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元気になる店?

作者: ようじ

ここはとあるマンション。

ある男性が住んでいる。

その部屋のドアをノックするのは、

その男性の職場の先輩だった。


コンコン。コンコン。


男性 「は~い!」


男性はドアを開けた。


ガチャ。


男性 「あ、先輩。どうしたんですか?」

先輩 「おう、田中。元気か?」

男性 「元気なわけないですよ。先週、嫁が逃げてしまいまして…。」

先輩 「そうらしいな。実は、今日はそれを聞きつけて、

    訪ねてきたんだよ。でも、お前、せっかく

    嫁さんに逃げられたのに、どうして元気がないんだ?」

男性 「いや、だから、嫁に逃げられたから、

    元気がないんですよ。

    “せっかく”って、おかしくないですか!?」

先輩 「悪い、悪い。でも、そもそも、

    嫁さんが逃げた原因って何なんだ?」

男性 「それが分からないんですよ。僕、家事も一切、手伝わなかったし、

    給料をもらってもすぐに競馬場に行って、

    半分くらい使ってましたし、嫁が作るメシが不味いからって

    しょっちゅう怒鳴ったりしてたのに、

    どうして逃げたんですかね?」

先輩 「誰でも逃げるよ! お前、悪い奴だな。」

男性 「いや、冗談ですよ。本当に理由が分からないんです。

    ある日、会社か帰ったら、置き手紙があって、

    “もう別れましょう”って書いてあって、

    それっきりですからね。携帯も繋がらないし、

    嫁の実家に連絡しても、帰ってなかったですし…。」

先輩 「そうなのか…。いや、それでな、

    今日はお前を元気付けようと思って

    わざわざ来たんだよ。さぁ、家にいても仕方ないから、

    飲みに行こうぜ。」

男性 「お気持ちはありがたいんですが、

    まだそんな気分じゃないんですよ…。」

先輩 「そんなこと言わないでさ。

    最近、俺がハマってる、いい店があるんだよ。

    そこでパ~っと飲もうぜ。」

男性 「ハマってる店? キャバクラとか、

    女の子がいるような店ですか?

    ちょっと今日は遠慮しておきます。」

先輩 「いいから、いいから。さ、行くぞ!」

男性 「ちょ、ちょっと! 引っ張らないでくださいよ!」


先輩は、男性を強引に引っ張って、外に連れ出した。

二人はその店の前に着いた。


先輩 「さぁ、ここだ。」

男性 「え? ここですか? 

    普通の居酒屋じゃないですか?」

先輩 「それが違うんだ。看板を見てみろよ。」

男性 え? 看板?」


男性は頭上の看板を見上げた。


男性 「え~っと、元気げんきになる店?」

先輩 「うん。まぁ、そうだな。」

男性 「え? もしかして、スッポンとか

    マムシとかを食べさせる店ですか?」

先輩 「そんな店じゃないんだよ。とにかく入ろうか。」


二人が店内に入ると。、体操のお兄さん風の店員がいた。


店員① 「いらっしゃいませー! 

     良い子のみんな~! 何人かな~?」

男性  「え!? なに? ふ、二人ですけど…。」

店員① 「ん~? よく聞こえないぞ~! 

     もっと大きな声で!! 

     良い子のみんな~! 何人かな~?」

先輩  「二人!!」

店員① 「元気があって、いいね~っ!

     じゃあ、ここの椅子に座ってね~。」

男性  「先輩、この人、何か変なんですけど…。」

先輩  「この人は元体操のお兄さんだよ。

     辞めた後、今はこの店で働いてるんだ。」

男性  「そうですか。どうりで…。」

店員① 「さぁ、良い子の二人~! 

     飲み物はどうするのかな~?」

先輩  「あ、俺は生ビールの中で。」

男性  「ぼ、僕は生ビールの小で…。」

店員① 「あれ~っ! 小なの~? 

     そんなのじゃ、楽しく酔っぱらえないぞ~!

     生の大にしようよ~!」

男性  「い、いや、そんなに飲めないので…。」

店員① 「コラ~っ! お兄さんはそんな子は嫌いです!

     怒っちゃうぞ~! プンプン!」

男性  「…じゃ、じゃあ、生の大にします…。」

店員① 「よし、いい子だね~! 

     お兄さんがなでなでしてあげるよ~!」

男性  「い、いや、いいです。」

先輩  「どうだ? 面白いだろ、この店?」

男性  「まぁ、面白くなくはないですけど…。」

店員① 「は~い! 生の大と中だよ~!」

先輩  「どうも。じゃあ、元気出せよ。カンパ~イ!」

男性  「ありがとうございます。」

店員② 「押忍!! 付き出しをお持ちしました!! 押忍!!」

男性  「うわっ! びっくりした!」

店員② 「押忍!! 付き出しの! 枝豆です!! 押忍!!」

男性  「はいはい。」

店員② 「押忍!! 枝豆には!! こちらの岩塩を振って!!

