第2章 その28 その追跡者への対処
時間も金もない。何か打開策はないものか…。
脚が治って大喜びのケリーさん。実はCランクの冒険者で、依頼を終えて街に戻る途中でグラスウルフ達に襲われ、ボスであったシュタルクに不意を突かれて噛み付かれたってのが経緯らしい。因みに職業は忍者で元は探掘士。治療費を稼ぐ為に臨時のギルド職員になっていたとの事。
「本当に助かったよ。これでまた冒険者として生活出来る。接客なんて、元から柄じゃ無かったからな」
うん、良かったね。それよりも治療費くれないものかな。本当に嬉しくて、私の手を手厚く握手する様にブンブン振ってくる気持ちも分からないではないけども。
「ケリーさん、そろそろアルフの手を離してくれるかしら?それとアルフと約束したわよね?」
ちょっと黒いオーラを立ち上らせた我が母様ことエミーに言われて冷静になったケリーさん。そして慌てた様に胸ポケット…いや其処は胸の谷間と革鎧の間やん。其処から金銭袋を取り出して、金貨をテーブルの上に積み上げていく。合計十八枚。
「ゴメンな、手持ちとしちゃ、それが限界なんだ。何なら何晩か添い寝でも…」
「ケリー?」
不穏な事を言ってくるケリーさんに、更に黒いオーラを立ち上らせるエミー。流石に「冗談ですよ、嫌だなぁはははっ」と乾いた笑いで誤魔化していた。
◇◇◇
結局、ブーツの買取額は一足銀貨七十枚。二十足出したので、銀貨千四百枚。そして『防汚効果』や『蒸れ防止』等の効果が付いた物に関しては、追加で銀貨百二十枚プラスする事になり、合計銀貨二千二十枚。金貨二十枚と銀貨二十枚という大金が手に入った。
ハッキリ言って、嬉しい誤算である。片手間で作った効果の弱い物だけしか売却してないにも関わらず、この売却益は美味しい。もしかして、靴系統は需要があるのだろうか。
「よくこれだけ良いブーツを作れるものだねぇ。縫製も丁寧だし、型崩れもしなさそうだ。追加効果付きなんか一生ものだよ」
え?いやいや、この程度なら誰でも…作れないのか?冷静になって考えれば、効果無しで銀貨七十枚。換算で七十万…いやクソ高いな!前世の靴なんか五万もすれば高級品だ。庶民なら数千円のもので一年は充分に保つ。そう考えて…ケリーさんやギルド職員の足下を見ると、失礼だが結構ボロい。麻製のものが主流なのだろうか。あれじゃ土踏まずとかの、クッション部分とか殆ど無いぞ。ケリーさんは冒険者だからかブーツだけど、それでも傷だらけで薄そうな鞣した革である。素材や作り方で、かなり金額が変わるのかもしれない。
「なぁ、アルフ君。私にも一足売ってくれないか?金貨一枚出すから」
ふむ。まぁ、治療費も私に支払って厳しいだろうし、良いか。ウエストバッグから、一足出す。女性だし『蒸れ防止』効果の付いた薄い青のブーツを取り出す。セレナ様用にいくつか作った余りである。
「じゃこれどうぞ。確かに金貨一枚、毎度ありです」
「ありがとう、大事にす…え?なんで青いの?いや、可愛いけども。ていうか効果付きじゃもっと…」
「更に毟り取る様な真似出来ませんよ。もう殆ど無いでしょ?」
「あ!いや…ハァ。歳下にこんなにやり込められるとは思わなかったよ。では、有難く」
結局、金貨四十枚近く稼ぐ事が出来たのだし、私としては充分。それに今日は色々と買い物しなきゃいけないからね。
在庫のブーツをある程度一掃出来て、ギルドを後にした私達は色々な食材や調味料などを探して街を散策する。細長いが確実に米(ラウスって名前)があって涙し、魚醤ではない醤油があって涙し、味噌があって涙した。ただ、醤油も味噌も前世での大豆ではなく、緑豆に似たものから作られる様で、若干風味が違う。砂糖や香辛料は小売でかなり割高。原産が夏の大陸で、其方でしか作られないとの事。何れも大量に購入して、エミーやオズに苦笑いされたのは言うまでもなく。
◇◇◇◇◇
和気藹々と、家族での食料や調味料等の買い物を済ませて…未だに追跡してくる光点が一つ。街中なので距離は若干短くなった(それでも三百メル)が、此方が追い込める程の近くではない。野営時に使う金物などを物色しても、店の中にいてもほぼ距離が変わらず。これではいつまでもついて来そうだし、振り切るのも難しいだろう。
宿に戻り、夕飯を済ませた後、女将さんに事情を説明すると腕捲りをして「そんな奴ぁ、あたいが叩きのめしてやるよ」と言ってくれたが、無事に宥めて夜中に出立する事を話した。
そして夜中、鐘三つの頃に灯りも点けずに起き出す。エミーもオズもAランクの冒険者。灯りも無いのに、殆ど音を立てずに出立の準備を済ませた。まぁ、私の場合はほぼ魔法鞄に荷物入れてるから準備も大して無いのだけれど。
厩に行き、ロドルとペルニーに顔を出すと声を上げそうにしたので、人差し指を立てて口に当て「しー」と声立てんなと表現してやると、ロドルも同じ様に右手…いや右羽根を口元に持って来て同じ真似をした。此奴、本当に頭良いな。横でペルニーも真似をして頭を私の顔まで下げて来る。頭を撫でながら、ロドルだけじゃなくドゥバード達が頭が良いのかと思い直す。先ずは馬車を魔法鞄に収納し、私の両脇にロドルとペルニーを配置して首を撫でる様に触る。前後にエミーとオズが其々、私の肩に手を乗せて準備完了。眼の端に映る光点は動きが全くないので、寝ているのだろう。エミーに眼で合図すると、緊張はしているのだろうけど頷いてくる。
それでは森の家まで転移。
◆◆◆◆◆
朝、黒茶けた革鎧を身に付けたその男は起き出して、早速向かいの宿の気配を確かめ…慌てた。朝食も摂らずに飛び出し、向かいの宿の扉を開ける。
「昨日まで、この宿に泊まってた三人の親子連れはどうした!?」
「朝早くから騒がしい客だねぇ。なんだってんだい」
「だ、だから、親子連れはどうした!?」
「そんな客居たかねぇ。ていうか、あたいが他の客の動向を簡単に話すと思ったら大間違いさ。一昨日来な」
「チッ…」
男は気配察知のスキルを使って探すが、何処にも感じない。本来、一ハウル(一時間)程なら馬車で移動されても察知する程のレベルなのに、何処にも引っ掛からない。確かに男は寝ていた。だが一ハウル程で気配察知を繰り返していたのだ。それを…逆に気取られていた、腐ってもAランクは伊達じゃないって事か。
男は冷静さを取り戻す為、大きく息をしてから宿を出る。
「家探すだけの筈が…王都…はありえねぇ。ならオストーの街が怪しいか。チッ、面倒なこったぜ」
泊まっていた宿の厩に行き、深緑の羽根毛のドゥバードに乗り南進していった。
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