もう1つの終幕
―15―
始祖の獣の問いかけに、猟銃の狩人は答えた。
「……そうだな、旅に出よう」
獣は大きく目を見開いて、口を閉じられないでいる。
「は? 」
どうやら、予想外の答えだったようだ。
瞬きをするばかりの初老の男にタケルは言う。
「聞いといてなんなんだよ。この答えじゃいけねぇのかよ」
おっさんは頭に手をやって、微妙な表情を浮かべた。
「いや……そういうわけじゃないんだが……。お前はそれでいいのか? 」
タケルはそんなおっさんの前に立ち上がって目線を下げて話す。
「……俺、考えたんだ」
おっさんは何も言わずにそれに耳を傾けた。
「アイツは憎いし、復讐したい。でも、それにまた、大切なものを失う価値があるのかって」
タケルは銃を握りしめる。
「……それで、思ったよ。そんな価値、まるでない。だから、俺は、ここから逃げようと思う」
おっさんは真剣な眼差しで聞いた。
「それで後悔しないか? 」
タケルはそれを見返して答える。
「後悔するさ。でも、今の俺の中ではそれが最善の選択なんだ」
※―――※
薄い緑が広がる荒野の真ん中を、親子のような二人が歩いている。二人は何か言い争っている様子で、若い方が声を張り上げた。
「ほんとにこっちで合ってんのかよ! おっさん! 」
年を食った方は地図を片手に頭を掻いて答える。
「合ってるに決まってんだろ! 多分」
その返答に若い男、タケルは怒鳴った。
「多分ってそれ、迷ってんじゃねぇか! 」
初老の男、おっさんも怒鳴り返す。
「なに言ってんだ、多分は多分だろ! 絶対じゃねぇ! 万に1つ、億に1つ、正解ってこともある! 」
タケルはまた反論した。
「それ、ほぼほぼ不正解じゃねぇか! 」
二人は今、ほんの思い付きで《海》を目指している。お伽噺で語られる、河よりも湖よりも沢山の水がある場所。
おっさんはため息をついて口を尖らせた。
「はぁ、正解か不正解か、俺がお前を乗せてひとっ走りすりゃあいいんだろ」
タケルは呆れ顔で言う。
「おっさんがいくら神速でも、姿保てんのせいぜい2、3分なんだろ! そんなんじゃ焼け石に水なんだよ! 」
だが、おっさんにはそんなこと関係ないらしく、彼はさっさと異獣の姿を現して体勢を下げた。
「うるせぇよ! 行くぞ、タケル! 」
タケルは少し戸惑ってから、明るい笑顔を浮かべて答える。
「……仕方ねぇなぁ」
飛び乗った彼を乗せ、おっさんは透明な水の流れる川を飛び越えた。
その後、風の噂で聞く。
アヤカの部隊は《大ボラ》を吹いたとして解散され、彼女が依頼していた研究も取り止めになった。金欠になった政府が、彼女の使い込みを看過できなくなったのだろう。
そして、それが原因かは分からないが、王の勢いは増し、異獣たちの行動も活発になった。旅の途中で出会う異獣たちの数も前とは見違えるほどに多い。増えた異獣は腹を満たすために獲物を探し、町を次々と地図から消している。
だけど、俺たちはそんな悲劇から目を反らし、旅を続ける。
きっとこの先が、
希望の道だと信じて。
《おしまい》
最後まで見届けてくれてありがとう。
あなたの真実は見つかりましたか?もし見つからないという方の中にはきっと、私とはまた別の素晴らしいエンディングがあるのでしょう。どうか、あなたの真実を大切にしてください。それでは、またどこかで。