     お召し上がりください!! 押忍!!」

男性  「わ、分かりました。

     この岩塩を振って食べたらいいんですね?」

店員② 「押忍!! フレ~っ! フレ~っ! が!ん!え!ん! 

     フレ! フレ! 岩塩! 

     フレ! フレ! 岩塩! 押忍!!」

男性  「うるさいな! 分かりましたよ!」

先輩、 「今の人は何なんですかね?」

先輩  「元応援団の団長だよ。団長を辞めて、

     今はこの店で働いてるんだよ。」

男性  「元応援団の団長? 

     さっきは元体操のお兄さんだったし、

     この店にはそんな変な人しかいないんですか?」

先輩  「そうだよ。この店は色んな“元”が

     働いている店なんだよ。」

男性  「色んな“元”が働いている店!?

     どういことですか?」

先輩  「そう。さっきお前、この店の名前を

     “げんきになる店”って読んだだろ?」

男性  「はい。違うんですか?」

先輩  「ここの店名は

     “元・気になる店”(もと・きになるみせ)」なんだよ。」

男性  「え!? “もと・きになるみせ”ですか?」

先輩  「そう。色々な「元」が働いているから、

     それが気になって仕方ない店なんだ。」

男性  「なるほどな~。色んな店がありますね。」

先輩  「そこのイカつい店員は元ヤクザだよ。

     ただし、あっち側の席が縄張りだから、

     こっちに呼んだら抗争事件になるぞ。」

男性  「同じ店の中で縄張りがあるんですか?」

先輩  「あと、あの着物を着て、扇子を持って、

     馬鹿みたいな顔してるのは元落語家だ。

     気をつけないと、勘定の時に急に時間を聞いてきて、

     一文ごまかされるぞ。」

男性  「それは“時そば”じゃないですか!?

     でも、みんな何かの“元”なんですね。

     ちょっと面白くなってきました。」

先輩  「そりゃよかった。食べ物も頼もうか?」

男性  「じゃあ、あのお姉さんにしましょう。

     あの人は“元・なに”なんですかね?

     気になるなぁ。注文いいですか?」

店員③ 「いらっしゃいませ~。ご注文をどうぞ~。」

男性  「あ、分かった! お姉さん、

     元ファーストフード店の店員でしょ?」

店員③ 「はい! お分かりですか~?」

男性  「分かりますよ。独特のしゃべり方と

     わざとらしい笑顔ですもん。」

店員③ 「そうですか~? では、ご注文をお願いします~。」

男性  「え~っと、じゃあ、肉じゃが。」

店員③ 「かしこまりました。ご一緒にポテトはいかがですか?」

男性  「いや、いいです。肉じゃがを頼んでいるので。

     あとは…、小芋の煮つけ。」

店員③ 「かしこまりました。ご一緒にポテトはいかがですか?」

男性  「いや、いらないですよ。子芋を頼んでますので!」

店員③ 「申し訳ございません。癖になっておりまして…。」

男性  「そうなんですね…。じゃあ、せっかくなので、

     フライドポテトも頼みますよ。」

店員③ 「かしこまりました。ご一緒にポテトはいかがですか?」

男性  「いや、今、頼んだじゃないですか!? 

     癖になり過ぎですよ!! 

     …あと、石焼ビビンバもお願いします。」

店員③ 「かしこまりました。石焼ビビンバですね?

     お持ち帰りですか?」

男性  「違いますよ! あんな熱いものを持ったら、

     大ヤケドしますよ!」 

店員③ 「では店内でお召し上がりですか?」

男性  「そりゃそうでしょ? あまり居酒屋で

     テイクアウトとかしないでしょ?」

店員③ 「かしこまりました。ご注文を繰り返します。

     肉じゃががお一つ、小芋の煮つけがお一つ、

     フライドポテトがお一つ、石焼ビビンバがお一つ、

     すべてハッピーセットでよろしかったでしょうか?」

男性  「違いますよ!!」

店員③ 「おもちゃはこちらからお選びください。」

男性  「いらないです!!」

店員③  「申し訳ございません。癖になっておりまして…。」

男性  「そもそも肉じゃがのハッピーセットって、

     何と何が付くんですか…!?

     いいから、持ってきてください。」

店員③ 「かしこまりました。

先輩  「今の店員もなかなか面白かったな。」

男性  「たしかにこの店は面白いですね。」

先輩  「おっ、肉じゃがが来たぞ。なんか、

     マイクを持って、ヘッドフォンをした

     スーツ姿の男が持ってきたぞ。」

店員④ 「全国三千万人の居酒屋ファンの皆様、こんばんは!

