改訂版 prologue 1st その事故が異世界の扉
2019/04/30 Prologue 1st を纏めました。読み易くして、文字数も増えております。是非此方からどうぞ。
何台もの車両が通過して行く…
赤いテールランプを横目に見ながら、男は手に持った赤色誘導灯を振って通行を促す。
男は既にアラフィフと言われる中年。これまで様々な職業を経て来た彼は、今は交通整理の警備員。
性格は至って真面目。その男の本質のせいか趣味や仕事など興味があると没頭するが、ある程度【知ってしまう】と飽きてしまう為に万能であるが一流になれるだけの才能は無い。器用貧乏とも言う。
人付き合いもそれなりにこなすが、あまり深入りもしない。過去に恋人は何人かいたが、結婚まで至っていない。自身が、思い描く理想の男性像でない事や状況、そして自信がない故に。
◇◇◇◇◇
ふと左腕の時計を見る。
「おっと、もう時間過ぎてるな…」
一頻り車両が通過し、切れたところで帰り支度を始める。
「今日の夕飯は何にしますかねぇ…」
独り言ちながら、テキパキと片付ける。工事をしてた責任者の所へ行って、本日の業務終了の挨拶をする。
「今日はこれで終わります」
「お疲れさ〜ん。次はいつ?」
「次は明後日ですね。お疲れ様でした、お先に失礼します」
責任者に挨拶し、駐車場に停めている車に乗る。キーを差し込んで、セルを回しエンジンを掛ける。シートベルトを締めてミラーで安全確認。緩やかに発車し、通りへ車を走らせる。
暫く走っていると、前方の車両がやけに左右にふらついている。危ないなぁと思い、普段よりも車間を大目に空けて進む。注意深く見て走行していたら、急に前方の車が大きく右にふらつき中央線を超えて対向車線の歩道側のガードレールに思いっきりぶつかる。
「マジかぁ」と思ったその時、対向車線側を走っていた大型トラックが驚き避けようとハンドルを右に切ったのか、私の車の正面に飛び出してくる。反射的に左の方へハンドルを切ると同時にブレーキを踏むが、間に合わずにぶつかってしまう。衝撃のせいか全身がガクガクと前後に震える。
右眼が痛くて閉じ、左眼で何気なくトラックを見る。そのまま左側の歩道へ突っ込んで行く。通りから大きな悲鳴がいくつも上がっている。身体を動かそうとするも、ぶつかった衝撃で車の前部分が潰れ挟まれて全く動けない。無理に動かそうとすると、全身から激痛が走り苦痛の呻きを挙げてしまう。目の前が赤くなり、やがて段々と黒く染まって……意識が途切れた。
◇◇◇◇◇
意識を取り戻す。目の前…どころか周り全てが真っ暗のまま。「はて?」と不思議がりながらも今の状況に至るまでを整理する。
「トラックとぶつかって…死後の世界?」
周りを見直しても、暗き闇しかない。事故死だったのなら走馬灯を見るのではないか?とか実は夢の中なのだろうかと、思いを巡らせる。
急に、顔の正面辺りに白き光が浮かび上がり、眩しくて右手で遮りながらもそれが何かを確かめようとする。人影なのか?と更に注視して見ていると、女性っぽい輪郭に思えた。
「……あー、あー、テス、テス。マイクのテスト中…」
「…はい?」
聴こえてきたのは甲高く、それでいて威厳のある声なのだが…台詞の内容に困惑しながらも、光を纏ったその女性を更に注視する。
「…メモ、メモ……ごほん。あー貴方はお亡くなりになりました。ついては私の世界に転生する事になりましたので、お見知り置きを」
よく解らない台詞を棒読みで喋ってきた光の女性は更に私に告げる。
「付きましては転生するにあたり、私からの【祝福】をひとつ差し上げたいと思いますー。何か御希望はありますーか?」
更に棒読み。ただ、言い切れて満足したのか鼻息がフンスーフンスー言っている。これ一体なんなんよ?
