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9話 危険人物がいるらしい

 その後しばらく話を続けていると、街長がふう、とため息を吐いた。

 それと共に少し雰囲気が変わったのを俺は敏感に察した。

 これからの話はどうやらあまり明るい話ではなさそうだ。


「にしても、大変な時期にやってこられましたな。私が街長に就任した時からずっとデザートドラゴンには悩まされていたのですが、近頃はそれに加えて『武器狩(ぶきがり)』なんて輩まで現れる始末で……」


 やっぱり明るい話題じゃなかったな。勘繰った通りだ。

 ただ、ちょっと気になるな。

『武器狩』……昔、師範とこの街に来た時には聞いた覚えのない単語だ。


「武器狩というのは?」

「その名の通り、武器を狩る――つまり持ち主から奪っていく者がいるのです。元からこの街にいたのか他の街からやってきたのかは定かではありませんが、最近になってよく名を聞くようになりましてな。何故か被害者が揃ってお茶を濁してしまう故に詳しい話はわからないのですが、何やら条件を持ち掛けて戦闘を挑んでくるらしいです。分かっているのは女だということと、珍しい武器ばかりを狙っていること――そして恐ろしく強いということだけです。この街の腕自慢は皆彼女に一度は武器を奪われていますよ。街長の立場としては困ったものです」


 街長の眉が八の字になる。元々垂れ眉気味なのもあって、すごい傾斜だ。

 それだけ困っているということだろうな。


 それにしても、被害者が詳細を語りたがらないというのもまた不思議な話だな。

 なんだか少し不気味だ。


「なので、アルバート殿も武器狩との戦闘は避けた方がいいでしょうな。……あっ、アルバート殿が負けると言っているのではありませんぞ!? まさかアルバート殿より強いということはないと思いますが、お気をつけくださいということが言いたかったのです」

「ご忠告ありがとうございます」


 慌てて言葉を紡ぐ街長に、ちゃんと意図を理解していることを告げる。

 武器を奪う女、武器狩り……か。この情報は大きいな。

 本来ならば腕を取り戻すために戦っておきたいところなのだが……いや、やめておくのが賢明か。


 ある程度分かっているデザートドラゴンたちとは違って、ソイツの強さは完全に未知数だ。慎重になって損はない。

 なにしろ俺はひのきのぼうをとられるわけにはいかない。

 他の人なら武器を奪われても違う武器を使えばいいのだろうが、俺が扱える武器はひのきのぼうだけだからな。

 それに、ひのきのぼうを奪われるってことはすなわち、ひのきんを奪われるってのと同義だ。

 折角仲良くなってきてるのにここでお別れなんて、そんなの寂しすぎる。それは嫌だ。

 膝の上に乗るギュッとひのきんの手を握りしめる。


「アルが妾を大切に思うてくれている……感激なのじゃ……!」


 ひのきんはそんなことを言っているが、俺はずっとひのきんのことは大切にしているつもりだ。

 気恥ずかしいからあんまり口に出したりはしないし、茶化しちゃうことも多いけど、それでも大切に思っている。


「いつもありがとうな、ひのきん」

「くひひ、くすぐったいの」


 まん丸な黒い瞳を細く三日月形に閉じ、髪の毛をいじるひのきん。

 その耳はほんのり赤く染まっている。

 可愛いなおい。ちょっかい出したくなっちゃうぞ。


「……こちょこちょー」

「くひんっ!? そ、それは物理的にくすぐったいのじゃ! やめるのじゃ!」


 俺の膝の上で身をよじらせるひのきんを見下ろして思う。

 武器狩だかなんだか知らないが、ひのきんは絶対に渡さない。




「む、もう日も暮れてきましたな」


 街長が外を見て呟く。

 その言葉の通り、少しずつではあるが太陽が傾いてきているように見えた。

 土造りの建物から伸びる影も段々と長くなってきている。


「じゃあ、俺はそろそろお暇します。歓迎していただいてありがとうございました」


 そろそろ寝どこも探さないといけない。

 武器狩なんてものがでるなら野宿するのは危ないし、そうなると早めに宿を探したいからな。

 そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、立ち上がりかけた俺を街長が呼び止める。


「ああ、そうでした。大切なことを言い忘れておりましたよ。アルバート殿、温泉はお好きかな?」

「え? ……まあ、好きですけど」


 温泉なら道場にいたときも何度か入る機会があった。

 大きな湯船に入ると気持ちも開放的になって、とてもリラックスできる。

 それに素晴らしい景色がセットであるならばなおのことだ。

 中には苦手だと言っている仲間もいたが、俺は温泉が好きだった。


「それなら丁度良かった。ご存知ですかな? この街には温泉が湧くのですよ」

「ああ、そういえばここの名物でしたっけ」


 アーサンドは砂漠にありながら温泉が湧く唯一の街として国全体でも有名なんだった。

 思い返してみれば、昔この街に来た時も入った記憶がある。師範とかジャスとかと一緒に入ったんだよな。懐かしい。


「それで、それが何か?」

「もしまだ宿がお決まりでないようでしたら、依頼を受けていただいたほんのお礼に温泉宿に泊まっていただいて、お体を休めていただければと思う次第なのですが……いかがでしょうかな?」


 振って湧いた街長からの提案。

 これを断るなんて選択肢は、俺にはなかった。


「ぜひよろしくお願いします!」

「わかりました、では手配させていただきますな」


 そう言って、街長は席を外す。

 宿に連絡しに行ってくれたのだろう。


「温泉じゃって! アル、アル、温泉じゃって!」

「ああ、楽しみだな!」


 会話を聞かれる心配も無くなったのでそう答えると、ひのきんはくぷぷと唇に細い指を当てる。

 その動作は蠱惑的であり魅惑的で、俺は目を奪われる。


「まったくそんなに嬉しそうな顔をしおって、何を想像しておるのじゃか。アルのすけべえ」

「脈絡なく俺を貶めるな」


 目を奪われ損だったな。

 そういうわけで、俺たちは温泉宿に泊まらせてもらえることになった。

 いやー、至れり尽くせりだな。ラッキーだ!

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