21話 黒幕の手がかり
黒幕の手掛かりを探すため、俺たちは実行犯の身体を探ってみることにする。
ドラゴンに食われていない部分に、黒幕の手掛かりが何か残っているかもしれないからな。
砂漠に落ちた腕や胴体を拾っては、それをまさぐる。
「うぇぇ、ぐっろいのぉ……」
物に触れないので俺たち二人の作業を見ているだけのひのきんは、うっぷと口を押さえた。
精神的に結構来ているようだ。
「ん? ひのき、お前こういうの駄目なのか? 意外だな」
「あ、ある程度までは大丈夫じゃけど、自分と同じような形の生き物が食われるのはどうものぅ」
「なるほどな。まあ、オレは気になんねえけど」
そう言いながら、リタはバリバリと死体の衣服を脱がせ、手掛かりを探していく。
凄いなリタ。よぉし、俺も負けてられないぞ!
同じように衣服を剥がし、身体や服に何かないかとゴソゴソと調べる。
「アルもこういうの気にせんよな。気にしそうなのに」
「まあ一応荒事にはなれてるしね。それに死んだのはかわいそうだとは思うけど、そもそもコイツラのせいでひのきんと離れることになったわけだしなぁ」
「なんじゃ、惚気かえ? 惚気かえ? 照れるのぅ~」
「はいはい」
「ちょっ、アル! 妾をあしらうでない!」
そんな話をしつつ犯人たちのポケットを探っていた時のことだった。
「おっ?」
突っ込んだ手に、何か異物の感触が伝わる。
紙っぽいな、なんだろう。
ポケットから取り出してみると、それは四つ折りにされた紙だった。開いて中身を確認する。
「……手掛かり、見つけたっぽいぞ」
「本当か?」
「なんじゃ、どんな手掛かりじゃ!?」
すぐさま寄ってくる二人に見えるように、ぴらりと紙を二人に向ける。
そこにはアーサンド周辺の地図が描かれていた。砂漠と言っても岩肌が露出しているところや大きな岸壁のある場所があり、それらが書き込まれている地図だ。アーサンドから西側に進んだところ――ちょうど今俺たちがいる場所の辺りにバツ印がつけられていている。
「む? ちょうどこの辺りに印が付いとるのう」
「ああ。俺が思うに、コイツらはここでひのきんを誰かに引き渡す予定だったんじゃないか?」
このバツ印というのはおそらく取引場所のことなのだろう。
先に到着して留まっていたところをデザートドラゴンに狙い撃ちされたと考えれば納得がいく。
「なるほど、じゃあ誰かがひのきを受け取りに来たところをオレらでぶっ倒そうってこったな?」
「その通りだ。取引相手が来るまではあの大岩の後ろにでも隠れとこう」
俺たちが取引場所にいてしまったらまず間違いなく警戒して近づいてこないだろうしな。
俺は少し先に見える大岩に隠れることを提案する。
最低でも縦横三メートルはありそうだし、隠れるにはもってこいだ。ひょっとしたら犯人たちもあれを目印にしてこの場所に落ちあうことを決めたのかもしれない。
しかし、今すぐに隠れればいいかと言うとそうでもない。それはリタもわかっているようで、少し困った顔をする。
「ただまあ、隠れる前に色々とやらなきゃいけないことはあるよな。地竜車は屋根を乗っけてやれば遠目からじゃ傷ついてるのは分かんねえとして……このドラゴンどもの死体はどうする? こんなもんが落ちてたらここで何かあったのバレバレだぜ」
「それは俺とひのきんでどうにかしよう。やるぞ、ひのきん」
「あいわかったのじゃ」
ひのきんが棒へと姿を変える。
そして俺はドラゴンの死体の下にひのきのぼうを滑り込ませ、そこから思い切り振り上げた。
大量の砂が舞うのと共に、デザートドラゴンの身体が再び宙に浮きあがる。凄い勢いで上級へと飛んだ体は、そのままはるか遠くへ消えていった。
それを五回繰り返すと、周囲には地竜車だけが残る。……うん、これでよしと。
「邪魔なものはなくなったし、これで隠れる準備は万全だな」
「お前ら本当に規格外だな。ドラゴンの身体ぶっとばすってなんだよ……」
「俺が凄いんじゃなくてひのきんがすごいんだ。俺だけの力じゃあそこまでは飛ばない」
「これこれアルよ、あんまり褒めるでない。世界最高の武器などと言われるとさすがに照れるのじゃ」
そこまでは言ってないけど……まあたしかに、少なくとも俺の中じゃ世界一の武器だよ。
人の姿に戻ったひのきんの頭を一撫でし、岩へと歩き出す。
撫でられたひのきんはくひっと笑ってリタに自慢げな顔を向ける。それに対してリタが馬鹿にするようにからかうと、今度はぷんぷん怒り始める。
ものの数秒で喧嘩をしないでくれ。取引相手はいつ来てもおかしくないんだから、もうちょっと緊張感を持とうな?
