偽りの人型
―3―
今度こそ、狙いを外さなかった。
弾丸は確かにフードの頭を撃ち抜き、黒い液体を散らしたのだ。
だが、
「あ……ああ……!? 」
アルマの震えは止まるどころか、益々酷くなる。なぜなら、目の前には頭を撃ち抜かれた筈の《人間》が両手で大剣を持ちながら、なぜかまだ立っていて、その瞳を静かにタケルの方に移したからだ。
「タケ……ル! 」
フードの体勢が変わり、消えるようにタケルの方へと移動する。タケルは目を見開いた。
(こいつが………ヒトガリ!? )
※―――※
「ヒトガリの調査を頼みたいの」
高官の女が告げた依頼。
それは、5年ほど前から騒がれている、《大量殺人犯》――ヒトガリについてのものである。内容は、
「奴は今、きっと町に潜んでいる。見つけ次第、《中身》を確認して」
普段からフードを被っているヒトガリの《姿》を確認するだけの簡単なもの。
だが、受けてしまったのは失敗だった。
まさか今、出会うなんて。
まさか、ただの人間がこんなに強いなんて。
※―――※
(勝てない……死ぬ……? )
相手の動きが見えない、間合いが保てない。これは即ち、大きすぎる実力差を示している。
(俺は……まだ……! )
それでも一理の希望に賭けて、銃を横に持ち、剣撃を防ごうとした。
カキン。
鈍い音が聞こえる。
それは猟銃の折れた音? それとも命の費えた音? 予想はどちらも違っていた。
「まったく、なにやってんだ。仕事熱心も大概にしろ。命がいくつあっても足りねぇぞ」
目の前にあるのは見慣れた背中。
それが片手に持った大剣で、同じ色の大剣を持ち主ごと吹き飛ばす。
吹き飛ばされた衝撃でフードが外れ、露になるヒトガリの顔。そして、その腐りかけて片目の取れた悲惨な顔に、タケルは一瞬目を奪われた。
(この顔、どこかで……)
それは名前までは思い出せないが、確かに記憶にある顔である。ところが、おっさんはそれに気づいていないのか、
「おい、お前、選べ。大人しく此処から逃げるか、食われるか」
と落ち着き払った声で化け物に言った。化け物は暫しの間、おっさんの目を見つめる。おっさんはその様子にため息をついた。
「何処を見てるんだ。食うのは俺じゃないぞ……あれだ」
それから、そっと空を指差す。
空にはそこを覆い尽くす程に大きい、臼のような異獣の姿があった。
「な、なんだよ! あれ! 」
それは、タケルも見たことがない大きな化け物である。おっさんはヒトガリが後退り、背中を見せたのを確認すると、剣を肩に置いて言った。
「さぁな、俺もさっき見つけた所だ。とにかく、移動するぞ」
タケルはおっさんの言葉に頷く。
その瞬間、口つきの黒いチューブのようなものが空からタケルに向かってきた。
「!! 」
おっさんは即座に二人の前に移動すると、剣を振るってそれを弾く。
「急げ、出来る限り走れ! 」
周囲を見渡せば、チューブは臼怪物の身体から大量に生え、たった数秒で、街は崩壊し始めていた。タケルは慌てて座り込んだままのアルマの手を取って起こそうとする。しかし、
「アルマ……? 」
アルマは化け物を見上げたまま、動かなかった。
《つづく》