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20話 脱線しまくりの話し合い

「で、だ」


 じゃれ合いの中、ふとリタが真面目な顔に変わった。

 それを察して、俺とひのきんも瞬時にお遊びをやめる。


「聞きたいことがあるんだが、いいか?」

「ああ、何かあるなら遠慮なく言ってくれ」

「ひのきんとやらが武器に変わるってのはこの街の他の人間にも知られてんのか?」

「いや、アーサンドに来てからはなるべくバレないようにしていたからな。多分リタにしか見られてないと思うぞ」


 こういう事件に巻き込まれる可能性が増すのが嫌だったからな。ひのきんが姿を変える時は特に周囲を警戒していたつもりだ。……結果的にはこうして事件に巻き込まれたわけだが。

 それを聞いたリタは顎に指をかけ、トントンと遊ばせる。上を向きながら、言葉を選んでいる様子だ。


「じゃあ言わせてもらうが……おかしくねえか? だって見てみろよ、コイツらの身体」


 そう言って、リタはすでにこときれている人々の方を首で指す。

 犯人は全部で四人。全員ドラゴンに半分以上食われているが、身体のどこかが残ってはいた。

 そんな男たちを見て、リタは確信じみた口調で言う。


「身体つきを見りゃ大体の実力はわかる。コイツらじゃどう甘く見積もっても中の下ってとこだろ。その程度の実力しかないヤツらが、自分たちでひのきのぼうの価値に気付けると思うか?」


 なるほど、たしかにそうかも――


「ふふん! リタ、もっと妾を褒めるのじゃ!」

「ひのきん、今大事なところだから黙ってて」


 考え事してるときにふざけちゃ駄目でしょ、まったく。

 半目を向けると、それが不服だったのか頬を膨らますひのきん。


「ぶー!」

「よしよし、頭撫でてやるから我慢しような」

「じゃから、子ども扱いするでないっ。……まあ、撫でては貰うがの。一応、一応じゃから」


 そう言うと、俺の膝の上に座る。

 そのまま頭を撫でてやると、ひのきんは音符でも出すんじゃないかってくらい上機嫌になった。


「えへへー」


 かわいいなおい。俺の理性を飛ばそうとするな。

 そんなニヤニヤした俺の膝の上のひのきんを、リタが顎に手を置きながら見る。


「嬉しそうだな、ひのき」

「違うのじゃリタっ。ひのきじゃない、ひのき『ん』!」

「めんどくせえし、ひのきで良いだろ」

「な、なんじゃとぉ……!?」

「はいはい、すぐに喧嘩をおっぱじめるな」


 仲良くなったり喧嘩したり忙しいな。

 そんなに二人で盛り上がられると、俺が寂しくなっちゃうじゃないか。


「あ、悪いなアルバート。どうもひのきとは気が合わねえみたいで……」

「妾もじゃ! コヤツとは合わぬ!」


 いや、俺にはむしろぴったりに思えるけどな。


「大体コヤツ、妾とアルの仲を引き裂こうとしたじゃろ! そんなヤツ妾大嫌いじゃ!」


 と、ひのきんがプイッと顔を背けながらそんな言葉を言った。

 すると、リタは真面目な顔に戻る。そして深くうなだれ、頭を下げた。


「……悪かったなひのき。お前を無理やり狙うような真似しちまってさ。あんときは気が動転してたんだ。本当に悪かった。申し訳ない」

「あ、う、うん。……そ、そんなに本気で謝らなくてもいいのじゃぞ?」


 思いのほか真面目に謝られてしまったせいで勢いをなくすひのきん。

 ここでそんな反応になってしまうあたり、ひのきんもお人よしだ。謝られても許さないって言ってもおかしくないんだけどな。まあでも、俺はそんなひのきんが好きだよ。

 おろおろと焦りながら、頭を下げるリタの頭を持ち上げようとする。


「頭を上げてくれ、の、の? じゃないと妾どうしていいかわからぬ」

「わかった。でも、本当にごめんな」

「もう良いわ、謝ってもらえれば妾は満足じゃ。……そ、それに」


 そこでひのきんは一旦言葉を切った。

 不自然な息継ぎに不思議そうな顔をするリタの前で、ひのきんは口をとがらせる。


「……まあ、こうやって助けてもらったことへの感謝もあることだしの」


 言いながらさらに口をにゅっと尖らせる。

 ああ、なるほどな。感謝の言葉が恥ずかしかったのか。そこもひのきんっぽいというか何というか。

 でもひのきん、ちゃんと言えて偉いぞ? ほら、おかげでリタも心なしか嬉しそうだ。


「なんだひのき、デレたか?」

「で、デレてないのじゃ! 誰がお主になんぞデレるか! さっきまでの殊勝な態度はどこへ行きおった!」

「じゃあ俺には? デレて欲しいなー」

「あ、アルまで妾をからかいおってぇ……! 妾おこじゃからなぁ……!」


 ごごごごご、とひのきんから怒りのオーラが発される。

 ヤバい、かなり怒ってるみたいだ。

 だがしかし、今ひのきんは俺の膝の上。ならばまだ打つ手はある!


