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17話 追跡2

『竜喰らい』の指し示す方向に走り始めてから数十分。

 反応を追いながらの道中、俺は武器狩と会話をしながら進んでいた。


 会話をしてもしなくても進む速度は変わらない。

 ならば喋っていた方が、ひのきんを追わなければいけないという焦りから少しでも解放される。


 焦りというのは戦いにおいてあまりいい方には転ばないことが多い。

 盗んだ相手と戦闘になる可能性が高い以上、焦りは禁物だ。

 武器狩との会話は、俺の感じる焦りにとってのいい逃げ道になってくれていた。


「ああ、そういやぁさ」


 俺は武器狩に話を振る、


「なんだ?」

「アルバートだ」

「は?」

「俺の名前。アルバートっていうんだ」


 そういえばずっと名前も教えていなかったことに、ふと気づいた。

 さすがにこれだけ協力してもらっているのに名前を教えないのは失礼だっただろう。

 もし怒るようなら謝らねば、と、武器狩の顔に注目する。


「……アルバートか。わかった」


 特に怒っている様子は見てとれないな。

 問題はなさそうだ。


「そういや武器狩、お前の名前は?」

「……」


 武器狩は口を真一文字に結んだまま開かない。

 もしかして、むしろこっちが聞いてはいけない質問だっただろうか。


「あ、答えたくないなら別にいいぞ」

「……リタ」


 やや間をおいて、武器狩はぶっきらぼうに答えた。


「リタか、良い名前だな。よし、頼むぞリタ! ひのきんを見つけてくれ!」

「……っ。……ああ、わかった」


 武器狩改めリタは、俺からぷいっと顔を逸らしながら答える。

 そんなリタを、俺は凝視した。


「……」

「……なんだ、アルバート」

「……ひょっとして、名前で呼ばれるの恥ずかしい?」


 ビクン、とリタの肩が震えた。

 そしてくるりとこちらを向く。


「は、はぁっ!? そんなわけあるか、ば、馬鹿っ、馬鹿っ! ただ、ちょっと呼ばれ慣れてないから、び、ビックリしただけだ!」


 そこまで必死になられると、むしろ逆に確証が増すよね。

 こんなに捲し立てるの初めて見たし。


 リタは頬を赤く染めながら、俺と距離を詰めてくる。

 本人的にはメンチを切っているつもりのようだが、いかんせん顔が真っ赤なせいで迫力も何もあったものではない。


「わ、わかったのかよアルバート!」

「……まあ、一応そういうことにしとくか」

「おい、なんだその反応! 本当だからな! 本当だからな!」


 ……コイツ、嘘隠すの下手だな。




「なあ、一つ聞いていいか?」


 顔の赤みもすっかり引っ込んだリタが言う。

 嫌がる理由もなく、俺はコクリと頷いた。


「あの武器とはどこであったんだ? オレも結構色々各地を回ってきたが、人に変わる武器なんざ見たのは初めてなんだ。よければ教えてくれないか?」

「ひのきんと出会ったのはハジマって名前の街から少し離れた洞窟だよ。元は泉があったんだけど、そこの水が引いてそこにひのきのぼうが刺さってたんだ。で、誰にも抜けないって話だったんだけど、俺が掴んだら簡単に抜けた」

「ふぅん、ハジマの街か。……まだ行ったことないな」

「良いとこだぞ。特に人がな」


 観光名所的な場所はほとんどないけど、良いところだ。

 故郷だからって贔屓目もあるかもしれないけどな。

 協力してもらっていることでリタのことを信用し始めた俺は、自分の過去についても自然と口を滑らせる。


「……実は俺、五年前に突然武器全般が持てなくなったんだ。持つと手が震えちゃってさ。でもひのきんだけは何故か大丈夫なんだ。だから、俺は絶対にひのきんを手放したくない」

「へえ、あの武器だけは使えるのか。不思議な話だな」

「俺もそう思うよ。理由にもとんと見当がつかないし」

「……ひょっとして、お前がロリコンだからじゃないよな?」

「は、はぁ!? 誰がロリコンだ誰が!」


 ふざけたこと言わないでくれ! べ、別に俺とひのきんはそういうのじゃないから!

 たまにドキドキするけど、でもそういうのじゃないから! そもそもひのきん年上だし!

 というかロリコンだけが使える武器ってなんだよ、そんな武器俺使いたくねえよ!


