ってヒラヒラと手を振った。

 男は振り返ると、夜の街に向かいゆっくりと歩き出した。

 そして女は、遠ざかる男の外套の不自然な膨らみを見て、付け加えるように言った。


「ようこそお二人さん、待ちくたびれたよ」



 

 アミュリュア王国の中央に位置する国内最大の都、王都アミュリュア。そこが男のたどり着いた最初の街だった。

 男はしばらく王都にとどまり、地上の知識を蓄えた。そして、自分が出てきた場所が『迷宮』と呼ばれていることを知った。

 また、この男ほど魔法技能、剣術、体術に長けた者も少なく、迷宮へ潜る権利はすぐに手に入った。

 その後は傭兵を名乗って迷宮へ潜り、追手が来ないか警戒と監視をしつつ、王都を離れるための資金を稼いだ。それから、暇があれば地図を見ながらこれから潜伏する場所を検討した。

 地上に上がってから一年の月日が経過した。

 男手一つで迷宮に潜りながら子育てをするのは困難だったが、迷宮入り口の例の受付嬢が、なぜか快く幼児を預かってくれたということもあり、なんとか窮地を凌いだ末、国の外れにある名すら通っていない田舎村に移り住むことに成功した。

 その村は魔物の生息する森に囲まれていて、村に入る道には凶悪な魔物が出現することも多く、人の出入りはかなり少なかった。しかし、村人たちの信頼関係は深く、お互いを助け合いながら静かに暮らしていた。

 村人は始め、滅多なことでは移住して来ないよそ者に対し、奇怪な目を向けていた。しかし、男が魔物の討伐を協力したり、大きな街までの護衛をしたりなど、積極的に村人へ貢献していったことで、だんだんと受け入れるようになっていった。

 2年の歳月が経ち幼子が三歳になった頃、二枚持っていたステータスメダルのうち一枚をその子に与えた。

 幼子の指先に細い針をさすと、小さな血の雫が現れる。それをそのままメダルに押し付けると魔道具であるメダルは魔力の光を帯び幼児の情報を登録した。そして、ディシスが短い詠唱を唱えるとメダルの表面に文字が浮かび上がる。


 名前:■■■■=■■■■=■■■■

 印級:――――

 年齢:3

 性別:男

 職業:――――


 さらにメダルを内部に記憶された情報を読み取る魔法具にかけると、光の文字が宙に浮かび上がった。

   

 保有魔力(推定):20

 魔力耐性(推定):347

 魔力適正(降順):凝固創成魔法、強化系魔法、放出系魔法

 習得魔法:――――

 習得武技:――――

 恒常強化:魔力凝縮、体外魔力変換

 

 etc,etc……


 ところどころ文字化けのようになっていて情報が読み取れないのは、言語の違いや定義不能によるものだろう。 

 男は一通り確認すると、メダルに自らの魔力を込め詠唱を始める。すると、メダルの表面に刻まれた文字が波打ち、詠唱の終わりとともに内と外の内容の一部が書き換わった。


 名前:リィリ=レスト

 闘位:――――

 年齢:3

 性別:男

 職業:――――

 

 保有魔力(推定):20

 魔力耐性(推定):28

 魔力適正(降順):強化系魔法、放出系魔法

 習得魔法:――――

 習得武技:――――

 恒常強化:――――


 etc,etc……


 ここに、一人の男児の存在が一度抹消され、新たにリィリ=レストという人物が誕生したのだった。




 推定旧魔法文明代一千年頃、大気中の魔素がなんらかの原因で急激に増大した。

 魔素は、人間が魔法を使用する際に用いる元素であり、魔法により文明を築いてきた人類にとっては必要不可欠なものだった。

 しかし、どんなものもでも多すぎては毒になる。魔素も例外ではなく、過剰に取り込みすぎると無意識的な制御ができなくなり、精神や肉体に異常をきたしてしまう。

 そのような理由から、人類は地上で生活することを諦め、地下に巨大な階層都市を築き、逃げるようにそこへ移り住んだ。

 地下に移住し約一万年という膨大な時が過ぎた頃、地上の大気は元に戻っていた。

 人類は再び陽の光を求め地上への帰還を試みるも、予想外の壁が立ちはだかった。一万年ぶりに地上に這い出た人類が見たのは、高濃度の魔素の影響により変貌した動植物、以降「魔物」と呼ばれる生物が跋扈する世界だった。

 魔物は魔法を使うことができ、その上ほとんどの個体が人間の体格を上回り、数も信じられない程生息していた。

 切望してきた地上への帰還を目と鼻の先に、人類は魔物の脅威に足踏みをする羽目になった。

 このような状況の中、ガゥディという一族が名乗りを上げた。

 ガゥディ一族は、他の人間たちより魔法を得意とし、さらには剣技までも他とは一線を画す強さを誇っていた。彼らは地上に出るなり、魔物という魔物を殲滅してまわり、人類を再び地上へ導いていった。

 ガゥディ一族は、四百年の間、世代を重ね魔物を殲滅せんと戦い続けた。また、彼らを筆頭に魔物殲滅部隊を組織し、戦力を増大させていった。

 その努力が実り、奪還した領土に一つの国ができあがる。その国こそ、今に続くアミュリュア王国である。

 アミュリュア王国が出来て以降、急速に地上奪還は進んでいった。人々の士気が向上したのも一つの理由ではあったが、何より、空間転移の魔法具の導入が転機となったのである。

 それから、アミュリュア王国はさらに領土を拡大させ続けた。

 初めの二百年たらずで、別の場所に作られた大小様々な地下階層都市に住む同胞を解放した。

 あちこちで地下階層都市を中心とし町や国が生まれていった。また、特に大きな地下階層都市があった五ヶ所の地には、それなりの大きさの国ができた。

 そして、全ての人類が地上への帰還を果たした頃、人類はある重大な事実に直面した。

 人類はこれまで、空間転移の魔道具で魔物を自分たちの古巣、つまり地下階層都市に追いやっていた。

 その時にはすでに、地下階層都市は名を変え、『迷宮』と呼ばれるようになっていた。そして、迷宮に落とされた魔物たちがその数を増やし、地上に溢れ出て来たのである。

 人類は迷宮から溢れる魔物を討伐し始めた。それが、今にこそ広がる冒険者の始祖である。この時から、彼らの紡ぐ新たな時代が始まったのだ。

次回「リィリ=レストという少年」


この後二十話くらい一気に投稿すると思います……

どうぞ気長に付き合っていただければ幸いです……

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