11話 武器狩
「オレは武器狩。――お前が手に持つその武器を、いただきに来た」
女はニィと笑う。
「武器狩……街長が言ってたヤツか」
「まさか遭遇するとは、アルは運があるのかないのかわからんのぅ」
ひのきんの暢気な言葉にも、どこか緊張感のようなものが感じられる。
目の前の女の強さがひのきんにも感じ取れたようだ。
だが、元々剣士である俺はひのきんよりももっと鮮明に、武器狩の強さを感じ取っていた。
道場内の仲間たちよりも強い。
ジャスよりも……多分、強い。
コイツはかなりの強敵だ。
「お前たちの様子は観察させてもらっていた。強者の気配がしたんでな。驚いたぞ、まさか人間が武器に姿を変えるとは」
じりじりと下がって距離をとる俺から目線を外さぬまま、武器狩は背中から得物を抜く。
抜いた剣はこれまで見たことがない種類のものだったが、おそらくそこらにある剣ではないのだろう、ということはわかった。
……それにしても、見られていたのか。
いつの間に……それなりに周囲は警戒していたが、まったく気づけなかった。
随分と身を隠すのが上手いな。
「そんな素晴らしい武器を見たのは初めてだ。だからオレがお前に勝ったらその棒をオレにくれ」
もちろん俺はひのきのぼうをコイツに渡す気はない。
ひのきんを見ると、ひのきんも俺と同じ気持ちでいてくれているようで、大きな声で拒絶の意思を伝えていた。
「ふん、妾はお主になんぞ使われとうないわい! だってお主可愛いんじゃもん! 妾と同じくらい可愛いってことは、つまり妾の敵じゃ!」
理由がひでえ。
出来ればもうちょっと俺にも共感できる理由を叫んでほしかったな……。
「お主なんかこうじゃ! ぺっぺっ!」
俺の手の中の棒が勝手に動き、武器狩に向かって唾を吐きかける。
ひのきんって棒の状態でも唾吐けるんだな。初めて知った……って。
「……そこまでの自由意思を持っているとは……っ!」
なんで恍惚としてんだ?
目尻を下げて頬を染め、武器狩は俺の棒を見る。
武器狩は口は悪いが見た目は中性的な美少女だ。
そんな女性が頬を染めているこの状況、おそらく平時ならドキリとしていただろう。
しかし、今は戦うために向かい合っている状況。
その状況で頬を染められると、逆に引く。
「やべえ、唾吐きかけられて余計喜んでやがる。あいつ、Mだ……!」
「だ、誰がMだ! ふざけるな! 殺すっ!」
今度は恥ずかしさで頬を染め、武器狩は叫ぶ。
こ、怖え……。
「なんじゃ、意外と愛いヤツじゃの。第一印象よりはずっと好感が持てるのじゃ。妾、そういう女子は好きじゃぞ?」
なぜかふむふむと頷くひのきん。
お前の好き嫌いの基準が俺にはわからん。
「おいひのきん、まさか俺からアイツに鞍替えするとか言い出さないよな?」
「ふん、そりゃ愚問じゃのう。妾とお主は『相棒』なんじゃろ? ……棒だけに」
「そ、それは言わない約束だろうが!」
俺の黒歴史だから! 言わないで、お願い!
「……オレを前にそこまでへらへら出来るとは、大した自信だな。もしくは馬鹿という可能性もあるが」
「おいおい、誰が馬鹿だよ。どうみたって俺は理知的だろうが」
「アル、それはないのじゃ」
「相棒とやらにも否定されているようだが」
「ぐぅ……っ」
言葉に詰まり、口を閉じる。
駄目だ、口では勝てない……! 武器狩のヤツ、口喧嘩が強い……!
「……ふん、まあいい。さっさとやるぞ」
武器狩が剣を構える。
向かい合う俺たちの距離はおよそ五メートル。
武器狩はここまで近づいてから接近を止めている。
おそらくこの五メートルという距離が、武器狩にとって「もし不意を突かれても対応できる距離」ということなのだろう。
なんとか戦闘は避けたかったが……この分だともう避けるのは難しそうだ。
――ならしょうがない、やるしかないな。
武器狩の喉元に、ひのきのぼうを差し向ける。
「やるってんなら容赦はしない。生憎ひのきんは俺の『相棒』なんでね」
「わああっ、でたのじゃ! アルの相棒宣言がっ!」
「ひのきん、今カッコつけてるから茶化さないで」
「おお、すまんすまんなのじゃ」
ここからは真剣勝負。
自分の心を動揺させたくない。
「ようやくやる気になってくれたか。ならば早速始めよう」
武器狩はそう言うと、左手に持っていた剣に右手を添えた。
それが始まりの合図だった。
コンマ一秒後、剣と棒がぶつかり合う。
武器を挟んで目と鼻の先に、一瞬前まで間合い外にいた武器狩がいた。
目にもとまらぬ武器狩の速攻の打ち付け。俺はそれを見切り、防いだのだ。
「ほう、これを止めるか! だが……」
ニィ、と笑う武器狩。
と同時に、俺の手首に衝撃が走る。
な、なんだこれ……!?
この剣、さては普通じゃねえな……?
「この剣は『衝撃剣』。打ち合ったが最後、強烈な衝撃に相手は武器を手放――」
「おらあッ!」
だが、だからどうした。
研鑽を積んできた俺にとっちゃ、このくらいの震えなんて屁でもないんだよ!
握力の無くなった手で無理やり棒を振る。
「っ!?」
武器狩は完全に虚を突かれた表情を浮かべたが、手の痺れでいつも通りの振りぬき速度には及ばないせいで、すんでのところで避けられてしまった。
互いに距離を取り合った俺と武器狩。
握力は早くも戻ってきている。
どうやら『衝撃剣』とやらの効果はもって数秒のようだ。
厄介な剣だが、防御をしなければいいだけの話。
道場では「受け」だけでなく「避け」も教わった。
俺が天才と呼ばれたのは、全ての技術を完璧にこなせたからだ。
――もう二度と、俺に衝撃剣は通用しない。
目の前の武器狩は、先ほどの俺の攻撃が掠ったようで、頬から薄く血を流していた。
口当ても切れて外れ、口元が空気に触れている。
瞳や髪と同じく、鮮やかな紅色の唇。それが、俺を称えるように動く。
「『衝撃剣』を耐えたヤツは初めてだ。あれは最高の初見殺しなんだがな」
「ひのきのぼうを手放すわけにはいかないんでね。なんせ、俺にとって唯一扱える武器だ」
「お前……中々度胸がある男だな」
「惚れるなよ」
「ふん、馬鹿を言え。殺すぞ」
武器狩は鼻で笑い、剣を宙に投げる。
「その度胸に免じて、オレの本気を見せてやろう」
宙を舞った剣は武器狩の背負った籠に入り、その衝撃で二本の刀が籠から飛び出る。
白と黒の、対照的な色をした刀。それを素早く掴み、二刀流となった武器狩はその両方の切っ先を俺の喉元へと向けた。
その動作には無駄がなく、隙を突いて攻撃を加えようとしていた俺に邪魔をするのを許さない。
「ああ、そうか。なら、こっちも本気でいくぜ」
俺はその場で棒を振りかぶる。
そして、振り下ろした。




