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籠の中

―5―


 迫る大口を目の前にして、タケルは銃身に手を掛け、それを力一杯振り下ろした。


「食われて、たまるかっ!」


振り下ろされたそれは間違いなく異獣のチューブを捉える。だが、それでも化け物の動きは止まらず、多数の牙がタケルの身体に食らいついた。


「……っ! 」


血が吹き出し、肉が抉れる。


「そいつを離せっ! 」


すぐに気がついたおっさんが、タケルに噛みついたチューブに剣を振り下ろし、タケルを解放した。タケルは傷ついた腹を押さえながらおっさんに言う。


「……悪い、助かった」


おっさんは返答せず、彼から目を背けるように、また剣を持って走り出した。

タケルも弾の無くなった銃を地面に置いて、足元の瓦礫片を手に取る。近くでそれを見ていたアルマは小さく呟いた。


「なん……で……? 」


タケルは住人の一人に食いかかろうとしたチューブに建物の黒い破片を投げて、声を上げる。


「こっちだ、化け物! 」


チューブは自分を攻撃してきたタケルに狙いを変えた。飛びかかってきたチューブをタケルは横に飛び退いて、ギリギリでかわし、


「どこ見てやがる! 」


それから、腹を押さえながらも挑発するように走り出す。今度は逃がさない、異獣はしっかりと狙いを定めた。すると、どこかから化け物に向かって石ころが飛んできて、化け物は後ろを振り返る。


「……こ、こっちだ! 」


それは、先ほど助けた中年の男が投げたものだ。彼は震え、後退りながらも、必死に声を出す。タケルは目を見開いて、彼を怒鳴った。


「おい、なにやってんだ! 危ないぞ! 」


頭を震わせた異獣の標的は中年の男に変わり、彼は息を切らして走り出す。タケルは急いで投げられそうな建物の破片を拾って化け物に投げつけた。


「……ちっ! こっちを向け! 」


だが、化け物はこちらを向かず、中年の男を瞬く間に追い詰めていく。

すると今度は、右からガラスの破片がいくつも化け物に向かって飛んできた。


「え……? 」


そちらに目をやると、母親と共に割れた窓ガラスに前にたっていた子供が、その破片を一心不乱に異獣に投げつけている。子供は血まみれの手でガラス片を握り、震える声で、それでも威勢よく叫んだ。


「化け物め! やっつけてやる! 」


隣にいた母親も青ざめながら、決意したように破片を手に取る。


「そ、そうだ! どっかいけ! 」


それに釣られて、その場にいた人々も少しずつ、化け物に物を投げつけ始めた。

そして、化け物が混乱したようすで、周囲を見回すと、それを囲む声は少しずつ大きくなっていく。


「出ていけ! 」「どっかいけ! 」

「化け物め! 」「やっつけてやる! 」

「死んでしまえ! 」「殺してやる! 」


それは何度めの掛け声だっただろうか。

誰かが投げた熊のぬいぐるみが当たった途端に、異獣の様子が可笑しくなった。


「どうしたんだ……!? 」


急に苦しそうに身体を捻って、猫の様な悲鳴を上げて倒れ込む。黒い壁は沸騰したように表面に気泡を吹き上げ、布に塩酸を浴びせたかの如く溶け落ち始めた。溶けた壁の向こうから、崩れかけた街に数十人単位の人が駆け込んでくる。


「勝った、のか? 」


心配する人。嘆く人。それから……。


一団の中には、銃を持ってただ何かを待ち構える人間たちもいた。その先頭に立つ50代ほどの女は指示をする。


「奴はこの中に居る。準備をしなさい」


その声はごく最近に耳にしたような気がしたが、それよりも、並ぶ銃の異常な雰囲気に、タケルは背後を振り返った。


するとそこには……。


「……ヒトガリ!! 」


千切れた足を庇いながらも、倒れたビルの壁を蹴り、飛ぶように移動する灰色フードの姿。タケルは習慣からか、地面に置いた銃を目掛けて走り出す。


次の瞬間。


「撃てっ! 」


掛け声と共に一斉放射が始まった。



《つづく》

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