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22話 追及

「ひのきんを攫った黒幕は、あんただな?」

「ひのきん……というと、アルバート殿に連れ添うその少女ですか。いやはや、攫われていたなど露知らず。なんとも労しい、大変な目に合われたのですな」


 街長は気の毒そうな目線をひのきんに向ける。

 哀れみの多分に混じった視線に、言い返さずにはいられない。


「違うだろ、お前が――」

「アルバート殿はどうやらパニックで少しおかしくなってしまっているようだ。温泉にでも入ってすっきりされるといい。その間に、武器狩は私が警備隊に送り届けます。誰も被害届を出していないのはおそらく脅迫されたからでしょうからね。全く、許されざることですな」


 ……コイツ!

 何がどうあってもしらばっくれる気だな!?

 なら、コッチにだってやりようはあるんだぞ。


「アル、あれを見せてやるのじゃ!」


 ああ、わかってるぜひのきん!


「これを見ても、同じ口が利けるか?」


 俺はポケットから一枚の紙を取り出した。

 実行犯の男たちから発見した、この場所にバツ印が書かれた紙だ。

 それを開き、街長にありありと見せつける。

 これを見れば、コイツもこんな余裕な態度はとれないはず!


「ほら、良く見ろ! これが証拠だ!」

「……それが、どうかしましたかな?」


 ……はぁ!? なんで余裕が崩れないんだ!?

 こんな証拠まであるんだぞ?

 首をかしげるだけなんて、どう考えてもおかしいだろ。


「いやだから、丁度今俺たちがいる場所にバツ印が付いてるだろ? つまりここが取引場所だってことだ。そんでそのすぐ近くの岩にあんたが隠れてた。どう考えても怪しいだろ。まさか偶然とは言わさないぞ、いい加減正体を現せ!」

「……ああ!」


 芝居がかった仕草で、ポンッと手を叩くサム。


「なんだ、簡単な話ではないですか。アルバート殿は騙されていらっしゃる」


 騙されてる……?

 どういうことだ。

 よくわからないといった顔の俺に、街長は解説する。


「それはきっと、真犯人がフェイクで入れたものですよ。自分に目が向かなくなるようにとね。そう考えるのが自然でしょう」


「でなければ、わざわざ証拠が残るようなことをしますか?」と街長。

 それは……たしかにそうだ。

 俺はてっきり物覚えの悪いヤツが書いた走り書きだと思っていたが、冷静に考えてみればそんなことをするヤツがいるか?

 いや、いるとは思うが……。

 ぐ……っ。や、ヤバい、追いこむつもりが、逆に追い込まれてる……。

 コイツが言ってることはもしかして正論なんじゃないか……!?


 言っていることにも筋が通っているように思える。

 なにより、俺たちの一番の切り札であった証拠が全く切り札足りえなかった。

 これ以上の追及は出来そうもない。

 じゃ、じゃあ、俺は勘違いしてたってことなのか?


「そうですね、例えば……武器狩が、あなたの目を盗んで忍ばせたのでは?」

「いや、それはない」


 パニックに陥りそうだった頭が街長の一言で冷めていく。

 そうだ、リタがそんなことをするはずがない。


 大体、リタが犯人ならわざわざ地竜車を追いかける必要もなかったんだ。

 リタがいなければ俺は追いつけなかったんだから。

 それに、リタ自体も信用している。

 リタはたしかに武器狩だが、むやみに人の武器を盗んだりはしない。

 きちんと合意を得てから戦ってるって本人も言ってたし、だから被害届も出てないんだろう。


「ほぅ? いつの間にか随分と罪人に懐柔されたことで……街を救ってくださった恩人が、嘆かわしいですな」

「おいおいおっさん。黙ってきいてりゃ好き放題言ってくれやがってよぉ」


 俺からバトンタッチするように、今度はリタが喋りだした。

 自分より背丈の大きい相手にも全く臆することなく、下からギンと睨みつけている。


「リタ、悪い……。俺じゃ言い負かせなかった」

「大丈夫だアルバート、最初からあんまり期待してなかった」


 ……それは何気に酷くね?

 傷つくよ?


「アルには荷が重かったのぅ。大体、そんな紙っきれを見せたところで何になるわけでもなかろう。妾でもわかるわ」


 おいっ! ひのきん、お前さっき『あれを見せてやるのじゃ!』って言ってたじゃねえか!

 あんときのお前はどこへ行った!


「さて、オレの刀なんだがな」


 リタは俺から証拠の紙をとる。

 そして上げた腕の先から紙を離し、ひらひらと舞う紙の端を白い刀で斬りつけた。


「この刀身まで純白な刀、『白孔雀』は――斬った対象の記憶を呼び起こす刀だ。さあ、この紙の記憶を見てみようぜ」


 斬られた紙から、映像が浮かび上がってくる。

 なんだこれ、と思いながら、自然と目線はそちらに吸い寄せられる。


 映像に映っていたのは数人の男と、その前に立つ街長だった。


「いいか、あの小僧の隣にいる黒髪の少女をなんとしても盗み出せ。私のコレクションに加える」

「え、あんな少女を……ですか? たしかに美少女っちゃあ美少女ですけど……街長って、少女趣味だったんですね……」

「これだから馬鹿は……。あれはただの少女ではない。まあ、お前らのような凡人にはわからんか。お前らはやることだけやっておけばいい。……その代わり、誰にも見られぬよう慎重に慎重を重ねるのだぞ。いいか、取引場所は砂漠を西に行ったところの――」


 そこで、映像は途切れる。

 苦渋を舐めたような顔の街長。

 それを見て、リタがニィィと不敵に口角を上げた。


「まだ言い逃れる強心臓を持ってるならどうぞ、街長さんよぉ?」

「……っ」


 街長は言い返すことも出来ずに、ただ拳を震わせている。

 それはつまるところ、自白と同義だった。


「あんたの敗因は、もっとまともなヤツらに依頼しなかったことだ。そういうところで金をケチるような己の器の小ささが、この窮地を招いたんだよ」

「リタ、お前すげえな!」

「よせよせ、恥ずかしいだろーが」


 いや、すげえよ本当に。

 お前がいなきゃ街長をここまで追い詰めるのは到底無理だった。ありがとな、リタ!

 さあ街長、これでお前もいい加減観念しただろ。


 俺とリタ、二人の瞳を交互に見て、街長はフゥと一つ息を吐く。


「これはもう……無理ですかな」

「ああ、無理だぜおっさん。大人しく罪を認めてお縄につきやがれ」


 リタの言葉に、街長はククッと小さく笑った。


「たしかに言い逃れるのは無理になってしまいましたな。……ですが、ね?」


 悪意が膨らむ。

 街長の身体から、殺意があふれ出る。


「今あなた方二人を殺せば、何も問題はないとは思いませんかな?」


 街長は懐から短剣を取り出し、構えた。

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