12話 戦いの条件
「こっちも本気でいくぜ」
俺はその場で棒を振りかぶる。
そして、振り下ろした。
「? そんなことをして何に――なっ!?」
ひのきのぼうから放たれた衝撃波が武器狩へと飛ぶ。
それを二本の刀で防いだ武器狩。
あれを防ぐ辺り、やはり実力は確かなようだ。
それに、持っている刀もかなりの業物。
俺の予感は外れていなかった。やはりコイツは強い。
「驚いたぞ、まさかオレと同じような芸当が出来るとはな」
俺の一撃を耐えた武器狩りは白と黒、二本の刀を胸の前で交差させる。
そしてそれを同時に横に薙いだ。
二つの斬撃が一つになり、その衝撃波が俺の元へと向かい来る。
こっちこそ驚きだ。お前も衝撃波出せるのかよ。
「はぁぁぁぁッ!」
ひのきのぼうを振り、それを打ち消す。
大丈夫、衝撃波の威力は俺の方がだいぶ上だ。このまま順当にいけば負けない。
武器狩、お前は強いよ。だけどそれでも俺とひのきのぼうの組み合わせには敵わない。
「おらぁッ!」
「ぐっ……!?」
立ち合いは誰が見ても俺が有利に進んでいた。
この分だと、あと数分もあれば俺が勝つ――だというのに、武器狩はむしろ嬉しそうに笑い始める。
なんだ? どっかおかしくなったのか?
打ち合いながら眉を顰める。
「ハハハ、その棒は凄いな! オレが今まで見てきた武器の中でもピカイチだ! お前が勝負を受けてくれて助かったぞ!」
「言っとくけど俺は無理やり挑まれたから応戦してるだけだからな。本当ならこんな戦い今すぐにでもやめたいんだ」
そりゃお前は勝ったらひのきのぼうが貰えるんだからやる気も出るだろうけど、こっちとしちゃ本当にいい迷惑だ。
と、そんな返答を聞いた武器狩の攻勢が弱まる。
どうしたんだ? もしかして観念したのか?
いや、このタイミングでそれはないか……。
「おっと、悪い悪い。オレとしたことが、その武器を見たあまりの興奮で前もって言うのを忘れていた」
武器狩は武器を一本籠の中に投げ入れ、空いた左手でこちらを制止させる。
話を聞けと言いたいのだろう。
「こちらから提示する戦いの条件はこうだ。オレが勝ったらその棒はオレのものになる。その代わり、お前が勝ったらオレはお前の言うことを何でも聞く。どうだ、戦う気になったか?」
「いや、ならねえよ」
「よし、オッケーだな? じゃあ早速再開する……ぞ?」
再び両手に刀を持った武器狩りだったが、俺の答えを聞くとギギギ、とオイルの切れた機械のようにぎこちなく動きを止めた。
そしてゆっくり首を傾げる。
「……んん? 今なんて言った?」
「だから、嫌だって。条件が釣り合ってねえよ」
「な、なに……!?」
そんなに驚くことか?
俺は最初から言ってるだろ。ひのきのぼうを渡したくないんだって。
交換条件がどんなものだったって基本それは揺らがねえよ。
やっと伝わったのか……って、すげえ動揺してんじゃん。
「つ、つまり、お前はオレと戦いたくないってことか?」
「だからそう言ってるだろ」
「ど、どうしたら戦ってくれるんだ?」
「なんでそんなに狼狽えてるんだ?」
「決まってるだろ、そんなすごい武器絶対欲しいだろうが。でもお前が勝負受けてくんねえと武器貰えねえだろ!」
……あ、なに? こっちの意志は汲み取ってくれる感じ?