「……くふっ」

「リタ?」


 耳に笑い声が届き、俺は横のリタを見る。


「ふふっ……くふふ……ははははは! そ、そんなに焦んなよな、ふふっ!」


 リタは堪えきれないという様子で、お腹を抱えて笑っていた。

 笑われるほど焦っていたらしいと気付き、俺はなんだか居心地が悪くなる。


「悪い悪い、拗ねるなって」

「拗ねてないし!」


 くっそー、馬鹿にしやがって!


「……ふふっ。ああ、こんなに笑ったのは久々だな」


 リタは笑いをおさめかけては、また思い出したように笑い始める。

 その表情はまるで普通の少女のようで、そんな彼女を見ているうちに頭の中に一つの疑問が浮かんできた。


「……なあ。今度は俺からも一つ聞いていいか?」

「ん? ああ、オレが答えられる質問ならいくらでも」

「リタはなんで武器狩なんかしてたんだ? まだ少し関わっただけだが、お前は俺が思ってたよりまともな感じがするんだが」


 まともな感じがするからこそ、あんなことをしている理由がわからない。


「いいだろう、別に隠していることでもない。教えてやるよ」


 そう言ってリタは理由を語る。


「オレは女だからさ。単純な力勝負じゃ勝てないから、どうしても舐められんだよ。だけど負けたら武器を取られるってなったらふざけた戦いはしねえだろ? あるいは勝ったらオレが何でも言うことを聞くっていう方で本気を出してるヤツもいたかもしれねえが……まあ理由なんざどうだっていい。オレはとにかく本気の相手と戦いてえんだ。それだけだよ」


 特に表情を変えずにリタは言った。俺は考え込む。

 きっと男の俺にはその全てを理解することはできないんだろうな。

 ただ偶然にも、望み通りの相手がいる場所なら知っている。


「なら、師範の道場に向いてるかもな」

「あん?」

「さっき言ったハジマの街に俺が昔通ってた道場があるんだけどな? そこのヤツらはみんな剣に馬鹿正直だから、お前が女だからって手加減なんざしないと思うぜ?」


 かくいう俺もそうだからな。

 そりゃ状況に応じて手加減することはあるけど、性別を理由にすることはまずない。


「……ふぅん?」


 リタは興味ありげに語尾を上げ、少し考えるそぶりを見せた。

 それから何と返してくるのか少し楽しみだったのだが、その答えは聞けずじまいとなる。


「……おっと、無駄話は終わりみたいだぜ」


 刀身が禍々しく赤く色づいた『竜喰らい』に目を落とし、リタがそう呟いたからだ。

 それを合図に、俺は完全に頭をひのきんのことに切り替えた。

 今はひのきんのことが何よりも優先だ。


 目の前は砂漠で出来た小高い丘のようになっていて、遠くまで見ることはできない。

 反応の強さから言って、ここを上りきればひのきんが見えてくるはずだ。

 そして俺とリタは、小高い砂丘を登りきった。


「グルルララァァッ!」


 そこに見えたのは緑の巨体。

 数頭のデザートドラゴンが、一か所に集まっている姿だった。


「ドラゴン……? まさか、竜喰らいがデザートドラゴンに反応したのか!? ……アルバート、すまない」


 半ば呆然と自失したように口から言葉を零れさせるリタ。

 だけど、ちょっと待ってくれ。


 ドラゴンは四、五……六匹。

 なんで六匹ものデザートドラゴンが、一か所に集まっているんだ……?

 ……食糧を得るため、なんじゃないのか?


「良く見ろリタ、ドラゴンの足元だ!」


 ドラゴンに囲まれた隙間。

 そこから、地竜の肌が僅かに覗いていた。


「あれは……地竜車!」

「ああ、しかも中には白い荷物も見える! あれが多分ひのきんだ!」


 一瞬だけだが確かに見えた。丁度ひのきんほどの大きさの白い荷物。

 ついに、ついに追いついたぞ……!


 屋根が無くなった地竜車では、男がブンブンと夢中になって剣を振り回している。

 だが腕はお粗末というしかない。


 と、そんなことを思っている間に、剣を振っていた男の頭がドラゴンにぱくりとついばまれた。

 無事な人間は男で最後だったようで、地竜車側の動きが止まる。


 そんな地竜車を、興味深げに眺めるドラゴンたち。

 この分だと、急がないとひのきんもドラゴンに丸呑みにされてしまうかもしれない。


「急ぐぞ、リタ!」

「ああ、わかってる!」


 俺とリタはドラゴンたちの方へと走り出す。

 やっとひのきんをみつけたんだ! 絶対に助け出してやるからな!

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