「よしよし、よーしよしよし!」


 一心不乱にひのきんの頭を撫でる。

 さっきも見る見るうちに上機嫌になったんだ。これで機嫌を戻してくれることにかける!


「ぐぅぅぅ……えへへ! えへへ……ぐぅぅ……っ!」

「おお、すげえな。怒りと嬉しさが丁度相殺されて、ひのきがすげえ変な顔になってる」


 その後数分頭を撫でつづけ、なんとかひのきんの怒りを中和しきることに成功した。

 ちょっとからかったばかりにとんだ重労働だ。




「というか、いつの間に完全に話が脱線したな」


 ひのきんの怒りを中和して一息ついた俺は心の底から言葉を発する。どうしてこうなった……。


「リタのせいじゃ」

「ひのきのせいだろ」

「あーあー、擦り付け合いすんな、また脱線するから! いいか、話を戻すからな!」

「ほいほーい」

「うーす」


 二人揃ってやる気ない返事しやがって……。

 というか、リタに関してはお前が始めた話題だぞ? もうちょっとやる気を出せ。


「……で、リタ。『コイツラは自分たちではひのきのぼうの価値に気付けない』ってことはつまり、そういうこと(・・・・・・)か?」


 さすがにそこまで聞かされれば、俺にもリタが何を言わんとしていたのかが理解できた。

 同意の意を示すようにリタは軽く頷き、話始める。


「ああ、アルバートが思っている通りだ。オレは『実行犯と計画犯は別なんじゃないか』って考えてる。もしオレの考えが正しいとすれば、人知れずひのきの価値に気付いて、コイツらにひのきのぼうの窃盗を依頼したやつがいるはずだ。そいつこそが真の黒幕なんじゃないか?」


 やっぱりそういうことだよな。

 コイツらはただ頼まれたから盗んだだけ。じゃあ真犯人を見つけてとっちめない限り、またひのきんが狙われる可能性があるってことだ。


「で、だな。もしよければ、俺もその黒幕探しを一緒にしたいと思ってるんだが……ダメか?」

「ふむ、妾からすれば嬉しいが……お主が妾たちのためにそこまでしてくれる理由はなんなのじゃ?」


 ああ、そうだな。それは俺も気になったところだ。

 リタは一瞬逡巡するように口ごもり、そして話し出す。


「関わった以上は、この一件を最後まで見届けたいんだ。……アルバートとひのきには、すげえ迷惑をかけちまったから、その罪滅ぼしもあるしな」


 話しの間に、リタはチラリと俺の方を向く。

 先ほどひのきんに謝った時にも感じたが、どうやら初対面でいきなり襲い掛かってきたことについては、リタなりに本気で申し訳ないと思ってくれているらしい。


「こんな理由しかないからな、もちろん断られても仕方ないと思ってる。……でも、どうかな」


 リタは珍しくこちらを窺うような視線をみせた。

 少しだけ考えて、俺の中での答えはすぐに出た。立ち上がり、リタに手を差し伸べる。


「ありがたい限りだ。リタは頼りになるからな。一緒に探してくれ」

「……アルバート、良いヤツだなお前。武器狩のオレを信用してくれるなんて」


 リタはそう言ってその手を取った。

 そして少しおちゃらけた顔をする。


「ああ、安心しろよ? 絶対裏切ったりしねえから」

「その辺は心配してないって。リタはそういう嘘つくヤツじゃないだろうしな」

「会って一日二日の相手をよくそこまで信用できるな。……オレが言えた義理じゃねえけど、頭大丈夫か?」

「急に酷くない!?」


 なんか急カーブして悪口になったんだが!?


「アルの頭は駄目に決まっておる。コヤツは骨の髄までお人好しじゃからな」

「ちょっと待ってひのきん、そこは俺の味方をしてくれよ!」


 頭撫でてあげただろ!?

 おかしくない!?


「やれやれだなぁ」

「やれやれじゃのぅ」

「この状況に納得がいかない……!」


 肩を竦めてやれやれのポーズをとる二人に、やり場のない怒りがふつふつと滾って来る。

 この怒り、どうしてくれようか……! ……そうだ、犯人にぶつけてやることにしよう。それがいい。


「待ってろよ黒幕! 絶対にぶっ潰す!」

「おお、なんか急にアルがやる気を出したのじゃ!」

「アルバートって百面相みたいで面白いよな」


 出てこい黒幕! 俺が倒してやるからな!

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