俺が戦いたくないって言えば戦わないでいてくれるのか。
なんだよ、ならもっと早く言ってくれよ。
そしたらもっと断固として戦闘を拒否したのに。
ちょっと気が抜けたな……と思って武器狩の方を見れば、何やらぶつぶつと考え事をしているようだ。
顎に手を当てて、真剣そうな表情で考えこんでいる。
「一体なんでだ……? 今までに勝負を持ち掛けた相手は皆進んで戦ってくれたのに……」
あー……そりゃ条件が条件だもんなぁ。
勝ったらこんな美人が何でも言うこと聞いてくれるってんなら、大抵の男は挑みたくなるよなぁ……。
なんで誰も声高に被害を訴えないのか、その理由がわかった気がするよ。男ってほんとばか。
ただ、俺はひのきんを失う訳にはいかないからな。その条件でも受けないぞ。
「あっ」
とそこで、長らく足元の砂漠を見ながら悩みこんでいた武器狩がバッと顔を上げた。
何か案を思いついたらしい。
そこそこ自信のありそうな顔で指を三本おったてる。
「よしわかった、条件を変えよう。お前が勝ったら何でも言うことを聞くってのを取りやめて、代わりにプリン三個。これでどうだ?」
「舐めてんのかお前」
ふざけてるよな? ふざけてるで良いんだよな?
……まさかとは思うが、それで条件を上げたつもりなのか?
だとしたら自己評価低すぎだろ。
「武器狩、お前はもっと自分に自信を持った方がいいと思うぞ」
「アルが敵を口説き始めたのじゃ……」
いや、口説いてないから!
変なこと言うなよひのきん!
その後もう一度丁寧に、どんな条件でも戦闘を受け入れない意思を伝えると、武器狩はようやく納得してくれた。
武器狩は俺の手の中のひのきのぼうを最後に名残惜しそうに見つめると、そこから目線を切った。
「……仕方ない。口惜しいが、持ち主が勝負に同意しない以上は無理強いも出来ないからな。貴様の意思を問わぬまま突然に勝負を仕掛けて悪かった。また日を改めて、この失態の詫びにうかがわせてもらう」
「あ、おいっ!」
それだけ言って、武器狩は走ってアーサンドの方へと消えていく。
その足は地竜車よりも早く、俺よりも早い。
距離のついた今からではとても追いつけそうにはなかった。
「なんだったんだあれ……嵐のようなヤツだったな」
「変なヤツじゃったのう」
ひのきんが人の姿に戻ってつぶやく。
「まあでも、戦い自体は引き分けってところかのぅ。アルの優勢じゃったが、万が一はまだあり得たしの」
それには俺も同感だった。
勝敗は決するまではわからない。
完全に勝ち負けが付かなかった以上、さっきの勝負は引き分けだ。
「でもまあ、ひのきのぼうだけはなんとか守れてよかったよ。これが奪われるとひのきんとも一緒にいられなくなっちゃうからな」
「うむうむ、妾を大切にしてくれるのは嬉しいぞ。そのままの優しいアルでいてくりゃれ」
そんなひのきんの言葉に軽く笑いながら、地竜に跨る。
ひのきんは俺の股の間にひょこんと体を収めた。
視界の下の方にサラサラな黒髪の頭が映る。
「やっぱ世界にはまだまだ強いヤツがいるんだな」
「じゃのお」
まあそれはそれで良いことだ。
上がいるってことは、もっと強くなれるってことだからな。
ただ、武器狩について気になることはないでもない。
結局アイツはあれで諦めてくれたのだろうか。
本当に反省してくれてるのか、それとももう一回襲いに来るのか……。
「……考えてもわかんねえな。帰ろ」
「何を考えておるかしらんが、アルが考えても無駄じゃろうなぁ。アル、あんまり頭良くないし」
「むっかー! なんだとひのきん! 晩飯抜き!」
「うわあああ嘘嘘嘘! アルはめちゃくちゃ頭いいのじゃ! よっ、天才!」
「うむうむ、わかればよろしいのだよ、わかればね」
戦いを終えた俺たちは、そんな会話をしながらアーサンドへと帰った。




