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忌むべき場所

―8―


 アヤカの指示に従って訪れた場所は、街から遠く離れた岸壁に存在する洞窟だった。タケルはそのすぐ前に、町で借りた黒い素材の馬車を止めて後ろに乗っている二人に声を掛ける。


「気を引き締めて行くぞ」


すると、馬車の壁に寄りかかっていたアルマはゆっくりと頷き、床で寝息を立てて寝ていたおっさんは欠伸をした。

タケルはそれにやや不快な顔をしつつも、二人と同じ場所に乗せてある自分の猟銃を取ろうとする。


しかし、

彼が銃に手を伸ばしたところで、二匹の馬が急に暴れ出し、馬車を引きずって街の方へと走り出した。


「お、おいっ! 」


タケルは慌てて馬車の中に身を乗りだし、自分の銃を掴む。おっさんは中途半端に乗り込んでいるタケルの腕を掴んで車内に引っ張り上げ、アルマは馬車の側面についた窓から、後ろに銃口を向けた。


「来るよ! 」


その直後、アルマの高い声が聞こえる。

タケルは反応するように彼女とは反対の窓から後ろを見た。


「なんて数だ……! 」


確認できるだけでも10……いや、15はいる。それも、全て中型以上のサイズだ。そして、更にまた、馬たちの悲鳴が響く。進行方向に身をよじれば、そこでは馬の一匹が異獣に食われていた。


「タケル! こっちにもいるよ! 」


それから、アルマが告げたのは頭上の危険。大きな影が馬車に上から迫り、骨組みを軽々と踏み壊す。


3人はすんでの所で飛び出したが、もう馬車は使い物にならない。


「くそっ! 」


顔に皺を寄せるタケルの前で、おっさんは剣の柄を握って、機敏な動きで洞窟側の異獣を次々と斬り伏せた。そこに聞こえる、


「まったく、帰りは徒歩かよ」


という気だるげな声。アルマも無言で自分の銃を握って、異獣を退けて行く。タケルは足を絡ませそうになりながらも、洞窟に近づく二人を追いかけた。


短い逃走劇の後、洞窟に入ると、異獣は追ってこなくなる。


アルマはそれを確認して、息を切らしているタケルに声を掛けた。


「大丈夫? 」


タケルが地面に座って彼女の言葉に頷く。おっさんは笑った。


「はは、今じゃセンセーよりも生徒の方がよっぽど名実ともに優秀だな」


タケルは鋭い目付きでおっさんを睨む。


「……うるさい」


だが、次の声はおっさんの軽口ではなく、何か大きな獣の唸り声だった。

アルマは銃を洞窟の奥に構えて言う。


「あれが、《王さま》……? 」


彼女の視線の先にあるのは、数多の口がついた巨大なアメーバ状の化け物。タケルは首を横に振った。


「……いや、違う」


あの日見たのは、あの日村を飲み込んだのは、あれじゃない。警戒する二人の前で、化け物は瞬きだけを繰り返し、じっとしている。ように見えた。


背後が急に暗くなり、洞窟全体が黒に染まる。それは、あの異獣が体を伸ばし、入り口を塞いだからだ。


タケルはそれにすぐに気がつき、銃弾を入ってきた方向に放つ。だが、化け物はまるで引かず、むしろ、銃弾が当たった場所や、周囲の壁じゅうの口が開いて攻撃体制に入ってしまった。おっさんは剣を握り直して周囲を(うかが)い、二人に声を掛ける。


「奥の方が薄いな。破って行くぞ」


二人が頷くと、彼は剣を構えて壁に接近し、その骨の様な色の剣を大きく振り回した。地を揺らすような衝撃と共に拓かれる穴。三人はその先へと走る。しかし、勿論それで終わりではない。


「おっさん、追いかけてくるぞ! 」


化け物は姿に似合わず高速で、壁を崩しながらタケル達を追いかけてきた。おっさんは一人立ち止まってアメーバの身体を切り裂く。


「チビ邪魔だ! さっさと奥に行け! 」


タケルも一瞬立ち止まったが、大きな何かが崩れる音を聞いて、アルマの手を取って走りだした。


「分かったよ! どうにか広い場所を探して待ってる! 」


いきなり手を掴まれたアルマは、目を大きく開いて叫ぶ。


「タケル! あの人が! 」


タケルは首を振って、厳しい顔でアルマを睨んだ。


「大丈夫だよ。それより、俺たちは俺たちの心配をするんだ」


直後、目の前に光る牙。

先ほど見たのとは別のアメーバモンスターが行き先を塞ぐ。アルマは青ざめた。


「そんな……! 」


銃を持って立ち止まる彼女の前で、タケルは銃を構えて、異獣の口を狙い撃つ。


「アルマも撃て! 破るぞ! 」


言われたアルマも急いで射撃を始めた。

だが、それにより黒い液体は飛び散るものの、通り道はできない。更に、焦る二人の耳に聞こえたのは、なにかの軋むような音。アルマは気がついてタケルの腕を掴んで包むように抱き寄せる。


「は? アルマ、何を!? 」


途端に天井が崩れた。

大岩が降り注ぎ、軋んでいた地面も落ちる。落下しながらタケルが見たのは、開いた天井から見下ろす、大蜘蛛の姿と……。


「馬鹿、野郎……! 」


降ってきた岩に打たれ、傷だらけで共に落ちていくアルマの姿である。


助けようと伸ばした手。

しかし、タケルの意識はそこで暗転した。



《つづく》

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