     本日は、殺伐とした都会の砂漠に咲いた一輪の華とも

     例えられます、居酒屋“元・もと・きになる店”に

     ご来店いただき、ありがとうございます。」

男性  「おっ! すごく滑舌がよくて、

     立て板に水みたいな喋り方ですね?」

店員④ 「ありがとうございます。

     私、元スポーツアナウンサーでして。」

男性  「あ、そうなんですね。さすが!」

店員④ 「おっ~と! 料理人が丹精を込めて作り上げました

     肉じゃがを二十世紀が産み出した文明の利器、

     現代の魔法の杖とも呼ばれます“電子レンジ”」を

     用いまして、さながら噴火した桜島から

     フツフツと流れ出た溶岩のように

     温めてまいりました! まさに摂氏百度の芸術品、

     熱々の悪魔が今、居酒屋のテーブルという男の戦場に

     威風堂々のリングインであります!

男性  「なんだかんだ言ってますが、作り置きの肉じゃがを

     チンしたんじゃないですか!? 言わない方がいいのに…。」

店員④ 「お~っと! さらに真打が登場!

     小芋の煮つけであります! 

     小さい芋と書いて小芋ですが、その存在感は、

     さながら巨大戦艦のごとき佇まいであります!

     玉砕覚悟で沖縄に向かう戦艦大和のような

     憂いと哀愁を帯びた表情で、

     今、小芋の煮つけも、肉じゃがに引き続き、

     リングインであります!」

男性  「まぁ、そんなに存在感はないですけど、

     普通に美味しそうですね…。」

店員④ 「小芋は別名サトイモとも申しまして、稲よりも早く、

     縄文時代後期に日本に伝来してきたと言われております。

     まさに、日本植物界の重鎮、でんぷんまみれの世界最高齢

     泉重千代といった風貌であります!」

男性  「なんですか、それ!

     先輩、この店、無茶苦茶面白いですね!」

先輩  「そうだろ? だんだん元気になってきたじゃないか。

     あ、フライドポテトも来たみたいだ。

     サングラスをしたヒゲのおっさんが持ってきてるよ」。

男性  「本当ですね! あれは何の“元”なんでしょうね?

     ワクワクするな~。」

店員⑤ 「フライドポテトをお持ちしました。

     カラっと揚がってて、いいね~!」


パシャパシャ!(カメラで撮影する)


男性  「え!? ど、どうしました?」

店員⑥ 「君、ちょっと持ってみようか?」

男性  「え!? (ポテトを持つ) は、はい。」

店員⑥ 「いいね~!」 


パシャパシャ!(カメラで撮影する)


男性  「もしかして、元カメラマンですか?」

店員⑥ 「そうなんです。アイドルのグラビアを撮影していました。

     よし今度はケチャップを付けてみようか?」

男性  「あ、はい。こうですか?」

店員⑥ 「いいよ~! 目線はカメラを外して、あっちにしてみて。」


パシャパシャ!(カメラで撮影する) 


店員⑥ 「よし、ちょっと食べてみようか?」

男性  「いや、まだ、かなり熱そうですし…。」

店員⑥ 「いいじゃん。食べてよ。さぁさぁ!」

男性  「そうですか…。(ポテトを食べて) あっつ~!」

店員⑥ 「いいね! 最高!」


パシャパシャ!(カメラで撮影する)


店員⑥ 「すごくセクシーだね!」

男性  「どこがですか!? 

     いや~、先輩、この店、飽きませんね。」

先輩  「そうだろ? 

     なにより、お前が元気になったのが良かったよ。」

男性  「だって、この店、楽しいですもん。

     そういや、石焼ビビンバはまだかな?」

先輩  「あの女の店員さんに聞いてみようか。」

男性  「そうですね!」

先輩  「ちょっと、石焼ビビンバを頼んでるんだけど、まだかな?」

店員⑦ 「え~っと…、注文は通っておりますね。」

先輩  「そう? その割に遅いな。なぁ?」


先ほどまでとは打って変わって、

急に男性の元気がなくなった。


男性  「そ、そうですね…。」

先輩  「他の注文した物はもう来てるんだよ。なぁ?」

男性  「そ、そうです…。全部、来ています…。」

店員⑦ 「確認しますので、少々お待ち下さい。」

先輩  「頼むよ。あれ? 今の女性、別に普通だったな。

     あの人は何の“元”なのかな?」

男性  「…そ、そうでしたね。普通でしたね…。」

先輩  「どうしたんだ? さっきまであんなに

     元気だったのに。酔っぱらったのか?」

男性  「ち、違います。ただ、さっきの店員さんが、

     何の“元”か知ってまして…。

先輩  「そうなのか? あの人、元・何なの?」

男性   「さっきの女性、僕の“元・嫁”です…。」


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