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4話 決闘の行方

 決闘は道場の広い庭で行われることになった。

 元々天才剣士の名を欲しいままにしていた俺と、実力で師範代理にまでのし上がったジャス。

 俺たちの戦いを一目見ようと、庭には多くの門下生が集まってきていた。


 その中でただ一人、戦いを待ちわびる周りの門下生とは違う顔をした男がいる。

 呆れたような顔をした男は、四十二歳、三歳という年齢で、明らかに一人だけ飛びぬけて年上だ。

 藍色の髪を整えもせず無造作なままにしたこの男こそ、俺やジャスの師範であり、この道場の主であるガールックであった。


「数か月ぶりにアルの顔を見れたと思えば決闘たぁ、相変わらずお前らは血の気が多いな……。どうせジャスが吹っかけたんだろ? 謝っちまえばいいのに」


 立会人として呼ばれた師範は、面倒くさそうにジャスに言う。


「うっせえな! 師範にゃあわかんねえんだよ、俺の気持ちなんてよぉ!」

「お前は思春期真っただ中か。でもアルもアルだぞ。ジャスの言葉なんかいつものように流しちまえばいいんだよ。道場にいたときはそうだったろ?」

「それはできません。大切な武器を馬鹿にされたので」


 その言葉に食って掛かったのはジャスだ。


「まだ言うかお前! 大切な武器って、棒じゃねえかよ。お前本当俺を舐めてんだろ? 舐めてるよな? なぁ!?」

「はぁ……もういい、わかった」


 師範は一向に歩み寄らない俺とジャスを見て、深いため息を吐いた。

 そして頭を持ち上げると、真面目な顔を俺たちに向ける。


「言っても聞かねえなら、存分に戦って決着付けろ。その代わり、相手を殺すなよ。アルもジャスも、俺の可愛い弟子なんだから」

「可愛いとか言うんじゃねえよクソ気持ち悪い!」

「おいおいジャス、子供の頃はよくほっぺにチューしてやっただろ。忘れたのか?」

「……アルの次はお前だ! お前もぶっ倒すっっっ!」


 ……ジャスのヤツ、頭に血が上ってやがる。師範代理になっても元来の性格は変わんないもんだな。

 師範にギャアギャアと喚き散らすジャスを見ながら、棒の姿のひのきんが口を開く。


「のうのうアル。アヤツ、なんだか可愛く見えてきたぞ。まるで子供じゃ」

「まあ、悪いヤツじゃない。ただ誰にでも噛みつくだけで」

「野犬みたいじゃな」


 そんな話をひのきんと交わす間もジャスはひとしきり師範を罵るが、慣れている師範は全く聞く耳を持たない。


「おい師範、俺の話を聞け! 聞けったら聞け!」

「やだよ、だってお前声でかいんだもん。俺もうおじさんだから耳痛くなっちまう」


 これ以上ないくらいの暖簾に腕押しだな。

 そのまましばらく口やかましく言葉を並べ立てると、やっと観念したのか、ジャスは俺の方へと向き直った。


「もういい、師範は俺の話をちっとも聞きやがらねえっ。さっさとやろうぜ。アル、お前を見てるとイラついてしょうがねえんだ」


 そう言って、ジャスは剣を構える。

 どこにも余計な力が入っていない、研鑽が見て取れる自然な型。

 その構えは俺の物と酷似していて、まるで自分と向かい合っているかのような気分になる。


「どうした、怖気づいたか? さっさと構えろよ」

「ああ」


 ひのきのぼうを構える。構えは五年前と同じだ。

 剣と棒ならリーチも重さもあまり変わらない。なら下手に構えを弄るよりも、長年身に染みついている型で戦う方がいい。


 剣士に大切なのは己を信じることと、それと同じくらいに己の武器を信じることだ。

 今までの俺は後者が出来ていなかった。

 だが今は出来る。だから勝てる。大丈夫だ。


「双方、準備はいいか?」


 師範は右腕を高らかと掲げ、口を開く。


「では……始め!」


 その声が耳に届いた瞬間、ジャスの剣が振り下ろされた。


 どう考えても剣が届くような距離ではない。

 しかし、俺は微塵も油断しない。

 なぜならジャスの持つ剣もまた、ただの剣ではないからだ。


 金属には魔力を留めておけるという性質があり、武器の中にはそれを利用して特異な能力を持つものがある。

 ジャスの剣もそのうちの一つだ。


「おらぁッ!」


 ジャスの剣の切っ先からボボボッ、と赤い炎が噴射される。

 火剣――オーソドックスながら、高い攻撃力から人気の高い剣の一つだ。


 攻撃的な戦いを好むジャスはこの剣との相性が良かったらしく、ジャスが頭角を現し始めたのもこの剣に替えてからだった。

 だが、その戦い方はこちらも熟知している。


 俺は動くことなく炎を出迎えた。

 炎は俺の頬を掠めるだけで、直撃することなく背後へと流れ去る。

 やっぱりな。


 初撃のこれは牽制。

 本命は二撃目、だろ?