……ん? なんか岩の裏側に人の気配がするような……いや、これは確実に人がいる!
「ちょっと止まって、二人とも。……裏に誰かいる」
俺の言葉を聞いて、リタとひのきんも意識を戦闘モードへと切り替える。
岩までの距離は目算十メートル。普段とは違う砂漠という環境のせいで気配に気づくのが遅れたが、暢気に突っ込むことにならなくて本当によかった。
ひのきんへ手を伸ばすと、手と手が触れあった瞬間にすぐさまひのきのぼうへと姿を変えてくれる。ひのきのぼうを右手に携え、リタと共にゆっくりと岩の方へ近づいていく。
一歩、また一歩……あと少しで岩まで辿り着くな。
さあ、どんなヤツが隠れてやがる。その面みせてみろ……!
「……街長?」
見間違いかと思ったが、見間違いではない。そこにいたのはたしかにアーサンドの街長だった。
え、なんで街長が出てくるんだ……? 何がどうなってる……?
腰の曲がり始めた老人である街長は、うろたえた様子もなく人の好い笑みを見せる。
「おや、これはこれはアルバート殿。こんなにも広い砂漠で出会うとは奇遇ですな」
「え、あ……はい」
奇遇……なのか? 本当にそうか?
思わぬ事態に一瞬頭の回転が止まっていたが、よく考えてみろ。
ここは取引の約束がされている場所なんだぞ? 砂漠の真っただ中の取引現場に六十過ぎた老人がたまたま居合わせる、そんなことがあり得るのか?
……いや、ないだろ。
「……街長、なぜこんなところにいらっしゃるんでしょう」
「散歩ですな。この年になるとさすがに運動不足なのですよ。なのでたまには一人であてもなく遠出でも、と思いまして。それだけですな」
街長は飄々と答える。少なくとも表面上は以前と何も変わらない態度だ。
それが逆に不気味で言いようのない恐怖を覚える。こんな状況でよくそんな顔ができるものだ。
「そういうアルバート殿こそ、そちらの女性はもしや武器狩りではありませんかな? なにゆえそんな輩とご一緒で?」
じろり、と眼球だけを動かし、サムはリタを見る。
ジトッとした目線を真正面から受け、リタは鼻を鳴らした。
「ふん、オレの話は今どうでもいいんだよ。それよりあんたの話が先だ」
「……どういうことですかな? 私にはさっぱり意味がわかりませんが」
「少し聞きたいことがあるんですけど、いいですかね?」
会話に割り込み、サムを睨みつける。
そんな俺の視線に物怖じもせず、サムは少し考えるように顎に手を当てた。
「ふむ……いいですよ。聞きましょうか」
そう答え、その場に仁王立ちする。
ピリピリとした空気が流れる中、俺は口を開く。
「ひのきんを攫った黒幕は、あんただな?」
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