ちょっと冷静に考えて…ああ、これは夢だと、夢の中でゲームをしているんだと決め付ける。なら話は早い。
「え〜っと、いくつか質問しても宜しいでしょうか?」
「え?…はい、どうぞ」
「まず貴女様はどなたなのでしょう?」
「そういえば、名乗っておりませんでしたね。私は創造神グランデ。貴方がいた世界とは別の異世界、ソウルグランディアの神です」
そう言ってコレでもかと胸を張る。スタイリッシュにも思えるが、光と影の輪郭でしかないのでハッキリと分からない。暫し考え…成る程、確かにコレは夢の中でゲーム、それも体感型のゲームなのだと。此処数日ずっと、そんな内容の小説を読んでいたせいで夢を見ているのだろうと思い至る。
「いえ、ゆ…」
「ではグランデ様。再確認ですが私は死んで、その…ソウルグランディアってところへ転生するって事ですね?」
「そ、そうですね」
「私は選ばれたって事ですか?」
「いえ、貴方の住む世界で亡くなった方々は、全てソウルグランディアに転生します。極一部は転移する事もありますが」
ふむ、全て転生、一部は転移…て事は私は選ばれた訳ではなく、選ばれるとしたら転移者の方って事か。
ん?なんかグランデ様が少し震える様な…まるでトイレを我慢している様な…。いや、まだ質問せねば。
「その世界は、剣と魔法の世界ですか?」
「…そうですね、他には【才能】もあります」
「種族は人間だけですか?」
「……いえ、エルフやドワーフ、ホビット…他、に、は、獣人や魔人など色々…いますね……」
なんかグランデ様の震えが大きくなっている様な…まぁ良い。夢なら願いは…。
「貴方が欲しい【祝福】は、なん…」
「生まれ変わるなら、ハーフエルフで。【祝福】は【悠々自適】で!」
「…はぃ?」
「種族はハーフエルフ、悠々自適で。では宜しくお願いします」
私は頭を下げる。見えないがグランデ様は困った様な、でも早くしないと震えが我慢出来なくなる様なイメージが浮かぶ。そしてこれ以上は、時間を掛けられないとばかりにグランデ様が答える。
「…んん〜…分かりました。ではその様に…」
そう答えるが早いか、白き光がグランデ様から放射状に広がっていき…完全に白の世界に包まれた時、私はまたも意識を失った。
◇◇◇◇◇その後のグランデ様◇◇◇◇◇
「ふう〜」
汗は掻いていませんが、精神的なケアとも考えて額の汗を拭う様な仕草をし、大きく息を吐く。特に最初はキツかった。緊張し過ぎてトイレに行きたい等と、転生する魂に向かって言えるものではない。
兎も角、ようやくノルマが終わったので、異空間に左手を突っ込み、湯呑みを取り出す。今度は右手を異空間に突っ込み急須を取り出すと、湯呑みにお茶を注いでいく。態々、異空間に手を突っ込まなくても、ちょっと意識するだけで卓袱台とクッションが出てくる。
女神に…一つの世界の創造神として就任してから、こういう時は便利だなと思う瞬間です。
お茶を注ぎ終わり、卓袱台に湯呑みと急須を置き、クッションの柔らかさを確かめて座る。
「やっと6人分終わりましたねぇ」
独り言ちると、湯呑みを両手で挟む様に持って…ずずっとお茶を飲む。私はようやく肩の荷が下りたと、両肩を回す様に動かす。
しばらくすると、ひとりの女性がその空間に入って来ました。
「や〜や〜や〜、グランデちゃん。お疲れぇ〜お疲れ〜」
「お疲れ〜じゃないですよ!大変だったんですからね!」
「急な仕事が入んなきゃ、グランデちゃんに任せなかったんだけどね〜」
声を掛けてきたのは、ルシェール。この世界の生と死を司る女神、私のサポートをしてくれる従属神の一人です。確か崩壊する他の世界の処へ視察に行ってたのでしたか。他の世界ってどうなんでしょう?ハッキリ言って他の世界と比べる時間…というか、私自身がこの世界から動けないから比べる事すら出来ないのが擬かしいです。このソウルグランディアって世界は、他と比べて上手くいってるのでしょうか?出来て未だ二千年余りですが。
「ごめんねぇ〜、で?大丈夫だった?」
「もっ、もっもっ、もちのロンですよ⁉︎問題なんかありません!」
問われて思わず吃ってしまいました。その態度に訝しんだルシェールは、サッと手を振ってブラウン管テレビを出し、何やらガチャガチャと操作し始めました。
多分、失敗は…失敗はしてない…大丈夫だったはずです。
「……なあグランデちゃん。なんで一人、祝福持ってんの?」
「………え?」
ルシェールは画面を見つめています。あれ?えっと〜確か転生者六人でしたよね?久し振りだったから、間違えない様にメモしていたんです。転生者用と、転移者用の台詞を間違えない様に。そして転生者用の紙をポッケに…あれ?二枚ありますね。
「もしかして、転移者と勘違いしてた?」
「ええええっ!…と…あった!……ああああああああっ⁉︎」
くしゃくしゃになったメモを二枚とも取り出して…内容がゴッチャになってます。分けて書いたつもりだったのに、転生者の魂と相対するのは久しぶりだったので、間違えない様に書いたつもりが緊張して書いたのが間違いでした。血の気が引く様な感覚に襲われます。
「……種族は…まぁ面白そうだし、記憶消してないの3人もいるってのもあれだけどさ、この人に与えた祝福は…まずいんでない?」
「…はい?」
「これ…どう見ても、あんたの能力そのものじゃん?」
言われて思わずブラウン管テレビに齧り付いき、映し出されている女性のお腹を、中の胎児をよく視ると…。
「……………やっちゃった………あは、あははは……」
思わず、頭を抱えてしまうくらいの失敗です。でも彼はまだ胎児。暫くは様子を見ましょう。どう転ぶかは未だ分かりませんが。それに…遠い過去…まだ神の頂にも届いていない頃に好きだった彼に似ているのも…あの貴方に無意識に都合良くしてしまった原因かもしれません。
誤字脱字等ありましたら、ご報告頂けると幸いです。読んで頂いた方々に感謝を。
ブックマーク、評価を頂けると拙筆な私も意欲が(笑)宜しくお願いします。