18話 救出
走る俺とリタ。
ドラゴンたちとの距離がぐんぐんと迫っていく。
ドラゴンは近づいてくる俺たちを発見すると、大きな口を開けた。
「グラアアアアアアッ!」
六重に折り重なった叫び声。
その音量はとてつもなく、思わず俺とリタは立ち止まってしまう。
「どうする? ヤツラ、完全に臨戦態勢に入っちまった。しかも六匹だ。これだけの数となると、オレでも苦労するぞ」
「頼む、俺をひのきんのところまで運んでくれ。そうすればあとは俺がどうにかする」
「すげえ自信だな。……まあいい、その賭けに乗ってやるよ」
そんな言葉を交わし、再度走り出す。
だが、ドラゴンたちが大人しく俺たちを迎え入れてくれるわけもなく。
「グラアアッ!」
大きく開いたドラゴンの口から、勢いよく炎の玉が飛んでくる。
見る見るうちに大きくなる火球。狙いは俺。
「うおっ、そういやそんなことできたんだっけか!?」
アーサンドついてから今まで一撃で倒してきたから忘れてた!
完全に不意を突かれ、動きが鈍る。
くそっ、すぐそこにひのきんがいるってのに……!
「アルバート、迷わず走れ!」
すぐ後ろから、リタの声がした。
迷わず走れったって、前は火球が……いや、そうだな。信用するしかねえか。
リタは信用に足るヤツだ。……でも死んだら恨む!
「ちっくしょおおお!」
回避行動を諦め、全速で前へと進む。
そして火球に身体が触れる――というところで、背後からリタの剣が振るわれた。
それは俺の身体を貫き、火球を霧散させる。
だが、不思議と貫かれた俺にダメージは無い。
「任意の物だけを斬る刀だ。心配するな、お前はオレが守ってやる」
背後からそんな頼もしい声が聞こえた。
俺の意思とは無関係に、口の端が上がってしまう。
「まるで白馬の王子様だな。愛してるぜリタ!」
「おいおい、オレは女だぜ? 姫様にしろ姫様に」
そんな軽口を飛ばしあいながら、リタが火球を斬ること三度。
ついにドラゴンたちのすぐそばまで到着した。
「ガアアアアアアッッッ!」
「そんな吠えたって、俺は止まらねえよ」
重心を落として、地面を蹴る。
力を伝えにくい柔らかい砂な分、脚力は目一杯だ。
数瞬前までいたところを、ドラゴンの翼が凄い速度で襲った。
「こりゃ、死線ってやつだな。アルバート、ビビってるか?」
「死線くらい何度も超えてきた。今回も同じだ!」
「良く言った!」
その言葉と共に、リタが剣撃を飛ばす。
それを避けるドラゴンたち。
結果、俺とひのきんの間に障害は何一つなくなっていた。
細いルートだが、俺ならイケる……!
地を蹴り、地を蹴り。ドラゴンの翼に掠りながら、前へ進む。
生身一つだ、もちろん喰らえば死ぬ。だが、だからどうした。
「迎えに来たぞ、ひのきん……っ!」
そして、ついに俺は白い袋の元まで辿り着いた。
急いでひのきんを袋の外へと救出する。
「アルっ! 無茶を、無茶をしおって……!」
「遅くなって悪かったな、もう大丈夫だぞ」
胸にバッと飛び込んで来たひのきんにニッと笑いかける。
「グラアアアアアアッ!」
「アルバート、後ろだ!」
「わかってるよリタ」
リタの鋭い声が届くころには、すでにデザートドラゴンはこと切れていた。
振り向きざまにひのきのぼうを振るった。ただそれだけだ。
「折角再会できたってのに、おちおち会話もしてられないのか」
仕方ない、まず先にデザートドラゴンを処理してからだな。
リタも一匹倒してくれたみたいだから、残っているのは四匹か。
……一撃でいけるな。
「はぁっ!」
横なぎに棒を振るう。それで全てが終わった。
四匹のドラゴンの上半身が、同時に砂漠へと崩れ落ちる。
「グラアアア……!?」
そんな戸惑った声を最後に、ドラゴンたちは息を引き取った。
ふう、やっとこれで一息つける。
「遅くなってごめんな、ひのきん」
開口一番、ひのきんに謝る。
さぞ怖い思いをさせてしまっただろうと思うと、謝る事しかできない。
「よく来てくれたのぅ、妾は嬉しいのじゃ」
そんな俺へのひのきんの返しは、予想以上に冷静なものだった。
なんでもなさそうにニコリと笑ってこちらを見つめてくる。
「……あれ? 怒ってないのか?」
「む、何を怒ることがある? 盗まれたのには妾も半分責任があるしの。なにせ、熟睡しておって全く気付けなかったのじゃから。起きてからこやつらの会話で何が起きたか知ったくらいじゃ」
「まさか盗みにくるとは、妾ほどの武器になると人気があって辛いのぅ」と茶化す様に言う。
「そういうわけで、謝らんでもいいぞい」
「でも、怖い思いしただろ? それについては謝らないと」
「カカカっ。アル、お主は面白いことを言うな」
ひのきんはチラリと地に伏したドラゴンたちの亡骸を見る。
「かような野盗やドラゴンどもを、妾が怖がると? 妾は聖棒であるひのきのぼうの人格じゃぞ? このようなことはちょっとしたイベント程度にしか思わぬのじゃ。まあ少々刺激的なアトラクションといったところじゃな」
そういうものなのだろうか。
……いや、そんなわけがないよな。
だって、もしひのきんが言ってることが本心なのだとしたら、そんなに肩を震わせてるのはおかしいじゃないか。
「そっか。……よしよし」
ひのきんの頭を撫でる。
優しく、ゆっくりと。傷ついた心を労わるように。
「や、やめろアル。子ども扱いを、するで、ない……うぅ……ぐすっ!」
声が瞬く間に涙声に変わる。ぽろぽろと涙が目から零れる。
つうぅと頬を伝った涙は、砂漠に小さな跡をつけた。
それを契機に、ひのきんの感情が溢れだす。
「うぇぇ、怖かったのじゃ! ドラゴンが、襲ってきて! 食われるかと思うて、わらわ、わらわぁぁ……!」
「うん、ごめんな。無事でいてくれてありがとう」
「助けに来てくれて、ありがとうなのじゃあ……っ!」
感極まって抱き着いてきたひのきんを受け止める。
背中に手を回すと、小刻みに震えているのが一層わかった。
「アルぅ、アルぅ……ひっく!」
「はい、俺ですよ。ここにいますよー」
「子供、扱い、するでないわ……ずびっ!」
「あ、なんかそれ言われるの凄い久しぶりな感じがする。ちょっと前に言われたばっかりなのにな」
ぽんぽんと背中を叩きながら、俺は砂漠の真ん中で、ひのきんが泣き止むのを待つのだった。




