15話 情報集め
刀狩を協力者に加え、ひのきん探しを再開する。
「とりあえず片っ端から行くしかねえか!」
時間がない。とにかく一秒でも早くひのきんを迎えにいかなければ。
そう焦る俺の腕を、刀狩が掴む。
「待て、手当たり次第に探すな馬鹿! まず捜索場所を絞んねえと話にならねえだろ、この街全部二人で探すつもりかお前は?」
「だけど、手掛かりもねえだろ。時間はかかるが総当たりするしか……」
「落ち着けっつってんだ」
刀狩が背中を思い切りたたいてくる。
不意に食らった力強い一撃に俺は咳き込む。
戦闘であれば三度殺せるくらいの隙が出来てしまったが、刀狩は殺気を向けてくることはなかった。
「ゴホゴホッ!」
「いいか? 落ち着いて――」
「ガッ、ゴホッ、ゴホッ!」
「……おい、大丈夫かよ」
「……刀狩。力強いんだよ、お前……ゴホッ」
「す、すまん」
さてはコイツ、他人とあんま関わったことないな?
落ち着かせるための力の入れ具合じゃねえぞ今のは。
一般人だったら即気絶してるくらいの一撃叩きこんできやがって。
……だが、おかげで頭に血が上っていた状態から話を聞けるくらいには回復した。
それがわかったのか、刀狩は俺の咳が落ち着いたところを見計らって話し出す。
「いいか? まず聞きたいんだが、あの武器は棒と人間の姿のどっちで盗まれたんだ?」
「多分人間のまま連れ去られたんだと思う。基本的に戦闘中以外は人型だから」
「なら、大方荷物か何かに偽装して連れ去ったんだろう。それなら少なからず目立つはずだ。昨日の深夜から今日の朝方にかけて、不審な荷物を持っていた人間の目撃条件を探る」
「おお……」
「オレは裏通りを探す。この街に留まっているとしたら裏通りにいるはずだからな。お前はこの辺を探せ。目撃者がいる可能性が一番高いのは、一番犯行現場に近いここだ。理解できたか?」
「ああ、助かる。ありがとな武器狩」
刀狩の説明は平常とは程遠い状態の俺の脳でも理解できるくらいのものだった。
いや、理解できるように噛み砕いて説明してくれたのかもしれない。
目の前のカシュクール姿の女に感謝する。
「もういいか? いいならオレは裏通りに向かうぞ。オレ以外のやつにあの武器を捕らわれるのは癪に障るからな、絶対にしっぽ掴んでとっちめてやる」
「何かわかった時の合図はどうする? 決めとかないとマズいんじゃないか?」
「おお、たしかにそうだ。うっかりしてたな。これを持ってけ」
武器狩が背中から小さな四角いものを投げてくる。
受け取ると、それは何かの道具のようなものだ。
白くて四角く、上部に一つボタンが付いている。
「上についているボタンを押せば、この街中くらいの距離であれば数分会話ができる。そこで情報を共有しよう」
「ああ、オッケーだ」
そんな魔道具があるのか、と驚いている間に刀狩は走って小さな路地へと姿をくらました。
一人になった俺は周囲に聞き込み始める。
砂漠の熱気が体力を奪う。
ジリジリと灼けるような高温が身体の水分を奪っていく。
もし鍛えていなかったらこんなに走り回ることはできなかっただろう。
滴る汗を拭くこともせず、ひのきんを探し続ける。
しかし、中々目撃証言は得られない。
再び焦りが生まれるが、焦っても何も良いことはないと自分を諫める。
いくら焦っても、今の俺に出来ることは聞き込みだけなんだ。
なら焦るよりもどうしたらもっと早く聞き込めるかを考えるべきだ。
「不審な荷物を持った人間を見てないか? あるいは可愛い黒髪の女の子でもいい」
もう五十数回目の質問だ。
少しでも所要時間を短縮するために質問を削ぎ落し削ぎ落し、最終的にはこれに落ち着いた。
ぶっきらぼうだし物を尋ねる態度ではないのが申し訳ないが、伝わらないことはない。
この五十数回、帰ってくる答えもいつも同じ。
だがだからと言って、尋ねない訳にはいかない。
目の前のひげを蓄えた中年は少し目線を上空へやると、自慢の髭を伸ばしながら答えた。
「ああ、そういや俺さっき見たぞ、変な荷物持ってるやつら」
初めて得た、ひのきんへの手掛かりだった。
ようやく掴んだ情報に、俺の鼓動が高鳴る。
「本当か!? どこでだ!」
「俺ぁ今さっき西にある街からアーサンドに帰ってきたところなんだよ。そん時すれ違った地竜車に白い麻の袋に入った荷物乗っけてるヤツがいたんだがな? その荷物がなんか、動いてる気がしたんだよな」
「ありがとう、恩に着る!」
男に渡せるだけの謝礼を渡す。
「こ、こんなに……?」と言う男を無視し、俺は駆けだした。
向かう先はもちろんアーサンドの門の方だ。
走りながら、武器狩から借りた魔道具の上についているボタンを押す。
「刀狩、聞こえるか?」
「ああ、どうした。見つかったのか?」
「手掛かりを得た。犯人は地竜車に乗って西に向かっているらしい。今すぐ門のところに来てくれ」
「わかった、すぐ行く!」
会話を終え、魔道具をしまう。そして門へと全速力で走る。
アーサンドから遠くへ行かれたら、いよいよ追跡は無理になる。
ここが最後のチャンスだ、絶対に捉える!