 俺とジャスとかがみ合わせのように互いの武器を上段に構え、振り下ろさんとする。

 ジャスとの距離は目測十メートル。もちろん振り下ろしたところで直撃は百パーセントない。


「ハッ! 本当におかしくなったみたいだな! 魔力を含んでいない武器じゃ魔法も衝撃波もでねえ! ただの棒でその距離から何ができるってんだよ!」


 たしかにジャスの言っていることは正論だ。

 ただし『ひのきのぼうがただの棒だったら』の話だが。


「悪いなジャス。『ひのきのぼう』はただの棒じゃない。聖なる棒、略して聖棒なんだ」

「意味わかんないこと言ってんじゃねえぞ!」

「まあ見てろ、そうすりゃわかる」


 俺は棒を振り下ろす。

 と、共に、巨大な衝撃波が飛んだ。

 火剣から噴出した炎を一瞬で呑み込み、そのままジャスへと向かう。


「はぁあああっ!? なんだそりゃ、反則だろ!」


 ジャスは驚愕を顔に露わにしながらも、持ち前の技術で防御を試みる。

 衝撃波と火剣がぶつかり。

 そしてガキンと鈍い音が響いた。


 数秒の後に、カランと軽い音がする。

 ジャスの剣の先が地面に落ちた音だった。


「勝負あったな、ジャス」


 傷一つついていないジャスに告げる。

 俺はひのきのぼうを持っており、ジャスは半分に折れた火剣を持っている。

 もはや勝敗は決したと言っても良いだろう。

 しかし、ジャスはそうは思っていないようだった。


「……まだだ、俺はまだ負けてねえ!」


 折れた剣を腰の前で突くように構え、ジャスは俺の方へと走って来る。

 その目にはまだ確かな闘志が漲っていた。


「いっちょまえに手加減なんかしてんじゃねえよ! 全力で来いやぁっ!」


 ジャスには、俺がジャスの身体を慮ったのが伝わってしまったようだった。

 それを「剣士として侮辱された」と捉えたのだろう。

 こうなってしまっては、ジャスは止まらない。


「……わかった」


 折れた剣は魔力を放出しきってしまったのか、もはや炎を発する機能も失い、リーチも短い。

 ジャスは両腕で持った剣を懸命に突き出してくるが、それは間違っても俺に当たるような攻撃ではなかった。


 俺は棒を構え、振り下ろす。

 ジャスの剣を上から思い切り叩きつけると、剣はグシャリと尋常でない音を立てて粉々に砕けた。


「これ以上は無駄だ。お前もわかるだろ、ジャス。降参しろ」


 俺の言葉に、ジャスは「……チッ」と舌打ちをする。


「降参だ……ああ、やっと戻ってきやがった」


 そして告げられた言葉は、どこか喜色の混じったものだった。

 負けて悔しそうではあるが、同時に口の端が吊り上がっている。

 その意味が俺には理解できない。


「どういう意味だ?」


 俺がそう問うとジャスはプイッとそっぽを向く。

 会話を放棄されたのかと思ったが、どうやらそういう訳でもないようだ。

 俺とは目線を合わさぬままで、ジャスは俺に口を開く。


「ケッ、どうもこうもねえ。俺は子供のころ見たお前の剣に憧れてんだよ。なのに剣が振れなくなってからのお前は別人のようにウジウジウジウジしやがって……立ち直んのが遅えよ、クソが」


 ふと見ると、師範は微笑ましげにジャスを見ていた。

 師範は最初からこのことを知っていたのだろうか。

 そうかもしれない。なんてったって師範だしな。

 文句を言うようなトーンのジャスに、俺は思わず笑いが漏れてしまう。


「ジャス、お前……可愛いなぁ」

「はぁ!? ふ、ふざけんな、ぶっ殺す!」


 睨みを利かせてくるジャスにケラケラと笑いながら、俺はひのきのぼうを手で撫でた。


「待たせたな、ジャス。もうクヨクヨしたり悩んだりはお仕舞いだ」

「……ケッ、知るかってんだ」

「おいおい、お前が憧れた俺が戻ってきたんだぞ? もっと喜んでくれよ」

「……殺すっ!」


 追いかけてくるジャスを避けながら、俺は道場から逃げだす。

 と、知らぬ間に人の姿に戻ったひのきんが俺の隣を走っていた。


「妾には詳しい事情は分からぬが、兄弟を見ているようで微笑ましかったのじゃ。いいものを見せてもらったぞい」

「そりゃどうも。ジャスは自慢の同期だよ」

「おいアル! どこ行きやがったてめえ! ぜってー許さないからな!」


 街中に響くジャスの大声を聞きながら、俺は笑う。

 これほど腹の底から笑ったのはいつ振りだろうか。

 きっと五年振りくらいなんじゃないかな。

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