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紛れ込んだもの

―6―


 傷付いていたのは足だけではないのか、嵐の様な弾丸に撃ち抜かれ、ヒトガリは呆気なく地面に落ちる。


それでも、指揮を執る女は右手を大きく前へと伸ばして大声でがなった。


「攻撃を止めるな! 」


銃を持った集団はボロ切れ同然のヒトガリを、二度と立ち上がらないように撃ちまくる。


ヒトガリからは、ガラスの割れる様な音が聞こえ、暫くして何かが溶けるように黒い液体が辺りに広がった。


女はそれを確認すると、兵隊たちに銃を下げさせる。周囲の視線は、死体から転がり落ち、綺麗に割れた模様入りの黒い珠へと移った。タケルは小さく呟く。


「ヒトガリは、異獣……? 」


人型の異獣など聞いたことがない。

指揮官の女は従えていた狩人たちに後の処理を頼むと、タケルに歩み寄って説明した。


「知らないのも無理ないでしょうね。異獣が《そういう性質》を持つこと自体、世間には公表されていないから」


タケルは女の顔をしっかり見て、ようやく、彼女のことを思い出す。彼は声を張り上げて彼女に聞いた。


「あなた、アヤカさん……ですよね? なんであなたが狩人の指揮なんてしてるんですか!? 《そういう性質》ってなんの事ですか!? 」


アヤカというのは、とある依頼の依頼人である。依頼内容は確か、家に侵入してしまった異獣の排除だった。タケルはその依頼を数十人の狩人たちと共にこなしている。特に問題も起こらなかった、よくある依頼。普通なら忘れてしまうようなありきたりな内容を、タケルが覚えていたのは、彼女が依頼の後……。


アヤカはタケルの質問には答えず、反対に聞いた。


「それで、依頼はこなしてくれた? 」


気分は悪いが、言い返しても無駄だろう。タケルはアヤカの目を見て答えた。


「……ええ。確かに、あれは《息子さん》でしたよ」


ヒトガリの顔、覚えているはずだ。

彼女に何度も写真と共に説明されたのだから。


息子の死体を異獣に奪われた、と。


突拍子もない内容で、誰も取り合わない中、タケルだけは、必死に訴える母親の言葉に同情し、個人的にだが彼女の息子の捜索を続けていた。


依頼の理由はそれだろうか。

いや、ただ自分の欲のために権力を振るうことが許されなかっただけかもしれない。


どちらにせよ、アヤカは少し目線を下げて、小さな声と共に頷く。


「そう、ありがとう」


言葉の後、彼女がポケットから取り出した紙はタケルに渡った。


「これは約束してた報酬。両親の仇、とれるといいね」


タケルは礼をしてそれを受けとる。


「……必ず取りますよ」


するとアヤカはついでのように付け加えた。


「ああ、そうそう。これから街に残っている異獣を一掃するんだけど、タケルくんも手伝わない? 報酬は十分な額を保証するから」


街の方に目をやれば、狩人たちは回収ケース内に溜まった黒い液体と、透明な薬品を混ぜてヒビなどに塗り、壊れた家を補修したり、別の薬品を掛けて黒い瓦礫を溶かしている。どうやら、既に復旧作業が始まっているようだ。

アヤカに誘われたタケルは、急に顔色を悪くする。


「え、ええと。い、今からですか? 」


アヤカは首を傾げて聞いた。


「そうだけど、何か問題? 」


タケルは顔から大量の汗を流して、


「も、問題というか……。ちょっと用事が……。な! おっさん!? 」


と早口に言葉を連ね、後ろを振り向く。そして、気がついた。

噛みつかれた辺りまでは確かに一緒に戦っていたはずのおっさんの姿が何処にもないのだ。


「ちっ! 逃げやがったな! 」


タケルは自分の銃を拾って、額に血管を浮かべ、街の中へと全力疾走する。アヤカは何が起こったのかよく分からなかったが、タケルの背中を追いかけて声を掛けた。


「タケルくん!」


タケルは青ざめた顔で振り向く。

アヤカはタケルに忠告した。


「幹部に上がって分かったの、ヒトガリのような異獣は他の街で何体か確認されている。この街にもまだいるかもしれない。見つけたら私に直接連絡して」


タケルは彼女の言葉に軽く頷いて、また走り出す。アルマはその姿を、遠くからただじっと見つめていた。


ふと、その横を気配が通りすぎる。

覚えのあるその気配を目で追うと、そこは死体の在った場所だ。だが、あるはずの人間の死体はなく、あるのは黒い液体のみである。


そして、急に辺りが騒がしくなった。


それは黒服の男達が現れて、何かをアヤカに言い放ったからである。何を言われたのかは分からなかったが、アヤカは悲しそうな、悔しそうな顔をしていた。



《つづく》

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