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8話 街長からのお願いごと

 親切な男のおかげで、アーサンドへと案内された俺とひのきん。

 アーサンドは砂漠の真ん中にあるとは思えないほどの活気ある街で、砂の風に吹かれながらも人々は笑顔を振りまいて生きていた。

 昔、師範に連れて来られた時に「厳しい環境だからこそ、生の喜びが味わえる」と言っていたことを思いだす。

 アーサンドに住む人たちは皆、日々の生活で生を実感しながら生きているのだろう。

 そしてそんな人々を纏め上げているのが、今目の前にいるこの男というわけだ。


 今、俺は豪華な造りの部屋で街長である男と向かい合っていた。

 なぜそんなことになっているのかというと、俺がデザートドラゴンを倒したことがわかるやいなや、あれよあれよという間に街長のところにまで連れてこられたからだ。

 どうやらそれほどまでにアーサンドの街はデザートドラゴンたちに困らされていたらしい。


「良い街ですね」

「ほほほ、そう言ってもらえると嬉しいですな」


 男が笑う。顔に似合わぬ老人言葉だ。

 見たところ、四十歳を過ぎたころだろうか。

 今まであまりそのくらいの年の人間と関わることがなかったせいで見た目では年齢の判断が付けづらい。


 まあ、一番見た目で年齢がわからないのはひのきんだが。

 十歳くらいの見た目で、のじゃのじゃ言ってるからな。


「すみません、偉い人の前なのに普通に食事なんかしてしまって」


 俺がそう謝罪しながらも、食べる手は止めない。

 何でもいいから早く胃袋に入れないと、俺の生命活動が止まってしまう。

 そうならないためにも、少々の失礼は見逃してほしいところだ。

 街長は「問題ないですぞ」と言って朗らかに笑う。


「若者は元気が一番ですからな、ほほほ」

「なんじゃコヤツ、良いヤツじゃの」

「ひのきん、コヤツとか言わないの。偉い人なんだぞこの人」

「おお、そうじゃったか。ごめんなさいなのじゃ。まだ人間の常識に疎うての。許してくりゃれ」

「いいですぞ、子供は元気が一番です。お気になさらず、ですな」


 街長が心の広い人で良かった。

 それに街長の了承も貰えたことだし、これで思いっきり食べられるな。


「……アルは美味そうに飯を食うのぅ。妾まで腹が空いてくるではないか」

「お前はさっき魔力食べたんだから我慢してくれ。というか普通の食事とかできるのお前?」

「できるぞい。ただまあ、基本は魔力の方が好みじゃがの」

「ん? 魔力? お二方、それは一体……」

「あ、ああいや、なんでもないです」


 ここに着くまでの間に話し合って、ひのきんが普通の人間と違うということはなるべく秘密にしておこうということになった。面倒ごとに絡まれるのはごめんだしな。

 その割に今回二人揃って口を滑らせてしまったのはうかつだったが。

 今回はなんとかごまかせたが、次からは気をつけないと。


 そんなことを思いながら再度料理に口をつける。

 やはり美味い。絶品だ。


「食べながら聞いてほしいのですが……街の者から聞きました。飛んでいるデザートドラゴンを倒したというのは、誠ですかな?」


 と、街長が話題を変えてきた。

 俺がデザートドラゴンを倒したのはすでに街長も知っているわけで、となるとこれは確認のための質問だろう。

 となると、本当に聞きたいことはその先にあるはずだ。


 俺がコクリと頷くと街長は案の定その顔を少し固くし、真剣な面持ちへと変わる。


「では、そんなアルバート殿に街長としてお願いがあるのです」

「……なんでしょうか?」

「デザートドラゴン退治をお願いしたいのですよ。近頃生態系のバランスが崩れたらしく、デザートドラゴンの目撃数が劇的に増えておりましてな。一匹現れるたびに街に被害が出るものですから困っておるのです」

「ああ、それなら喜んで。俺たちは元々、この街にデザートドラゴンを狩るために来たんです」

「おお……! ありがとうございます! アルバート殿ほどの実力者が引き受けてくれるならば、これで我が街も安泰ですな!」

「いやー、それほどでも。あはは」


 ここ五年間くらい実力を褒められたことなんてなかったから、ちょっと嬉しいな。

 後頭部に手を当て、照れを隠す様に頭を擦る。


「アルは褒められると弱いのじゃ。愛いヤツじゃのぅ。くのくの~」


 隣に座るひのきんが俺の腰の辺りを肘で突いてくる。

 くすくすと笑うひのきんは大層楽しそうだ。


「仲がよろしいんですな。良きことです」


 そんな俺たちの様子を見て微笑む街長。

 悪意がないのは分かってるけど、こういう生暖かい視線を浴びると恥ずかしくてたまらん。

 ひのきん、俺の代わりに会話しといてくれ。


「ちなみにこちらにはお二人で?」

「そうなのじゃ。アルが来たいと言うから妾も付いてきたのじゃ」

「ほう、そうでしたか。いやー、それにしてもお二方は凄いですな。まさかハジマの街からここアーサンドまで、地竜車にも乗らず徒歩でやって来るとは。驚きで開いた口が塞がりませんぞ」

「やっぱり普通はしないのかえ?」

「はい、それはもう。常識という物を欠片でも持ち合わせているならば、この砂漠を徒歩で行こうとは思いませんぞ。いやー、雰囲気に似合わず豪胆なお方たちですな」


 ……褒められてるのか、これ?

 いや、多分褒められてはないだろうな。確実に驚かれてはいると思うけど。

 そうか、やっぱり徒歩で砂漠越えは無謀だったかぁ。

 今度からは素直に地竜車を使おう。

 ひのきんにも迷惑かけたし、それにもう二度とあんな飢えは御免だからな。

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